デジタルツインとは?導入するメリットや国内外の活用事例を解説
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目次

  1. デジタルツインとは?
  2. デジタルツインとシミュレーションの違い
  3. デジタルツインとメタバースの違い
  4. デジタルツインに注目が集まる背景とは?
  5. デジタルツインを取り入れるメリット
  6. デジタルツインで用いられる技術とは?
  7. デジタルツインの国内活用事例
  8. デジタルツインの海外活用事例
  9. 企業の経営戦略にデジタルツインを取り入れる

商品の開発や設計、製造や販売後のフォローなど、事業運営には多くのコストがかかるものですが、効率的に事業運営を進めるには、デジタル技術をうまく活用することが大切です。

この記事では、近年注目を集めているデジタルツインの概要や導入するメリット、国内外活用事例を紹介していきます。

デジタルツインとは?

そもそもデジタルツインとは、現実空間にあるモノや環境から集めたデータを用いて、バーチャル空間上に現実と同様の環境を再現する技術のことです。「ツイン=双子」という言葉が入っているように、あたかも現実世界の双子がデジタル空間内に再現されるような技術であることから、デジタルツインと呼ばれるようになりました。

デジタルツールを活用して現実空間をデジタル上に再現すると、従来では簡単にできなかったさまざまな分析や実験ができるようになります。その結果を現実空間にフィードバックすることで、異常の早期発見や的確な戦略立案が可能になるなど、さまざまなメリットが生じます。

デジタルツイン

また、近年のIoT技術のめまぐるしい進歩により、データ収集や分析、フィードバックを高速でおこなえるようになっています。これらの作業を自動化したりリアルタイムで情報共有したりすることも可能なので、より広範囲な場面での活用が期待されています。

デジタルツインとシミュレーションの違い

デジタルツインと似た意味に「シミュレーション」があります。

現実空間での未来を実験・予測するという点で両者の意味は共通していますが、シミュレーションは現実空間における事象を複数の場所で再現して、情報収集や分析、将来の出来事を推測することを指します。仮説を立ててから実験を開始し、分析・フィードバックを行うのに時間がかかります

一方、デジタルツインではデジタル空間でこうした作業をおこなうため、手間や時間を抑えて将来予測をすることができます。デジタルツインとシミュレーションとの違いを知っておくと、両者をうまく使い分けて業務に取り組めるようになるでしょう。

デジタルツインとメタバースの違い

デジタル空間を構築するという面では、デジタルツインとメタバースの特徴は似ています。

しかし、メタバースはあくまで「仮想空間」を創り出すことから、現実空間をデジタル化するデジタルツインとは異なります。また、メタバースでは仮想空間上にアバターが用いられますが、デジタルツインには必ずしもアバターが必要ではないという点も両者間での違いです。

デジタルツインに注目が集まる背景とは?

それでは、近年なぜデジタルツインに注目が集まってきているのでしょうか。

デジタルツインに注目が集まる理由として、各産業に大きな改革をもたらすと考えられていることが挙げられます。たとえば、製造業やエネルギー産業といった分野において、さまざまな機器のメンテナンスや修繕等といった設備保全に関する情報をデジタル上で分析・予測すれば、より安全性の高い事業運営が可能になるでしょう。

また、製造ラインの状況をリアルタイムで情報収集してAIで分析すれば、より高品質な製品をコストを抑えて製造できるようになる可能性があります。国内だけでなく海外企業も含めて競争が激化する時代の中でデジタルツインをうまく活用すれば、一歩抜きん出た経営をおこなえる可能性もあるため、デジタルツインを導入する企業は増えていくでしょう。

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デジタルツインを取り入れるメリット

デジタルツインを企業に取り入れるメリットとして、次の5つが挙げられます。

  • 製品の品質を保証しやすくなる
  • 顧客数や売上の増加につながる
  • 効率的な開発・製造が可能になる
  • アフターサービスを充実させられる
  • 社会的な課題の解決につながる

以下では、これらのメリットについて詳しく解説します。

  • 製品の品質を保証しやすくなる

デジタルツインを導入すると、現実空間ではできなかった情報収集や分析をおこなえるため、その結果を活かしてより高品質な製品を製造しやすくなります。デジタル空間では現実世界で起こりがちな物理的な制約を取り除いたシミュレーションが可能なので、さまざまな条件下での製品テストが可能になります。

