産業用ロボット、医療・ホテル・物流・レストランなど多分野で革新
(画像=Damian/stock.adobe.com)

産業用ロボットは製造業における生産性向上の切り札として普及し、その需要は今でも右肩上がりだといいます。少子高齢化社会の人手不足を解消する手段として注目を集める産業用ロボットの現状とその導入方法について知っておきましょう。

目次

  1. 産業用ロボットの現状
  2. 産業用ロボットに向いている現場
  3. 産業用ロボットのメリットとデメリット
  4. 産業用ロボットの導入と運用方法
  5. 日本の主要な産業用ロボットメーカー
  6. 産業用ロボットのこれから

産業用ロボットの現状

人手不足やDXの影響から、産業用ロボットの需要は上昇傾向にあります。これまで産業用ロボットがたどってきた歴史を振り返りながら、現状をみてみましょう。

日本では、1952年の高度経済成長期に入ると、さまざまな産業で機械化が進んでいきます。世界的にも大量生産における優位性が確立されていったこの時代に、産業用ロボットの生産が始まりました。アメリカの企業と技術提携した川崎重工業では1969年からロボットの生産が始まっています。

当初、自動車のスポット溶接に使用されていましたが、その後産業用ロボットへの期待は高まり、需要はどんどん拡大していきます。

産業用ロボットの製造および出荷台数推移
出典:国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構 ロボット白書2014

年表の通り、オイルショックなどを経ても生産量は総じて右肩上がりです。1990年代からは中国経済の進展を背景に海外向けの生産が伸びています。2009年の落ち込みは、リーマンショックによるものですが、その後すぐに立ち直っています。一方で、国内向けの出荷量は減少しており、今後の日本の産業用ロボットは世界とのシェア競争になっていきます。

NEDO(国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構)によると、今後は製造業だけでなく案内や受付、飲食業などサービス業への進出が見込まれており、その生産量はさらに上がると予想されています。

2035年に向けたロボット産業の将来市場予測 2010年4月23日プレスリリースより
出典:国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構

産業用ロボットに向いている現場

産業用ロボットというと、自動車工場で溶接をするアーム型ロボットを思い浮かべる人も多いと思いますが、その活躍場所は工場だけではありません。現代では実にさまざまな産業用ロボットが活躍しています。

では、産業用ロボットを導入するのに向いている現場とはどのようなところなのでしょうか。現代では次のような職場も想定されています。

医療

医療の分野では内視鏡下手術支援ロボット「ダ・ヴィンチ」が有名です。「ダ・ヴィンチ」は、数カ所の小さな切開部から手術を行えるので、手術後の回復が早く、患者の負担が小さくて済みます。3Dハイビジョン画像を見ながら医師の手の動きを正確に再現して手術を行うことができます。

ホテル

高度なコンシェルジュサービスを伴わないホテルでのチェックインは、機械的に行うことができるでしょう。現に自動チェックイン機を備えたホテルは多く存在し、H.I.S.ホテルホールディングス株式会社がブランド展開する「変なホテル」はロボットが接客することをセールスポイントにしています。

レストラン

レストランのホール係の手間を減らすために配膳用ロボットが普及しつつあります。このほかにも複雑な形状をもった種類の多い和食の食器を洗うための専用ロボットも存在します。

警備

5GやAIを活用して、人間の警備員の代わりに巡回警備を行うセキュリティロボットがすでに導入されています。障害物や人を避け自立走行ができるほか、エレベーターに乗り各階を移動することも可能です。ルート上で異常を検知すれば、通報する、また不審者と判断すれば音声やライトで警告するなどの措置がとれるといいます。

介護

介護分野の人員不足は深刻です。厚生労働省も「介護ロボット開発・普及推進室」を立ち上げて介護ロボットの普及に補助金を出すなどして力を入れています。介護する作業を支援するものが多く介護者の腰痛を防止するため体に装着するタイプや、要介護者のベッドに敷いて姿勢を監視できるもの、歩行訓練などリハビリを支援するものもあります。

物流

大型の物流倉庫では、移動する棚と運搬用のロボットを連携したシステムの導入が進んでおり現代の物流に不可欠です。

このほかにも土木、農業など産業用ロボットはあらゆる産業に進出するようになりました。自動車工場の溶接から始まった産業用ロボットは、いまや産業全体の生産性を向上させる切り札として期待される存在になっているのです。

