製造業の営業部門が抱える6つの課題!導入必須の効率化策とは
(画像=Ico Maker/shutterstock.com)

製造業では、高い技術力を持って製品を開発・生産していても、営業力が低ければ売り上げを伸ばせません。もちろん、製品の品質は重要ですが、良い品物を追求するあまり営業部門への投資が不足している企業も少なくありません。

2021年経済産業省企業活動基本調査によると、2020年の実績で製造業が売上高204.9億円と前年度比5.7%の減少となっています。同調査によると、2020年の製造業における売上高経常利益率は、6.5%と前年より0.5%上昇していますが、労働生産性は1,075万9,000円と前年より2.3%低下しています。

売上高や労働生産性の低下は、新型コロナウイルスの影響だけでは片付けられません。単純に営業部門の人材を雇用するだけでなく、進化する周囲の環境に合わせたシステム構築が求められます。

今回は、デジタルトランスフォーメーション(DX)が叫ばれる中で、中小規模の製造業における営業部門が抱える課題を解決する方法を解説します。

目次

  1. 製造業の営業部門が抱える6つの課題
  2. 製造業で営業の重要性が高まっている理由
  3. 営業力を強化する方法
  4. 製造業の営業を効率化する課題解決ツール
  5. 製造業の営業活動を変革する新規顧客獲得に向けた手法
  6. 営業部門の課題克服は組織全体の底上げのチャンス

製造業の営業部門が抱える6つの課題

製造業の営業部門における問題は、自社製品が持つ特性や仕事内容に関する理解不足により組織内の連携がうまく機能しないことが要因で起きることが考えられます。製造業の営業部門が抱える主な課題について説明します。

技術営業の人材がいない

製造業の営業担当者は、基本的に自社製品の訴求ポイントを説明し、自社商品の導入を提案する商談に力を注ぎます。しかし、自社製品の技術的な部分になると、わかりやすく説明するのが難しいと感じてしまう担当者もいるでしょう。製品開発の技術に関する専門知識を持つ技術営業の人材がいれば、営業担当者と同行して、技術的な部分をわかりやすく説明することが可能になります。

また、製品やサービスがあふれる現代は買い手市場です。競合他社に勝つためには、製品に関するトラブルやクレームなどが発生したときの対応まで気を抜けません。そのためにも、技術面に明るい営業担当者が必要になるでしょう。

中小規模の製造業では、経営者が技術営業を担当するケースも少なくありません。経営者が技術営業の人材を育てるまで至っていないのが現状です。それだけ技術営業の育成は労力と費用を必要とします。

長期契約中の相手を変更しにくい

製造業は、長期契約中の発注先との関係性に割って入りにくい業界です。受託加工の製造業では、特に大きなトラブルがない限り、長期契約中の相手を変更しない傾向があります。とはいえ、経営者の交代や事業再編など、営業の機会はいつ訪れるか分かりません。そのため、製造業では将来を見越した「御用聞き営業」が浸透しています。御用聞き営業は、営業効率が悪く生産性を下げる要因になっています。

開発現場との連携がとりにくい

製造業の現場では、開発部門と営業部門が情報を共有できていないという課題を抱えています。部門間の連携ができていない要因としては、匠(たくみ)の技に自信を持っている開発部門と、顧客の要望を直接受けている顧客目線の営業部門との間の意識のズレが考えられるでしょう。特に技術営業の人材が少ない企業では、部門間を取り持つ人がいないため、部門間の連携が困難な状況に陥る可能性があります。

営業部門への投資が足りない

製造業の中には、技術開発への投資として製造工場のIT化に着手しても、営業部門は従来のままというケースがあります。製造工場の生産性を上げることは重要ですが、同時に営業活動の効率化も考えなければ企業全体の収益性を向上させることは難しいでしょう。

営業手法が属人化しやすい

製造業の営業活動では、前述した御用聞き営業のような、効率の悪い手法が残っているため、営業手法も担当者に依存していることがあります。営業担当者個人の能力に依存していると、営業手法の属人化を招くでしょう。

営業手法のマニュアル化が進んでいない企業では、業務の属人化が業績を不安定にします。営業担当者個人に依存していると、優秀な担当者が退職した際に業績が悪化する可能性があるからです。

営業戦略を立てるのが難しい

現代は、消費者ニーズが多様化しているため、効果的な営業戦略を立てるのが難しくなっています。消費者ニーズの変化に合わせた営業活動を展開するためには、膨大な量の情報を精査しなければなりません。営業担当者の経験による見解だけでは判断できない状況になっています。

製造業で営業の重要性が高まっている理由

製造業で営業の重要性が高まっている背景には、自社製品の価値と体験が情報として重視されるようになったことがあります。現代では、企業の開発した製品が品質の良いものだとしても、利用する顧客が価値を感じなければ、売れなくなっています。単に製品のスペックを説明するだけでは、売れない時代になっているのです。

