【座談会】国内MES有識者・プレイヤー座談会 ~日本の製造業の未来を語る~(前編)

日本経済に欠かせない存在である、製造業。優れた品質や現場力といった強みを生かし発展を遂げてきた一方で、AIの進化、少子高齢化による労働力人口の減少など大きな変化に直面しています。そこで求められているのが、データを活用し生産性を向上させる、ものづくりの変革です。

変革の鍵となるのが、経営と工場をつなぐ製造データ基盤として、リアルタイムな情報収集を担う製造実行システム・MES(Manufacturing Execution System)。Koto OnlineではMES・スマートファクトリー領域に精通するアビームコンサルティング株式会社 阿部洋平氏の呼びかけのもと、MESを提供する企業と知見を持つコンサルタントを招き、「国内MES有識者・プレイヤー座談会 ~日本の製造業の未来を語る~」を開催しました。

それぞれの視点で感じている製造業の課題はどこにあるのか、そして今後の製造業においてMESが果たすべき役割は何なのか。前編・後編の2回にわたってお伝えします。

登壇者

  • アビームコンサルティング株式会社 Sustainable SCM Strategy Unit Senior Expert 阿部 洋平氏(モデレーター・MES有識者)
  • ものレボ株式会社 代表取締役 CEO 細井 雄太氏
  • 株式会社Smart Craft 代表取締役 浮部 史也氏
  • テクノシステム株式会社 常務取締役 中川 恵伸氏
  • 株式会社コアコンセプト・テクノロジー 代表取締役社長CEO 金子 武史氏
  • 株式会社コアコンセプト・テクノロジー 執行役員 製造DX事業担当 石原 雅崇氏

後編はこちら:【座談会】国内MES有識者・プレイヤー座談会 ~日本の製造業の未来を語る~(後編)

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関連情報:
アビームコンサルティング 阿部洋平氏は、MES導入促進ストラテジックプロジェクトのリーダーとして活動するとともに、『実践的MES導入ガイド』(近代科学社)にも全体編集として参画しています。

目次

  1. プレイヤーそれぞれのMESとの出会いや創業のきっかけは
  2. MESの必要性を認識した、現場で感じた課題とは
  3. 製造業の顧客のMESに対する期待──投資判断を左右する鍵はどこにあるのか

プレイヤーそれぞれのMESとの出会いや創業のきっかけは

阿部氏(以下、敬称略):ファシリテーターを務めます、アビームコンサルティング株式会社の阿部洋平と申します。

本日は、「国内MES有識者・プレイヤー座談会 ~日本の製造業の未来を語る~」と題し、MESをはじめとしたITソリューションを提供する、キーパーソンとなる皆さんに集まっていただきました。

私はアビームコンサルティングに属しておりますが、一般財団法人エンジニアリング協会の MES導入促進ストラテジックプロジェクトでもプロジェクトリーダーを務め、MESの普及に関わる活動を推進してまいりました。今回はこのような機会を嬉しく思います。

製造業にとってMESはどのような役割を担っているのか、MESが製造業をどのように変えられるのか、そして皆さんが描く日本の製造業の未来など、さまざまな視点でお話できればと思っています。最初に、自己紹介をお願いできますか。

阿部洋平氏
阿部洋平氏

細井氏(以下、敬称略):ものレボ株式会社の細井雄太と申します。私はもともとアイシン精機株式会社(現株式会社アイシン)というトヨタ系の自動車部品メーカーで生産技術の仕事をしており、2016年にものレボ株式会社を創業しました。

当社の主なお客様は、部品加工や金型製造などを手がける、従業員数10人から50人くらいのいわゆる町工場の方たちで、少量多品種、かつ短納期が求められる製造業向けのアプリケーションとして、MESをSaaS形式で販売しています。

細井雄太氏
細井雄太氏

中川氏(以下、敬称略):テクノシステム株式会社の中川恵伸と申します。当社では、「実績班長」というMESパッケージなどを開発しており、ディスクリート(部品の組立や加工による生産)、プロセス(原材料の化学反応や溶解などによる生産)の両方を対象として、最終製品を取り扱っているお客様にも提供しています。

中川恵伸氏
中川恵伸氏

浮部氏(以下、敬称略):株式会社Smart Craftの浮部史也と申します。当社は、2021年に創業したスタートアップ企業です。現在は製造現場の工程・品質・在庫のデータを一元管理するSaaS型のMESを開発し、主にディスクリート系の製造業に提供しています。

浮部史也氏
浮部史也氏

石原氏(以下、敬称略):株式会社コアコンセプト・テクノロジー執行役員 製造DX事業本部 本部長の石原雅崇と申します。主に売上高が数百億円、数千億円の規模のお客様に対し、上流の業務コンサルティングからシステムの企画、その後の構築まで、一気通貫で事業を展開しています。