また、極端な条件下での実験もできるため、製品の不具合を早期発見するなど発売前のエラーを回避することもできます。リコールなど甚大な損失を回避して自社製品を安心・安全に顧客に使用し続けてもらえれば、企業の信頼性をさらに高められるでしょう。

  • 顧客数や売上の増加につながる

企業の信頼性を高める高品質な製品づくりは、将来的な顧客数や売上の増加にもつながります。もちろん、価格設定や営業手法など、マーケティング手法などの要素によっても顧客数や売上は変動しますが、デジタルツインの導入によって今まで見えなかった改善点を発見できれば、さらに成果を伸ばすことができるでしょう。

また、デジタルツインを活用すれば、デジタル空間上で製品の体験をしてもらえます。現実空間では運ぶのが困難だった製品を遠方で体験してもらえるため、自社製品の魅力をより多くの人に届けられるでしょう。

  • 効率的な開発・製造が可能になる

デジタルツインを活用すると、製造の段階だけでなく、企画・設計の段階でもさまざまな実験ができます。

従来は設計書を作成して試作品をつくり、修正・変更するのに膨大な時間と労力がかかっていましたが、3Dのデジタル空間でいくつもの試作品を創り出せば、コストを抑えて理想的な製品を設計できます。

試作品ごとに現実空間にプロトタイプを製造する必要もないため、より効率的な開発・製造が可能になるでしょう。

  • アフターサービスを充実させられる

デジタルツインを活用するメリットは、製品の企画・製造だけではありません。

デジタルツインをうまく使えば、自社製品が顧客の手に渡った後も製品の状態をリアルタイムに把握することが可能です。それによって、たとえば部品の摩耗やバッテリーの劣化といった状態を適切に把握し、必要なタイミングで交換を打診できるようになります。

機器のトラブルによっては顧客の信頼を著しく損なうリスクがあるため、デジタルツールを活用して顧客に丁寧なアフターサービスを実施すれば、高い顧客満足度を維持できるでしょう。

  • 社会的な課題の解決につながる

デジタルツインは、商品開発や製造分野だけでなく社会的な課題解決にも貢献します。

具体例として、デジタル空間上に農場を再現し、気象状況や土壌データをもとに効率的な農業経営をサポートすることが挙げられます。ほかにも、居住エリアごとの地理的特徴をもとに自然災害で起こり得る被害を予測し、災害時の被害を抑える対策をしたり避難訓練の実施に役立てることも可能です。

このように、デジタルツインをうまく活用すれば、人々の安定的な暮らしを守ることもできるため、今後の普及が期待されています。

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デジタルツインで用いられる技術とは?

デジタルツインでは、主に次の技術が用いられています。

  • IoT
  • AI
  • AR・VR
  • 5G
  • CAE

デジタルツインの導入・活用を推進するには、適切なデジタル技術の活用が欠かせません。以下では、これらの技術とデジタルツインの関係について詳しく説明します。

  • IoT

IoTは日本語で「モノのインターネット」とも言われ、通信機能付きのテレビやエアコン、冷蔵庫やスピーカーなどを指します。デジタルツインでは膨大なデータをさまざまな機器から収集するため、ハイレベルなデジタルツインを作成するにはIoTの活用は不可欠だといえます。

しかし、IoTには多種多様な製品があるため、どの機器からどのような情報を収集するかを適切に判断しなければなりません。場合によっては国境を越えてIoTからデータを収集する必要があるため、タイムリーな活用を可能にする国際的な仕組みづくりが重要視されるでしょう。

  • AI

「人工知能」とも呼ばれるAIは、デジタルツインを活用する際に集められた膨大なデータを分析するのに役立ちます。収集するデータの量によってはマンパワーで分析することもできますが、AIを活用すればさまざまな多角的なデータ分析が可能になるので、より的確な経営戦略の立案が可能になるでしょう。

また、収集するデータ量が増えてAIの自己学習機会が増えると、より精度の高い分析結果をフィードバックしてもらえる可能性があります。より正確な未来を予見して事業運営に活かすためにも、デジタルツインにおけるAIの活用は欠かせません。

  • AR・VR

デジタルツインを実現するには、「拡張現実」と呼ばれるARと「仮想現実」と呼ばれるVRも不可欠です。なぜなら、デジタルツインは現実空間とデジタル空間を視覚的に結び付けて将来を分析・予測する技術だからです。

AR・VRによって従来見えなかった課題や問題をデジタル空間上に可視化すれば、それを的確に現実空間にフィードバックできるようになります。将来的にこれらの技術がさらに発展すれば、より高精度なフィードバックを受けられるようになるでしょう。

