ESG投資はなぜ注目されるのか?今押さえたい現状と知識
(画像=AntonyWeerut/stock.adobe.com)

ゼロカーボンやサステナビリティなど、近年では社会的・環境的なテーマが頻出しています。これにはESG投資が関係しており、大きなコストをかけてまで活動する企業も増えてきました。なぜESGが注目されるのか、その理由や現状を押さえていきましょう。

目次

  1. ESG投資とは?世界中に広がる新たなトレンド
  2. ESG投資の急拡大と市場規模
  3. ESG投資の代表的な種類
  4. ESG投資はなぜ拡大している?投資家側のメリット
  5. ESG投資に潜むデメリットとは?市場縮小のリスクも
  6. ESG投資にはどんな対象がある?個人向けの商品も増加傾向に
  7. ESG投資は企業の将来性を左右するキーワードに

ESG投資とは?世界中に広がる新たなトレンド

ESG投資とは、「環境・社会・ガバナンス」の観点から投資先を選ぶ手法です。それぞれの英語の頭文字(Environment・Social・Governance)を取った造語であり、欧米を中心に新たな投資のトレンドとして注目されています。

従来の投資では、資産や負債、売上などの財務情報から投資先を判断する方法が主流でした。それに対して、ESG投資で重視される情報は「非財務情報」と呼ばれており、社会的意義のある事業に取り組む企業や、持続的な成長を遂げる企業などに注目が集まっています。

ESG投資とSDGsの関係性

ESG投資は、2015年の国連サミットで採択された「SDGs(エス・ディー・ジーズ)」と深い関わりがあります。

SDGsとは、地球上の社会問題・環境問題を解決するために提唱された世界的な目標です。17のゴールと169のターゲットで構成されており、ゴールの例としては「エネルギーをみんなに そしてクリーンに」や「住み続けられるまちづくりを」などがあります。

企業が抱えるESG課題(※)と、SDGsのゴール・ターゲットには多くの共通点があり、いずれも持続可能な社会の実現を目標としています。

(※)環境・社会・ガバナンスの観点から、企業などが取り組むべき課題のこと。

ESGとSDGs

国連によるPRI(国連責任投資原則)も注目の要因に

2006年に国連が提唱した「PRI(国連責任投資原則)」も、ESG投資が注目された要因です。PRIは機関投資家などが原則とする国際的なプラットホームであり、ESG投資に関する6つの方針が設けられています。

PRIの原則
1.私たちは投資分析と意思決定のプロセスにESG課題を組み込みます。
2.私たちは活動的な所有者となり、所有方針と所有習慣にESG問題を組み入れます。
3.私たちは、投資対象の企業に対してESG課題についての適切な開示を求めます。
4.私たちは、資産運用業界において本原則が受け入れられ、実行に移されるよう働きかけを行います。
5.私たちは、本原則を実行する際の効果を高めるために、協働します。
6.私たちは、本原則の実行に関する活動状況や進捗状況に関して報告します。

(引用:財務省「ESG投資について」

機関投資家は市場に大きな影響を及ぼすため、PRIに賛同する機関が増えるほど、ESG投資が広がっていく可能性は高まります。

ESG投資の急拡大と市場規模

SDGsが2015年に採択された影響で、それ以降はESG投資の市場規模が急拡大しています。

三菱総合研究所(MRI)によると、世界のESG投資額は2015年末時点で662億ドルであったのに対し、2021年末には9,281億ドルに増加しています。その伸び率は6年間で約14倍であり、2016年時点ではすでに世界の投資額のうち4分の1をESG投資が占めていました。

引用:三菱総合研究所「図1 世界の地域別ESG投資額変化」
(画像=引用:三菱総合研究所「図1 世界の地域別ESG投資額変化」)

ESG投資の拡大は日本にも広がっており、エネルギー分野や製造業分野を中心にグリーン投資額(※)が増加しています。

(※)地球温暖化などの環境問題に配慮した投資額のこと。

欧米に比べると規模は小さめですが、SDGsが採択されてからのグリーン投資額の推移を見ると、ESG投資の拡大は2022年以降も続くと考えられます。

公的機関もESG投資額を増やしている

日本の公的年金を運用する「GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)」は、2017年から1兆円規模のESG投資を始めました。同機関は、ESG課題に取り組む銘柄で構成される「ESG指数」を投資基準にしており、指数会社に対しては採用基準の公開を要請しています。

GPIFが採用しているESG投資指数の例
・FTSE Blossom Japan Index
・MSCI ACWI ESGユニバーサル指数
・MSCI 日本株 女性活躍指数(WIN)

また、アメリカ最大の公的年金基金「カルパース(カリフォルニア州職員退職年金基金)」も、投資基準にESGを組み込んでいる機関です。このような動きが世界中に広がると、企業の非財務情報に興味を示す一般投資家が増えるため、ESG投資はますます拡大すると予想されます