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産業用ロボットのメリットとデメリット

人手不足問題を解消する手段として期待される産業用ロボットについて、そのメリットとデメリットを整理してみましょう。

産業用ロボットのメリット

産業用ロボットの導入により、人手不足の解消や作業スピードの向上が期待できるほか、生産性も向上するでしょう。製造業ではヒューマンエラーの防止、品質の安定、24時間の稼働体制といったメリットも挙げられます。さらに、危険な個所をロボットに任せることで労災のリスクを避けることもできます。

コスト削減の面では人件費の削減が真っ先に挙げられるでしょう。ロボットでできる仕事はロボットにシフトして、人間はもっと人間でなければできない仕事を行っていけば、事業全体として生産性が上がっていきます。

産業用ロボットのデメリット

初期費用が高額になるほか、故障時に備える必要があります。また、難しい動作を伴うロボットにおいては、検査や操作に資格が必要な場合もあるでしょう。

そのほか、操作を誤ると危険なケースや、ロボットのサイズによっては設置するスペースを用意しておく必要も生じます。

産業用ロボットの導入と運用方法

産業用ロボットを導入するためにはどういう手順で進めていったらよいのでしょうか。順番に見ていきます。

産業用ロボットで何を解決したいのか明確にする

ロボットの効用ばかりに注目が集まり、導入そのものが目的になってしまうと導入後に何をしたらよいのかわからなくなってしまいます。これでは高額な投資が無駄になってしまいかねません。解決すべき課題をはっきりとさせておきましょう

産業用ロボットに関する情報を収集する

導入したい産業用ロボットに関する情報を収集します。どんなことができてどんなことができないのか、コスト対効果が適当であるかどうか十分に知識を持っておくことが重要です。

導入するロボットの要件をはっきりさせる

十分に情報収集ができたら、自社の課題を解決するために産業用ロボットが備えていなければならない要件をはっきりとさせます。この作業によって、どのような産業用ロボットを導入すればよいのかが明確になります。

メーカーと機種の選定

メーカーの担当者に、導入したい産業用ロボットの要件を示して機種を選定していきます。こちらで必要とする要件を満たすロボットが見つからない場合は、要件そのものを見直す必要も出てきます。

運用方法の決定

産業用ロボットを導入することで仕事の流れが大きく変化しますので、運用方法については十分に検討しなければなりません。人の作業内容や場合によっては部署異動も考えられますので慎重に検討しなければならないフェーズになります。

産業用ロボット特別教育について

産業用ロボットを使用する場合、労働安全衛生法に定める特別の教育が必要になるケースがあります。法律により、「一定の危険・有害な業務に労働者を就かせるときは、事業者は、その業務に関する安全または衛生に関する特別の教育を行わなければならない」とされているからです(労働安全衛生法第59条第3項(特別教育))。

産業用ロボットに関わる業務が特別教育の対象になっているのは、人為的なミスから大きな事故が起こる可能性を理由としています。機械に挟まれる・巻き込まれる・倒されるなどにより労働災害が発生した例もあります。

安全に産業用ロボットを運用するためには産業用ロボットの知識や操作技術が必要とされ、これらは特別教育の対象となっています。産業用ロボットに関する特別教育には次の2つの業務が定められています。

  • 産業用ロボットの教示(ティーチング)などの業務
    産業用ロボットの教示等の業務とは、産業用ロボットに動作をプログラミングさせる作業です。ロボットの動作設定、変更、確認を行います。これらの作業は産業用ロボットの可動範囲で行いますが、可動範囲の外で可動範囲内の人と協力して作業をする人も対象になります。

  • 産業用ロボットの検査などの業務
    産業用ロボットの検査等の業務とは、産業用ロボットの運転中に検査や修理・調整などを行う業務です。可動範囲でメンテナンスを行う人ということになりますが、これ以外にも可動範囲の外で可動範囲内の人と協力して作業をする人も対象になります。

なお、出力が80W未満の産業用ロボットは特別教育の対象外となっています。特別教育は所定の労働安全衛生センターで受けることができ、終了すれば修了証を受け取ることができます。

産業用ロボット特別教育について

日本の主要な産業用ロボットメーカー

2022年現在における主要な産業用ロボットメーカーを紹介します。

FANAC(ファナック:日本)

創業以来、工場の自動化一筋にこれを専業としてきたメーカーです。NC、サーボ、レーザーからなるFA(ファクトリオートメーション)事業とこれを応用したロボット事業を展開しています。工場の建屋も従業員のユニフォームも、製品もすべてが目に鮮やかな黄色であることが目印になっており、非常に印象的なビジュアルです。

ファナックが提供しているのは、ファクトリオートメーション用の機器やシステムで、産業用ロボットはその中の一分野にすぎません。しかし日本でも世界でもこの分野で非常に大きなシェアを誇っており、製造業では誰もが知るところです。