  • 5G

新たな高速通信技術である5Gは、大容量かつ高速な通信を可能にするため、リアルタイムな情報収集や分析、フィードバックが求められるデジタルツインには不可欠です。

送受信するデータによっては、解像度の高い画像や動画も含まれます。これらをタイムリーかつ鮮明に送受信するには、より高速なネットワーク環境が求められます。5G基地局の整備や5Gに対応するIoT機器はまだ普及しているとはいえない状況ですが、今後デジタルツインを取り入れて事業運営に活かすためにも、技術を活用できるような体制を整えておくことが重要です。

デジタルツインの国内活用事例

実際にデジタルツインはどのように活用されているのでしょうか?

以下では、デジタルツインの国内活用事例をいくつか紹介します。

  • 大手自動車メーカーの事例

ある大手自動車メーカーは、あらゆるモノやサービスが連携している都市づくりを進めています。都市づくりをする際は、デジタルツインを活用してデジタル空間上に街をつくり、人や車がどのように流れているか、都市がどのように機能しているかをシミュレーションしています。

今後はARやVRを活用した観光体験やドローンを用いた荷物の配達など、さまざまなテクノロジーを活用した街づくりが検討されています。現実世界ではできなかった「都市のバーチャル化」は、デジタルツインだからこそできる実験だといえるでしょう。

  • 政府の活用事例

国土交通省は、「PLATEAU(プラトー)」という3D都市モデルを整備し、オープンデータ化するプロジェクトを2020年4月に公開しています。この3D都市モデルは、デジタルツインとして誰でも利用できるのが特徴で、さまざまな都市でオープンデータ化が進んでいます。

このサービスを活用すれば、離れた場所からでも観光を楽しめるだけでなく、自治体ごとにスマートな街づくり計画を立案・実践することも可能です。まだオープンデータ化している地域は限られていますが、将来的にすべての都市がオープンデータ化すれば、より豊かな生活を実現できるきっかけになるでしょう。

  • 災害課題の解決に取り組んだ事例

国内の大手保険会社は、大規模災害へのより的確な補償を検討するために、他社と協力してデジタルツインの活用に取り組んでいます。

この事例では、デジタルツインの運用を推進するために他社が保有するリスクデータやデータ分析手法、人の流れや空間データ、災害予測技術や災害研究データなどを複合的に活用しています。それによって、災害発生時のタイムリーな被害予測や、災害ごとの対応方法の立案といった現実での施策をデジタル上でシミュレーションし、より的確な補償ができるようになると期待されています。

デジタルツインの海外活用事例

デジタルツインは、国内だけでなく海外でも活用が進んでいます。

以下では、デジタルツインの海外活用事例を紹介します。

  • ワールドカップでの活用事例

2018年に開催されたロシアワールドカップでは、「電子パフォーマンス&トラッキングシステム (EPTS)」が導入されました。

このシステムは、選手だけでなくボールの動きまでタイムリーに把握できるのが特徴です。
この情報をキャッチした監督やチームの分析担当者は、より的確なゲーム分析や作戦の立案が可能になるため、より高いチーム力を発揮できたケースもあるでしょう。

また、EPTSは選手の心拍数や疲労度をデジタル空間上に反映させることもできます。客観的なデータをもとに選手の采配をおこなえば、チームの勝利に導けるだけでなくケガなどのトラブルを予防することにもつながるため、今後さらに活用が進むと期待されています。

  • シンガポールでの活用事例

都市開発が活発に進むシンガポールは、高い人口密度や渋滞、建設現場からの騒音など、さまざまな社会課題を抱えています。

こうした課題を解決するために、シンガポール政府はデジタル空間上に道路や建物、公園などを3Dで再現する取り組みを進めています。デジタルツインを活用することで、効率的なバス輸送や公共工事の効率化が期待されており、将来的に多くの人々が暮らしやすい社会が実現するかもしれません

企業の経営戦略にデジタルツインを取り入れる

ここでは、デジタルツインの概要や導入するメリット、国内外のデジタルツイン活用事例を紹介しました。

商品の設計やシミュレーション、製造やアフターサービスにはコストがかかる傾向にありますが、デジタルツインをうまく導入すればコストを抑えてより顧客満足度の高いサービスを提供することも可能です。

ここで説明した内容を参考にして、デジタルツインの活用を検討してみてはいかがでしょうか。

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