【座談会】国内MES有識者・プレイヤー座談会 ~日本の製造業の未来を語る~(後編)

AIの進化、少子高齢化による労働力人口の減少など大きな変化に直面する製造業にとって、進化するための鍵となる、MES(Manufacturing Execution System)。製造業の生産現場におけるデータを、リアルタイムで収集する製造実行システムのことです。

そんなMESを開発する企業を集め、「国内MES有識者・プレイヤー座談会 ~日本の製造業の未来を語る~」を開催しました。後編では、MES導入によって生まれた具体的な効果をはじめ、生成AIが製造業にもたらす変化、そして日本のものづくりの強みを今後どう生かしていくのかについて議論します。

登壇者

  • アビームコンサルティング株式会社 Sustainable SCM Strategy Unit Senior Expert 阿部 洋平氏(モデレーター・MES有識者)
  • ものレボ株式会社 代表取締役 CEO 細井 雄太氏
  • 株式会社Smart Craft 代表取締役 浮部 史也氏
  • テクノシステム株式会社 常務取締役 中川 恵伸氏
  • 株式会社コアコンセプト・テクノロジー 代表取締役社長CEO 金子 武史氏
  • 株式会社コアコンセプト・テクノロジー 執行役員 製造DX事業担当 石原 雅崇氏

前編はこちら:【座談会】国内MES有識者・プレイヤー座談会 ~日本の製造業の未来を語る~(前編)

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関連情報:
アビームコンサルティング 阿部洋平氏は、MES導入促進ストラテジックプロジェクトのリーダーとして活動するとともに、『実践的MES導入ガイド』(近代科学社)にも全体編集として参画しています。

目次

  1. MES導入による効果は工数だけにとどまらない
  2. AIは日本の製造業をどのように変えていくのか
  3. 日本のものづくりの強みを、MESによってどう発展させていくか

MES導入による効果は工数だけにとどまらない

阿部氏(以下、敬称略):ここ数年、『ものづくり白書(製造基盤白書)』には人手不足について書かれていましたが、2026年版を読むとそれがより顕著になっているなと感じます。単に人手不足を解消するだけでなく、生産性の向上も必要となるでしょう。

これらはまさにMESが解決の手法の一つとなりますが、実際に導入してどのような効果が出ているのか、皆さんのお客様が生産性を上げた実例を教えてください。

細井氏(以下、敬称略):MESを入れる目的はお客様によってさまざまですが、実際に導入して残業や土日出勤が減少する、それから変動費が小さくなり限界利益が上がるといった効果があるという声が多いですね。

たとえば、受注しても手が回らないと考え、そのまま外注に出していた仕事がある。そこで、MESで見える化すると「自分たちでできる」とわかり、外注せずに自社でこなせるようになり、外注費の削減によって利益率が上がるというケースです。それから、現場を見える化することによって、納入の遅延がなくなったという効果も出ています。

中川氏(以下、敬称略):当社の場合は、時間の有効活用という点で効果を感じていただくことが多いと思います。当社のプロダクト、「実績班長」の名前の由来にもなっているのですが、製造現場の班長にとってデータを集めることは本来の仕事ではありません。本来は、収集されたデータに基づいて、品質や生産性を改善するのが仕事です。

システムを導入することでその時間を確保できるという点に共感して、実績班長を使っていただくケースが多いと思います。

プレイヤー座談会

浮部氏(以下、敬称略):当社では、お客様から得られた効果について、さまざまな声をいただいています。

たとえば、導入前は一日が終わってからその日の生産量や進捗を見て残業が必要かどうかを判断していたものが、MESの導入により午前中の段階で対応を取れるようになるといった効果です。午前の段階で作業が遅れているとわかれば、午後のタイミングから人を増員したりラインの配置を変えたり、早めに手を打つことが可能です。一日の生産量が、20〜25%ほど上がったというお客様もいらっしゃいます。

それから、データを人材育成に生かすケースもあります。従業員ごとの作業スピードや工程の得手不得手をデータから読み取ることで、全員同じではなく各人に合った内容で教育ができるようになるんです。また、すぐにフィードバックができるので、あるお客様の場合は、新人が標準時間で作業できるようになるまでの期間が約4カ月から2カ月に短縮されたそうです。