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ESG投資の代表的な種類

GPIFはESG指数をもとに投資先を選んでいますが、ESG投資には他にも多くの種類があります。資金調達を受ける企業側は、どのような非財務情報が重視されるのかを押さえる必要があるでしょう。

ここからは代表的な7種類に分けて、ESG投資の手法を解説していきます。

1.倫理や人道に反するものを排除する「ネガティブ・スクリーニング」

ネガティブ・スクリーニングは、投資先として適さない要件を定めておき、該当する企業やプロジェクトなどを除外する方法です。

ネガティブ・スクリーニングの例
・アルコールやたばこ、ギャンブル関連を排除する(倫理的観点)
・武器の輸出会社や製造会社などを排除する(人道的観点)
・有害物質を発生させるビジネスやプロジェクトを排除する(環境保護の観点)

上記の中でもギャンブルなどの倫理的観点に反する銘柄は、「罪ある株」と呼ばれています。

2.ESG格付の高い企業へ投資する「ポジティブ・スクリーニング」

ネガティブ・スクリーニングに対して、ESGの観点から評価・指数が高い企業への投資は「ポジティブ・スクリーニング」と呼ばれます。判断材料としては、外部機関によるESG関連の指数や、ESG課題への評価などが用いられます。

2017年5月には、ドイツ復興金融公庫(政府系金融機関)が採用したことで話題となりました。

3.財務情報と非財務情報から判断する「ESGインテグレーション」

環境・社会・ガバメントで構成される非財務情報のほか、従来の財務情報も投資判断に加える手法です。ESGの観点に偏ることなく、企業の成長性や将来性を総合的に判断できます。

日本での採用例が多く、基本的にはプロである投資マネジャーが組み入れる銘柄などを決めます。

4.投資先企業に直接働きかける「エンゲージメントと議決権行使」

建設的な対話であるエンゲージメントと、株主に与えられる議決権を活用して、企業に直接働きかける手法です。投資先の企業がESG課題へと取り組むように、株主総会などで投資家としての意思を示します。

上記のESGインテグレーションと並び、国内の機関投資家から多く採用されています。

5.国際規範から投資先を除外する「規範に基づくスクリーニング」

国際規範に反する投資先を除外する手法です。ネガティブ・スクリーニングに似ていますが、こちらの手法では「国連グローバルコンパクト」や「OECD多国籍企業ガイドライン」などの規範が活用されます。

採用する国際規範によって基準は変わりますが、主なテーマとしては気候変動問題や人権問題、労働問題などがあります。

6.設定したテーマで投資先を選ぶ「サステナビリティテーマ投資」

「サステナビリティ(持続可能性)」をテーマとして、以下のような分野に投資をする手法です。

サステナビリティテーマ投資の例
・クリーンエネルギー
・グリーンテクノロジー
・持続可能な農業

投資先としては個別銘柄(株式)のほか、債券などの資産も含まれます。また、最近ではグリーンボンドファンドをはじめ、専門の投資信託も見られるようになりました。

7.ESG活動の世間的な影響を重視する「インパクト投資」

社会的または環境的なインパクトを重視して、投資先の企業やプロジェクトを選ぶ手法です。中でも、地域活性化を目的としたものは「コミュニティ投資」と呼ばれています。

投資信託などの金融商品では、環境・社会への貢献度を可視化するインパクト測定が行われます。

ESG投資はなぜ拡大している?投資家側のメリット

ESG投資では非財務情報を重視するため、一見すると非効率な投資に感じるかもしれません。では、なぜESG投資の市場規模が拡大しているのでしょうか。

投資先となる企業側は、投資家の意向を踏まえてビジネスプランを考えることが重要です。ここからは、ESG投資で得られる3つのメリットを見ていきましょう。

メリット1.市場拡大にともなったリターンを期待できる

ESG投資の規模がこのまま拡大すると、多くの一般投資家が興味を示すため、関連企業の価値は上がると考えられます。つまり、早い段階でESG投資を行っている投資家は、大きな先行者利益(リターン)を得られる可能性があります。

しかし、ESG投資には不安定な側面もあり、2022年5月には株式型ファンドから20億ドルの資金が流出したと報道されています。サステナブルなビジネスを装う「グリーンウォッシュ企業」の存在もあるため、必ずしもリターンを得られるとは限りません。

財務情報をベースにした投資とは特性が異なるので、これからの状況次第では市場が縮小する可能性も念頭に置いておきましょう

メリット2.長期投資によるリスク軽減効果がある

投資における平均収益率は、期間が長引くほど安定する傾向にあります。つまり、ESG投資のような長期投資では、損失リスクの軽減効果を期待できます。

環境・社会・ガバナンスに関するプロジェクトは、その多くが年単位で運用されるものです。成果が出るまでに長い時間を要するため、基本的には投資家側も長期運用を前提としています。

