2025年の壁で日本はどうなる?政府と国内企業の対応策
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「2025年の壁」は、今の日本が抱える深刻なリスクです。現代社会に潜む課題を克服できないと、地方企業や中小企業は生き残れない未来が訪れるかもしれません。国内市場になぜ危険が迫っているのか、その理由や課題への対策を理解していきましょう。

目次

  1. 2025年の壁とは?あらゆる業界に影響する課題
  2. 2025年の壁で指摘される「レガシーシステム」とは?
  3. 2025年の壁を引き起こす課題
  4. 2025年の壁を克服するための対応策
  5. 2025年の崖に向けて国内企業ができること
  6. 2025年の壁は避けられないからこそ、早めの対策が必要

2025年の壁とは?あらゆる業界に影響する課題

2025年の壁とは、経済産業省によるDXレポート(※)で指摘された社会的な課題です。同レポートには、DXに向けた課題を日本社会が克服できなかった場合に、2025年から「年間最大12兆円の経済損失が生じる」と表記されました。

(※)2018年9月7日に公表された、『ITシステム「2025年の崖」の克服とDXの本格的な展開』のこと。

この指摘は多くの業界に衝撃を与え、それ以降は日本にもDXの波が広がっています。しかし、中小企業を含めると「デジタル化」にとどまっている企業が多いため、今の日本は2025年の壁が現実となるリスクを抱えています。

そもそもDXとは?今の日本になぜ必要なのか

経済産業省が公開する「デジタルガバナンス・コード2.0」において、DX(デジタルトランスフォーメーション)は以下のように定義されています。

DXの定義
企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること。

(引用:経済産業省「デジタルガバナンス・コード2.0」)

簡単に言い換えると、DXとはAIなどのデジタル技術を駆使して、これまでにはない新たなビジネスモデルを確立することです。デジタル化の波は世界中に広がっているため、国内企業がDXに対応できない場合は、グローバルな競争力や生産力を失ってしまう恐れがあります。

また、地方企業や中小企業にとってもDXは生き残り戦略の一つですが、実際に取り組んでいる企業は少ないのが現状です。

2025年の壁で指摘される「レガシーシステム」とは?

レガシーシステムとは、過去の仕組みや技術で構築された非効率なITシステムのことです。企業のDXを阻む存在であるため、レガシーシステムは2025年の壁を引き起こす主要因とされています。

レガシーシステム
レガシーシステムが構築される原因
・ITシステムの老朽化
・ITシステムの併用による肥大化や複雑化
・部分的なメンテナンスの繰り返しによるブラックボックス化

日本情報システム・ユーザー協会の「デジタル化の進展に対する意識調査(2017年)」によると、国内企業のうち約8割は老朽化したシステムを抱えています。では、社内にレガシーシステムが構築されると、どのような問題点が顕在化するのでしょうか。

非効率なシステム運用に多くのコストがかかる

一般的に、ITシステムは老朽化するほど保守回数が増えるため、レガシーシステムの運用では多くのコストがかかります。社内の人的リソースが減るだけではなく、企業によっては運用のためのエンジニアを増やさなければなりません。

また、レガシーシステムは仕組みが複雑化しているため、ベンダー企業でも問題点を見つけにくい特性があります。

ユーザー側が問題点に気づけないケースも多い

ITシステムがあまりにも複雑化した場合は、普段使っているユーザー側も問題点に気づけなくなります。このような状態で改修を依頼すると、ベンダー側は開発途中で問題点に気づくため(=初期の見積もりに含められない)、巨額な赤字案件を抱えることになります。

訴訟トラブルに発展する可能性もあるので、レガシーシステムの改修には大きなリスクを伴います。

有識者の退職でブラックボックス化がさらに進む

レガシーシステムを使い慣れている有識者が退職すると、その人材のノウハウが失われます。1人の従業員に依存している場合は、膨大なコストをかけてきたシステムが運用できなくなる恐れもあるでしょう。

また、システムに関するノウハウを喪失すると、ブラックボックス化はさらに進みます。

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2025年の壁を引き起こす課題

レガシーシステム以外にも、2025年の壁を引き起こす課題はいくつかあります。中でもIT人材の不足やコスト面の課題は、早急に取り組むべき課題として深刻視されています。

DXを推し進めるIT人材が減少傾向にある

DXを実現するには、プロジェクトを推し進めるIT人材が欠かせません。しかし、国内のIT人材は2019年から減少傾向にあり、2030年には最大で79万人ほど不足すると予想されています。

引用:経済産業省「IT人材育成の状況等について」
(画像=引用:経済産業省「IT人材育成の状況等について」)