AIは日本の製造業をどのように変えていくのか

阿部:次に、AIについて伺いたいと思います。ここ数年、IoT、DXなどの潮流があり、現在はAIという大きな波が押し寄せています。

私が2025年にハノーバー・メッセ(ドイツの国際産業見本市)を視察した際も、多くのブースでMESと生成AIが密結合し、自然言語で「今日のライン稼働状況とボトルネック」を瞬時にサマリーする展示が標準になりつつありました。

実際、製造業の現場ではAIへの期待が非常に高まっており、「AIを活用した提案でないと投資テーマとして注目されにくい」という声を聞くこともあります。一方で、現場側では「具体的に何を聞けばよいのか分からない」という課題もあります。

本質は「何をAI化するのか」という目的の定義です。PoCから本格展開へつなげるためにも、業務のコンテキストを理解した上で、AIをどう自律的な支援ツールとして組み込むかが問われています。

生成AI、そしてフィジカルAIに対して、ベンダーとしてどう向き合っているのか、お客様はAIをどのように捉えているのか、皆さんの状況を教えてください。

細井:AIは非常に優れた道具である一方、ベンダーとしてはどういう目的でどのようなデータを使うのか、要はAIを何に活用するのかを考える必要があると感じています。これまでもIoTやDXという言葉だけが先行し、そもそもの目的をしっかりと定めずに手を出して失敗した企業がたくさんありました。AIについても同じことにならないよう、注意が必要だと思います。

プレイヤー座談会

浮部:ソフトウェア開発という意味では、AIは追い風と脅威の両方の面がありますね。

当社はソフトウェア開発に生成AIを使っているのですが、エンジニアの生産性やサービスの開発スピード向上という大きなメリットがあります。一方で、開発を専門としている企業でなくても、ちょっとしたITツールであれば生成AIで作れます。

この環境で、自分たちの価値をいかに発揮していくのかを考えることが必要です。ただ、MESは工場の基盤にかかわる重要なシステムなので、そこをお客様が自分たちでコーディングするといったケースは考えづらい一面もあります。追い風となる面をうまく活用して、開発力の向上につなげていければと考えています。

もう一つ、自分たちのサービスでいかにAIを組み込み、提供価値を高めていくかも重要な視点です。単にAIの機能を入れて「使ってください」といっても、使いこなすのが難しいというお客様もいるため、たとえばプッシュ型のコミュニケーションで案内したりサマリーを表示したりするなど、工夫をするようにしています。

いかにAIを使っているということすら感じさせず自然に使っていただけるものにするか──ここがポイントだと思っています。

プレイヤー座談会

中川:当社においても、ソフトウェアの開発と生成AIは、切っても切れないものになっています。まさにこの領域の産業革命といった感じで、ソフトウェア開発は生成AIのメリットを生かすのに最も適している分野の一つではないでしょうか。

お客様の生成AIに対する認識に関しては、まだばらつきがあり見えていないところも多いです。特に、AI利用でデータをどう扱うかは、迷いがあるのではないでしょうか。

多くの製造業にとって、「生成AIにどこまでデータを出すべきか」という問題は、気にかかる点の一つですし、実際にお客様とお話していてもそこを迷われている企業が多いように思います。そのため、生成AIを活用できる領域がある程度、絞られる可能性もあるかもしれません。

金子氏(以下、敬称略):私は、いかに日本の製造業に合った形で取り入れていくかが、ポイントだと感じています。

今のAIは欧米発なので、インターフェースが「マネージャーとして部下であるAIを使う」という形です。そのためAIを使う際は、どんな指示を出すか、生成されたものをどう是正させるかといった、マネジメントでの対話と非常に近しいスキルが求められます。

私の考えでは、日本は決まりきったことを自動化して生産性を上げるのは得意な一方で、マネジメントという行為が若干、弱点となっている。そのため、プロンプトを入れて指示をするというAIの形は、日本の製造業にそぐわないところがあると思っています。

そうした形よりは、たとえばAIが状況を認識して、気が付いた変化を教えてくれる、その変化に対応するプランを提案してくれる。そして、人間はAIによるそれらの選択肢を見て「Aの部分はああしてくれ、Bの部分はこうしてくれ」と必要に応じてプランを修正した上で指示を出す……こんな使い方が、日本の製造業には向いているのではないでしょうか。