この点を踏まえると、企業によるESG活動は安定した資金調達につながるかもしれません。

メリット3.環境や社会に貢献できる

SDGsなどの影響で、近年ではサステナブルな製品に注目する消費者も増えてきました。そのような人にとっては、ESG投資も環境や社会に貢献できる選択肢です。

例えば、再生可能エネルギーに関連する個別株を選ぶと、間接的には環境への取り組みを応援する形になります。その資金によってプロジェクトが加速すれば、環境意識が高い投資家は一つの目的を達成したことになるでしょう。

ESG投資に潜むデメリットとは?市場縮小のリスクも

投資家にとってESG投資は新たな選択肢であり、企業の立場では成長戦略や資金調達手段になり得ます。しかし、従来の投資にはないデメリットも潜んでいるため、市場拡大がこのまま続くとは限りません。

ここからは、市場縮小につながる主なデメリットを見ていきましょう。

デメリット1.グリーンウォッシュをすべて排除することが難しい

前述で紹介したグリーンウォッシュは、ESG投資の代表的なリスクです。見せかけの活動をする企業が増えると、持続的な成長やリターンを見込めなくなるため、投資先としての魅力が薄れます。

国連などがグリーンウォッシュを排除する動きはありますが、過度な規制強化はESG活動に取り組む企業を圧迫します。また、すでに世界中の企業がESG活動を始めているため、グリーンウォッシュをすべて排除することは難しいでしょう。

これからESG活動を始める企業は、日本政府や海外機関の動向もチェックしながら、状況に合わせて計画を立てることが必要です。

デメリット2.短期のリターンは期待しづらい

ESGの考え方は、企業が長期的な成長を遂げるために生み出されたものです。中でも環境や社会に関する問題は、コストをかけてもすぐに解決できるわけではありません。

そのため、ESG投資には短期のリターンを期待しづらい特性があります。長期を前提にしている投資家が多いとはいえ、投資の幅が狭まる点はデメリットとなるでしょう。

また、ESG活動に取り組む企業側も、短期間では成果を出しづらい傾向にあります。将来の企業価値向上にはつながりますが、投資コストをすぐに回収できない点は注意が必要です。

デメリット3.情報開示のルールが十分に整備されていない

ESG活動の情報開示では、経済産業省や気候関連財務情報開示タスクフォース、国際会計基準財団などのフレームワークが用いられます。国際的に統合されたフレームワークもありますが、現状では明確なルールがありません。

積極的に情報開示をしている企業は見られるものの、その内容は各企業に委ねられています。基準となるルールが十分に整備されない限りは、企業側としても正しい方向性を見極めづらいでしょう。

ESG投資にはどんな対象がある?個人向けの商品も増加傾向に

ESG投資の主な対象は、ESG活動に取り組んでいる企業です。参考として、以下ではGPIFが採用している「MSCI 日本株 女性活躍指数(WIN)」の構成銘柄を見てみましょう。

組入上位銘柄 投資比率
トヨタ自動車 4.6%
東京海上ホールディングス 4.1%
東京エレクトロン 3.7%
リクルートホールディングス 3.5%
任天堂 3.3%
HOYA 3.1%
KDDI 2.4%
伊藤忠商事 2.1%
三菱商事 1.9%
中外製薬 1.6%

(※2022年11月30日時点)

ほかのESG指数についても、基本的にはESG活動に積極的な企業が組み込まれています。ESG投資の対象として評価されている企業を把握したい方は、主なESG指数の目論見書などを確認してみましょう。

また、個人向けの金融商品が増えている点も、ESG投資における近年の変化です。

ESG投資における個人向け商品の例
・GPIFが採用するESG指数をベンチマークにした投資信託
・環境や水資源などをテーマにしたファンド
・企業や自治体が発行する、グリーンプロジェクトに関する債券(グリーンボンド)

上記のような個人向け商品が増えると、一般投資家から注目される可能性が高まると予想されます。 投資信託や債券などの金融商品が、「どのような活動を評価しているのか」や「どういったプロジェクトを支援しているのか」などを分析し、ESG投資の方向性やトレンドを見極めましょう。

ESG投資は企業の将来性を左右するキーワードに

公的機関がポートフォリオに取りいれるなど、ESG投資への注目は着実に広がっています。欧米には及びませんが、日本国内でもESG投資の市場規模は拡大しており、特にグリーン投資額は2014年頃から右肩上がりの状態です。

そのため、資金調達を受ける企業側としても、「ESG」は将来のビジネスを左右するキーワードとなるでしょう。世の中の企業がどのような取り組みをしているのかチェックし、長期的な経営戦略を考えてみてください。

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