それも、インターネットから手軽に情報を入手できる生活インフラが後押しをしています。消費者は、自分の意思で情報を見つけたうえで製品の持つ価値を判断するでしょう。さらに製品を体験した先の未来を確信することで購買行動に至ります。

現代は、売り込みをすれば買ってもらえる時代ではなくなっています。そのため、いくら製造部門が技術開発に力を注いだ製品でも、製品の価値が顧客に伝わらなければ思ったように購入してもらえません。製造業は、技術開発推進するだけではなく、営業活動も時代に合わせて改革するという考え方が必要です。

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営業力を強化する方法

製造業の抱える課題解決に向けて営業力を強化するためには、組織全体の課題として取り組むことが必要です。 製造業の営業部門の課題を解決するための具体的な方法について説明します。

営業部門への投資

製造業で、製造部門のIT化を進めているのであれば、営業部門への投資も同時進行で行う必要があります。ひと昔前の営業部署には「足で稼げ」という考え方を重視する雰囲気がありました。この考えは、訪問営業が全盛期だった時代の産物です。テレワークやワーケーションが活用されている現代では、「場所や時間を選ばないで顧客と接点を持てるか」がポイントになるでしょう。

そのため、営業部門への投資は、顧客を訪問する体力ではなく、効率よく情報を管理できるデバイスに向かおうとしています。営業担当者が持つタブレットやパソコンのスペックは、オンライン商談に耐えうるものになっているでしょうか。もし、デバイスを古いOSのまま更新しないで使っている状態であれば、そのあたりから営業部門への投資を考えるべきでしょう。

営業手法のマニュアルを共有することで属人化を防止

営業部門の現場では、営業手法に関するマニュアルを作成して共有できれば、属人化を防げます。担当者個人が持つ営業手法のノウハウを紙ベースやExcelデータのメール添付などによって共有している状況では、営業部門全体で情報共有ができているとはいえません。

コロナを機に、テレワークが広く普及したことで、リモートによる情報共有が欠かせなくなりました。これが営業部門の現場を一変させることになっています。ビデオ会議システムやチャットツール、クラウド上のデータ管理を避けて通れない時代になっています。営業部門の中でクラウド上のシステムを用いた情報共有を進めることは、営業活動の属人化を防ぎ、部門内の誰もが高い水準の業務を遂行できるようにする効果があります。

営業部門に業務アプリケーションの導入

製造業における営業部門では、営業活動の業務全体を管理できるシステムを導入することが望ましいでしょう。営業活動の業務全般を一元管理できる業務アプリケーションの導入により、業務プロセス全体についての共通認識が得られるようになります。業務プロセスの共通認識があれば、マニュアル化も容易です。また、日々の営業活動の内容を記録したデータを蓄積して分析することにより、営業部門の課題を把握し、効果的な営業戦略の立案ができるようになります。

営業手法やKPIを可視化して組織全体で共有

製造業の課題解決には、営業手法だけではなく、営業活動のKPI(重要業績評価指標)を設定し、部門間で可視化して共有することが必要です。課題を解決する際は、具体的な数値やその数値に到達するための小さな業務目標を設定して進捗管理をすることが重要なポイントとなるでしょう。

製造業の営業を効率化する課題解決ツール

製造業の営業活動の改革を進める際は、効率化する部分と人が判断する部分に分けることが必要です。人が判断する部分は、メンバー全員でデータの共有ができれば認識の食い違いを防げるでしょう。また、効率化は営業活動における定型業務の自動化で実現できます。

データ管理や定型業務の自動化などは、それぞれ適したツールがあります。ツールを有効活用して業務システムの改善を図ることが課題解決につながるでしょう。営業活動に役立つツールを紹介します。

  • ビデオ会議システム:リモート会議やオンライン商談など非対面営業に活用するツール
  • チャットツール:電話やメールより手軽にコミュニケーションをとれるビジネスチャットツール
  • SFA(Sales Force Automation):営業活動をフェーズごとに一元管理する営業支援ツール
  • CRM(Customer Relationship Management):顧客との関係性の構築に役立つ顧客管理システム

ビデオ会議システム

ビデオ会議システムは、インターネットを介した対面で映像と音声を共有できます。ビデオを通した対話だけではなく、クラウド上の資料を共有してリアルタイムで商談を進められる点が特徴です。会場の広さを気にせず、多人数や個別の打ち合わせもできます。

ビデオ会議システムの活用は、商談のために移動する手間やコストを省けます。時間さえ合えば、移動の時間を考えないで遠隔で商談を進められるため、一日の商談数も増やせるでしょう。

製造業の技術営業には、ビデオ会議システムのクラウド環境で資料をリアルタイムに共有できる点が役立ちます。あらかじめクラウド上に必要な資料を用意しておけば、顧客のトラブル対応にも迅速に対応できるでしょう。