日本に合った使い方を整えることも、現場にAIを普及させるためのポイントではないかと思います。

日本のものづくりの強みを、MESによってどう発展させていくか

阿部:皆さんのお話を伺って、AIを使って何をするのかという、まさに目的の話からしっかりと定義をして日本に合った使い方を検討しなければならないと感じました。もしかしたら、過去のデジタル投資に関しては、そこが苦戦した要因なのかもしれません。

最後に、MESやAIに対して日本の製造業が今後どのように投資すべきなのか、変わらないといけないところは何なのか、皆さんのお考えを教えてください。

プレイヤー座談会

浮部:投資という観点では、時間軸を長く見ていく必要があると思います。もちろん、単年で投資した分をしっかりと回収したいという気持ちも理解できます。しかしAIは、学習しデータが蓄積されることによって精度が上がり、どんどん競争力を加速させる可能性を持つものです。その特性を最大限、生かすためにも5年、10年というある程度長い時間軸で基盤を構築する必要があるのではないでしょうか。

加えて、私が製造業のデジタル投資で課題だと感じているのが、現場の業務ごとに個別のITツールを入れることが多いという点です。そのため、業務ごとにはデータを取れるようになったけれど、それぞれがつながっていないとか活用しきれないといった課題もよく耳にします。

そうではなく全体設計を中長期の時間軸で描き、理想とする未来の姿から逆算して今すべき対応を考える必要があります。生産や品質管理に限らずさまざまなデータがありますが、それらをトータルでつなげて活用するビジョンをしっかりと描く。そして、長い目で投資をしていけば、日本の製造業の競争力も高まるのではないかと思います。

細井:特に日本においては、いわゆる「系列」が崩壊しています。私は、長い間この系列があったことによって、(系列内の販売で売上が立つため)日本の製造業は営業能力を失った側面があると感じています。

それを踏まえると、これから製造業がすべきなのが、しっかりと自分たちで営業していくことです。そして、どのように営業力を高めてお客様にアプローチするのか、競合他社とどう差別化するのかを考えたときに、MESやAIが一つの選択肢として挙がってくるのではないかと思います。

我々としても、MESを通じてデータを活用することによって、特に中小の製造業の方たちが生産能力を上げたり、国内だけではなく海外からの仕事も取り込めるようにしたり、後押しできると考えています。そして、いい仕事とそれを受注する力のある企業とを適切にマッチングできる仕組みを構築し、未来のサプライチェーンにつなげていくというのが、今、目指していることです。

中川:製造業は日本の基幹産業であり、外貨を稼ぐためにも日本になくてはならないものだと思います。また、多くの労働力を抱えており、地域社会の経済インフラとして、中間層がコミュニティを形成する場としても、大切な存在です。

一人ひとりのものづくりに対する思いやそれを実行に移す力は、日本の製造業の大きな強みの一つです。この世界に誇れる強みに、デジタルやロボットをはじめとしたフィジカルAIなどを重ねて、さらに発展させていく。そういった方向に日本社会全体が向いていければいいなと思っています。

金子:今、AIをベースとした業務の変革を各社が行っていますが、製造業においては、その変革の中心にMESがあるのではないかと思っています。

皆さんがおっしゃるように、日本は強いものづくりの力を持っていますが、その強さの根幹はいわゆる現場の力・暗黙知によるものです。結果として、システムがそれぞれ個別に作られ、データがつながってない状態になっています。

こうした中で、強いものづくりの力をレイヤーとしてどう再構成するか、そこに産業としてどう挑むかが重要です。少子化で労働人口が減っても生産性が上がるように、MES領域を次の段階にシフトさせる。そして、次の段階に入った時、ベンダーとお客様と産業が一丸となれれば、日本らしい業界の変革ができるのではないでしょうか。

プレイヤー座談会

阿部:日本は現場力が強いですが、その知見がソフトウェアの形で十分に活用されていないという課題があります。日本が強みを持つ領域とされるフィジカルAIの進展を取り込みながら、現場力とソフトウェアをいかに融合していくかがポイントになると感じました。

本日の議論を通じて改めて感じたのは、MESは単なる工場システムではなく、経営と現場、そしてAI活用をつなぐ基盤であるということです。

日本の製造業が次の成長ステージへ進むためにも、その重要性を今後さらに発信していきたいと思います。

皆さんのお話を聞いていて、私自身も大いに刺激を受けましたし、読者の方にも今後に向けて何かヒントとなる部分があったのではないでしょうか。本日はありがとうございました。

【前編はこちら】
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