ファナックの産業用ロボットの種類としては製造業用に特化しています。機械加工・電気・電子・食品・飲料の分野でAIや画像判断、故障前検知機能などを備えたロボットが活躍しています。

安川電機(日本)

1915年創業の歴史ある会社で、モーターのメーカーとして発展してきた歴史を持ちます。モーターが事業の柱であることは現在でも変わりなく、ACサーボコントローラやインバータなど、またエレベーター、エスカレーター、空調などで使われる社会インフラに必要不可欠なもの(モーションコントロール)を作っており、これが収益の48%を占めています(2022年2月期)。

産業用ロボットはこれらサーボモーターを応用した機器として開発された経緯がありますが、現在では安川電機の収益の37%を占め、モーションコントロール部門に次ぐ事業となっています。自動車、半導体、電子部品、バイオメディカル、食品、物流などの分野に使われています。

ABB(スイス)

ABBはスイスに本社を置く産業用電機メーカーです。スウェーデンのASEAとスイスのBrown Boveriが合併して設立されました。同社の事業には、エレクトリフィケーション、プロセスオートメーション、モーション、ロボティクス&ディスクリート・オートメーションの4分野があり、産業用ロボットはそのうちの一分野になります。

同社の特徴は、人間が働く場所で動かす『協働ロボット』を世界で最初に作ったことです。人間と同じように2本の腕を持った双腕ロボットで、小さくて軽いものの組み立てなどに威力を発揮します。人と一緒に作業するための安全性を備えており、これによってロボットと人との協働が、スピードと効率性を向上させることを証明してきたと言えます。

川崎重工(日本)

川崎重工は日本で最初に産業用ロボットを開発したメーカーです。自動車の溶接用に1969年に発表した国産初の産業用ロボット「川崎ユニメート2000」がそれで、日本のロボット産業発展の先駆けとなりました。

川崎重工は明治時代に造船業として始まり、蒸気機関車、航空機、油圧機器、モーターサイクルなど総合重工メーカーとして培ってきた基盤技術があります。川崎重工の産業用ロボットはその積み重ねた技術が生かされて、食品・金属・物流・医薬品などさまざまな分野で導入されています。

川崎重工の西神戸工場にはロボットショールームがあり、同社のロボットがどのような機能があるのか、その活用シーンを見ることができるようになっています。

KUKA(ドイツ)

KUKAはドイツに本社を置くオートメーションソリューションを提供する会社です。世界に25の子会社を持ち、ロボットのシェアは世界2位を誇ります。

KUKAの産業用ロボットが導入されている業種は非常に多岐にわたっています。自動車、Eコマース、エレクトロニクス、医療、消費財、金属のほか、テーマパークのアミューズメントなども手掛けています。

インダストリー4.0ということが言われてきましたが、ドイツ発祥の同社にはそれをリードする企業としての自覚があり、そのことがWEBページにも書かれています。

産業用ロボットのこれから

産業用ロボットの普及促進は政府が積極的に取り組んでいる政策でもあります。2015年に首相官邸から 「ロボット新戦略」が発表され、ロボットに関する施策が提示されました。2019年には、経済産業省より「ロボットによる社会変革推進計画」が発表され、ロボットを取り巻く環境変化を踏まえ、さらなる推進にむけた分野横断施策が体系化されています。

こうした経緯も踏まえ、産業用ロボットの導入を促す動きは今後ますます加速していくことが予想されます。経済産業省では、ロボットを導入しやすい環境(ロボットフレンドリー(ロボフレ)環境)を実現するため、2019年度に「ロボット実装モデル構築推進タスクフォース(TF)」を設置、2020年度から「革新的ロボット研究開発等基盤構築事業」等の事業が進められてきました。

ロボットフレンドリーな環境の実現とは、ユーザー側の業務プロセスや施設環境をロボットが導入しやすい環境に変革することを指します。例えば、ビルなどの内部を清掃したり、巡視したりするロボットを導入するには、エレベーターや扉の仕組みを考慮しなくてはなりません。段差や扉の開閉方法などについてロボットの使用を前提にした標準化が必要になってきます。

このように、今後はロボットそのものの開発だけではなく、ハードウエアを含めた社会の仕組み自体をロボットの導入に合わせていこうという動きが加速していくことが考えられます。

深刻な少子高齢化による労働人口の不足を乗り切る手段としての産業用ロボットは、私たちの社会にとってますます身近な存在となってくるでしょう。

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