チャットツール

チャットツールは、電話やメールの手間を省き、気軽にやり取りできるコミュニケーションツールです。電話の場合は、お互いの時間が合わなければかけ直しの手間が生じます。メールにしても、相手先アドレスを探したり件名を入力したりと手間が掛かるでしょう。特に組織で利用する場合は、グループを作成した多人数のコミュニケーションを実現できるため、企業の情報共有に役立ちます。

SFA

SFAは、営業活動の現状や予測を可視化し、一元管理できる営業支援ツールです。次のような、営業活動における情報を簡単に共有できます。

  • 現在予定されている商談
  • 案件単位のフェーズごとの進捗(しんちょく)状況

営業部門の情報共有ができるようになるため、営業活動における課題を把握し、効果的な営業戦略を立てるために役立つでしょう。

CRM

CRMは、顧客リストを一元管理し、詳細な項目で分析できるツールです。顧客属性や関係性ごとに、顧客情報や顧客とのやり取りの履歴をデータベースで管理できるため、急な都合で商談担当者の変更が必要になっても、顧客との過去のやり取りや今後の予定などを確認することが可能です。CRMを導入すると、顧客に関するデータを可視化して、精度の高い分析をすることが可能になるため、非効率な御用聞き営業ではなく、既存顧客の関係性を強化することにも役立ちます。

SFAとCRM

製造業の営業活動を変革する新規顧客獲得に向けた手法

最近は、効率良く新規顧客を獲得するためにオンラインツールの活用が進んでいます。製造業の営業活動に活用できるツールをご紹介します。

オンライン展示会・ウェビナー

オンライン展示会やウェビナー(ウェブセミナー)は、インターネット上で開催するイベントです。製造業の営業活動では、自社製品の紹介するための展示会やセミナーを開催することで見込み客の集客に役立ちます。見込み顧客が興味や関心を持つテーマでオンライン展示会やウェビナーを開催すれば、効率良く見込み客を集めることができるでしょう。

オンライン展示会やウェビナーは、実際の会場で開催するよりも出展コストを大幅に削減できる点がメリットです。イベント開催後は、アフターフォローメールなどを活用することで、関係性の強化につなげられます。

ウェブ広告

ウェブ広告は、すぐに結果を確認できる新規顧客獲得の手法です。短期的な集客を目的に、期間限定のキャンペーンを活用することもできます。

ウェブ広告は、ターゲットを絞り込むことで、顕在層へのアプローチが可能です。ただし、長期施策としては、掲載費用を継続的に投入しなければならないという点に注意が必要です。コスト割れも考えられるため、費用対効果を確認しながら運用する必要があります。

自社ウェブメディア

自社サイトの運用は、長期的にウェブ上の資産となる手法です。自社ウェブサイトは、単なる会社紹介にとどまらず、見込み度のある潜在層を集客する役割も担っています。ウェブサイトは、広告掲載とは異なり、長期的に検索エンジンの評価を積み重ねられます。SNSやオンライン展示会など、ウェブ上で施す取り組みとかけ合わせることでより効果を高められるでしょう。

SNS

SNSは、自社ビジネスのファンを増やす要素を持った手法です。Facebook(フェイスブック)やInstagram(インスタグラム)、Twitter(ツイッター)などを使って、興味関心を持つ層に向けた情報を継続的に発信します。必要に応じて有料のSNS広告を出稿することも可能です。

SNSの活用は、自社製品に対して「〇〇といえば〇〇」などという認知拡大に向けたブランディング効果を期待できます。自社ウェブサイトと連携することで、潜在層の獲得につながるでしょう。

メール

メールは、SFAやCRMで管理している商談前の顧客の見込み度を高めるために活用されることが多いです。ウェブサイトやSNSとは異なり、1対1のコミュニケーションの場でより詳細なやり取りに役立つでしょう。CRMで管理している顧客情報に基づき、適切なタイミングでメールを配信することにより、見込み客に対して効果的にアプローチできる可能性もあります。

営業部門の課題克服は組織全体の底上げのチャンス

営業部門の課題克服に向けた取り組みは、組織全体の収益性向上につながる絶好の機会です。データ共有が容易になった現代において、部門間の連携をためらっていては時代の変化から取り残されてしまいます。製造業の営業部門は、従来の御用聞き営業から、効果的な営業戦略を立案できる部署に生まれ変わる必要があります。

今後、ますます企業におけるデータ管理の重要性が高まる中で、効率化できる部分をSFAやCRMなどのシステムに任せることは、余剰時間の創出につながるでしょう。システムやツールの導入により生み出された余剰時間を有効活用すれば、新しい営業手法により販路拡大を目指すなど、新たな挑戦をすることも可能になります。

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