つまり、IT人材の獲得競争は激化する可能性が高いため、人材が集まりにくい企業は別の角度からのアプローチが必要になります。

既存システムの運用・保守にリソースが割かれている

日本情報システム・ユーザー協会の「企業IT動向調査報告書 2017」によると、国内企業のIT関連費用のうち80%は、既存システムの運用・保守に割かれています。つまり、守りのIT投資への意識が強く、攻めのIT投資に回せる資金が少ないため、DXを推し進めにくい状況になっています。

DXでは、新たなデジタル技術の活用が必須になるため、現状のままでは2025年の壁は避けられないでしょう。

ユーザー企業によるベンダー企業への丸投げ

DXを加速させるデジタル技術は、環境や目的によって導入するべきものが異なります。そのため、通常はベンダー企業に開発依頼を出しますが、ユーザー企業が丸投げをするようでは最適なシステムは設計できません。

導入環境に合ったシステムは、ユーザー側のコミットメントがあって初めて完成します。しかし、専門的な人材やノウハウの不足により、システムの仕様などを定義できていないのが現状です。

ベンダー企業はそれを受け入れる文化が形成されている点も、日本ならではの問題点でしょう。

2025年の壁を克服するための対応策

経済産業省のDXレポートでは、2025年の壁を克服する対応策も提示されています。あくまで国の対応策ですが、政府と方向性を合わせることで企業のDXも加速する可能性があります。

ここからは5つの項目に分けて、どのような対応策があるのか見ていきましょう。

1.見える化指標、中立的な診断スキームの構築

経済産業省は企業が適切なガバナンス(governance)を形成できるように、「見える化指標」と「中立的な診断スキーム」の構築を計画しています。ガバナンス(governance)とは、組織全体のルールや規則を設定し、適切な管理体制を整えることです。

既存システムの問題点を見極めるには、経営陣を含む全社的な理解が必要になるため、ガバナンスの強化が欠かせません。その一歩として、経済産業省は技術的負債や情報資産、実行プロセスなどの現状を見える化する指標の策定を掲げています。

また、複雑なITシステムや導入環境を評価するために、中立的かつ簡易的な診断スキームの構築も目指されています。

2.DX推進システムガイドラインの策定

DX推進システムガイドラインは、DXに向けた体制の在り方や実行プロセスを示した資料です。DXに関する基礎知識を学べるだけではなく、経営者やステークホルダーが使うチェックリストとしても利用できます。

2022年9月からは「デジタルガバナンス・コード2.0」と名称を変えており、DXの望ましい方向性や取り組み例もまとめられています。また、経済産業省が2015年から選定する「DX銘柄(旧:攻めのIT経営銘柄)」や、コーポレートガバナンスのガイダンスと連動している点も大きな特徴です。

3.ITシステム構築のコスト・リスクを抑えるための対応策

多くの国内企業にとって、DXに向けたITシステムの構築にはリスクが伴います。また、コスト面が障害になるケースも多いので、経済産業省はコスト・リスクを抑える対応策として以下を提示しています。

コスト・リスクを抑えるための対応策
・DXにおけるゴールイメージの共有
・不要なシステムの廃棄や軽量化をサポート
・マイクロサービス等のデータを提示
・同領域で割り勘効果を期待できる共通プラットホームの構築
・デジタル技術の導入を支援する税制措置(※)
(※)「コネクテッド・インダストリーズ税制」と呼ばれる制度。2020年3月で廃止されている。

税制措置はすでに廃止されていますが、将来的に新たな制度が始まる可能性も考えられます。施策によっては補助金・助成金も活用できるため、政府による支援策は隅々までチェックしておきましょう。

4.ユーザー企業とベンダー企業の新たな関係を構築

経済産業省は、ユーザー企業とベンダー企業の関係を是正するために次の取り組みも行っています。

ユーザー企業・ベンダー企業における関係構築のための施策
・アジャイル開発などを意識した契約ガイドラインの見直し
・技術研究組合の活用
・モデル契約にトラブル対策としてのADRを促進

いくつか専門用語が登場しているため、以下で簡単に紹介しておきましょう。

アジャイル開発:開発とリリースを短期間で繰り返す開発手法のこと。
技術研究組合 :組合員が相互扶助で共同研究をするための組織。
モデル契約  :中小企業とベンダー企業が締結する契約の一種。
ADR      :「「Alternative Dispute Resolution」」の頭文字を取った、裁判外紛争解決手続のこと。

ベンダー企業に対してレガシーシステムの改修を依頼すると、想定外の問題で工期が延びることにより、訴訟などに発展する場合もあります。どちらの立場でも巻き込まれる可能性があるので、DXでは法的トラブルを想定した計画を立てましょう。

5.DX人材の育成や確保

DXを推し進める上で、ITやデジタル技術に長けた人材は欠かせません。そのため、経済産業省は企業の人材育成や確保をサポートするために、以下の施策に取り組んでいます。

DX人材の育成・確保に係る施策
・IT人材を既存システムから解放し、DX分野にシフトする
・アジャイル開発を通した事業部門人材のIT化
・デジタルスキル標準の策定や、講座認定制度の実施

上記の「デジタルスキル標準」は、企業の人材判断に役立つ資料です。DXにおける知識学習の指針(DXリテラシー標準)と、DX推進に必要なスキル(DX推進スキル標準)が定義されているため、プロジェクトを担う中心的な人材を見極めやすくなります。

2025年の崖に向けて国内企業ができること

DXでは、これまでの生産プロセスをすべて見直す必要があるため、政府や自治体に任せるだけでは実現できません。いち早く競争力をつけて生き残るには、企業側も努力をすることが求められます。

2025年の壁に向けてどのように動けば良いのか、ここからは国内企業ができることを解説します。

これからの社会と産業を明確にイメージする

企業のDXは、2025年で完了するわけではありません。激しい競争の中で生き残るには、その後もプロジェクトを推し進めていく必要があります。

しかし、具体的なイメージがないと長期計画を立てることは難しいため、まずはこれからの社会と産業を想像してみましょう。単に想像するだけではなく、すでに存在するデジタル技術を理解した上で、イメージを明確にすることが重要です。

DXで活用される代表的なデジタル技術
IoT:世の中のさまざまな製品やサービス、場所などをインターネットに接続する技術。
AI:主にビッグデータを分析・解析する人工知能のこと。
5G:高速大容量や低遅延、多数同時接続などを可能にした新しい通信規格。

すでに実用化されている技術に目を通すだけでも、優れたアイデアにつながることがあります。他にも多くのデジタル技術があるので、DXの計画を立てる前に情報収集をしておきましょう。

レガシーマイグレーションにいち早く取り組む

レガシーマイグレーションとは、ブラックボックス化された古いシステムを一新することです。一般的なレガシーシステムは、拡張性や修正容易性、応用性などが乏しいため、高いコストをかけてまで運用にこだわる必要はありません。

初期費用はかかりますが、新しいシステムによって業務効率がアップすると、運用コストや保守コストの削減につながります。導入するシステムによっては、セキュリティ面の強化も実現できるでしょう。

レガシーマイグレーションには全システムを再構築する「リビルド」のほか、新たなプログラミング言語で改修する「リライト」、クラウド上にシステム移行する「リホスト」などの方法があります。現在の運用状況や抱えている課題を見ながら、自社に適した方法を選びましょう。

根本的な生産プロセスから見直す

要求や仕様が不明確なプロジェクトは、完成品のみをリリースする従来のウォーターフォール開発よりも、アジャイル開発が向いているかもしれません。開発以外の工程についても、デジタル技術との兼ね合いを考える必要があるので、根本的な生産プロセスから見直しをしましょう。

なお、アジャイル開発には複数の契約モデルがあり、どれを選ぶかによって開発側のメリット・デメリットが変わります。

アジャイル開発の主な契約モデル

1.内製
 開発手法 :自社内で独自に開発する。
 メリット :ニーズ変化への対応が早い、コミュニケーションが容易。
 デメリット:高度なエンジニアが必要、最新技術の導入が難しい。

2.基本契約・個別契約
 開発手法 :個別契約で設定した単位ごとにリリースをする。
 メリット :成果物の仕様を最初にすべて決める必要がない。
 デメリット:契約形態が複雑、ベンダー企業に個別契約の責任が残る。

3.ジョイントベンチャー
 開発手法 :複数社で協働しながら開発する。
 メリット :ベンダー企業だけに責任が追及されない。
 デメリット:組合員が無限責任になる、収益や責任の条件設定が難しい

4.技術研究組合
 開発手法 :組合員として参画し、共同での試験研究を行う。
 メリット :組合員の責任が有限、税制優遇措置がある。
 デメリット:国による認可が必要、ベンダー企業の売上にならない。

上記の契約モデルをしっかりと比較し、自社に適した開発手法を検討してみましょう。

2025年の壁は避けられないからこそ、早めの対策が必要

日本の現状を考えると、2025年の壁はほぼ避けられないリスクです。あらゆる業界に関係するからこそ、地方企業や中小企業もDXと向き合わなければなりません。

仮に経済損失が生じなくても、社会的にDXが求められる可能性は高いため、これまでの生産プロセスを見直すことを始めてみましょう。

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