MESに関しては、「Orizuru MES」というスマートファクトリーソリューションを提供しています。

石原雅崇氏
石原雅崇氏

金子氏(以下、敬称略):株式会社コアコンセプト・テクノロジー代表の金子武史と申します。当社は2009年の創業で、日本を支える産業ともいえる製造業を、世界で競争して勝てるように後押ししたい、産業の発展に寄与したいという思いで起業した会社です。

今日は、MESの有識者の方々に、日本の製造業の新しい機運を作るきっかけとなる議論ができればと思っています。

金子武史氏
金子武史氏

阿部:皆さん、MESの必要性に気が付いたきっかけがそれぞれあると思いますが、なぜ事業として取り扱おうと考えたのか、創業の経緯と併せてお聞かせいただけますか。

浮部:私は株式会社キーエンスに新卒で入社し、いわゆるファクトリーオートメーションの製品販売やコンサルティングに携わっていました。その中で、製造業のお客様は設備投資などに積極的な一方で、デジタルやITの活用についてはまだまだ進んでいない部分があると感じたことが、創業の理由です。

創業時は正直、「MES」という言葉自体を知らなかったのですが、お客様と対話を重ねるうちに単に紙をなくすとかデータを活用するだけではなく、工場の中で基幹となる仕組みが必要なのではないかと考えるようになりました。

そして、ソリューションとしてのMESやその市場について情報を集め、自社で開発をして事業として立ち上げることになりました。

阿部:それはものレボも近いものがあるのではないかと思うのですが、細井さんはどういう理由からこの領域で創業しようと考えたのか、決め手となったものは何だったのでしょうか。

細井:お伝えしたように、私は前職でトヨタ系の自動車部品メーカーの生産技術を担当していたのですが、その仕事の中で2012年、アメリカに生産ラインを立ち上げるプロジェクトに参加したことが、きっかけの一つです。

アメリカに行って実感したのは、「トヨタ生産方式は最強のソフトだ」ということです。トヨタ生産方式は考え方・コンセプトであって、形あるハードではありません。いわゆるソフトパワーですね。

しかし、生産方式に関しては日本の方が優れていると感じたものの、アメリカではデジタルの活用が日本よりもはるかに進んでいました。

日本側のマザー工場では、たとえばExcelを印刷して、手書きで書き加えた内容をまたExcelに打ち込む……といった状況でした。同じ時期に、アメリカではすでに全ての機械をサーバーにつないで、稼働状況などをモニタリングしていたんです。

そうした違いを目の当たりにした時に、せっかく日本は優れたソフトパワーを持っているのにこのままでは海外の製造業に完全に負けてしまうのではないかと危惧しました。

デジタルの遅れを解消し、日本の武器でもあるソフトパワーをデジタルに乗せることで強い製造業を作ることができる、かつての日本のように再び「ジャパン・アズ・ナンバーワン」を取りに行こう、と考え創業しました。

阿部:皆さん頷いていらっしゃいましたが、トヨタ生産方式に代表されるような日本の製造業の強い部分をいかにデジタルに取り入れていくのか、ここは確かにポイントの一つですね。

浮部さん、細井さんは比較的最近、創業されていますが、2009年に会社を立ち上げた金子さんは、どのような経緯で創業されたのでしょうか。

金子:私は情報系の大学出身で、学生時代はITや情報が世の中のビジネスを伸ばすポテンシャルを秘めていると思っていました。

しかし一方で、ITや情報技術を提供する先、たとえばメーカーの仕事というものを具体的にイメージできていませんでした。そこで実際のビジネスの解像度を上げたいという気持ちから、2000年に製造業・メーカー向けソリューションを提供しているベンダーに入社したんです。

入社後、メーカーのお客様と深くお付き合いする中で強く感じたのが、「現場力のすごさ」です。ただ、現場のベテラン従業員のスキルが高すぎるがゆえに、そのノウハウが暗黙知になっており、言語化されていないという状況も見えました。

そうしたものを形式化したりアルゴリズムに落としたりしていくことは、産業全体にとって重要なことなのではないか──。「現場×デジタル」、「ものづくり×IT」という掛け算で化学反応を起こすことに大きなポテンシャルを感じたのが、創業のきっかけの一つです。

MESの必要性を認識した、現場で感じた課題とは

阿部:石原さんは、金子さんが立ち上げた会社の中でMESの事業に携わってこられたと思いますが、開発した背景にはどのような理由があったのですか。

石原:最初はMESという概念を詳しくわかってはいませんでした。私の前職は大手のSIerでデータベース構築をしていたのですが、自分の仕事によってお客様の業務がどう良くなっているかが、あまりわからなかったんです。そのため、もう少しお客様に近い位置で業務の変革を直接理解できるような仕事がしたいと思い、当社に転職しました。

製造業に関わるのも当社に入ってからが初めてだったのですが、幸いなことに入社して最初にアサインされたプロジェクトが、完全にスマートファクトリーができている会社のMESの構築でした。そこでは、製造ラインが全てシステムでつながっていて、これからは収集したデータを分析してどう工程を改革するかを検討する段階の企業だったんです。MESが構築された後にどのような姿を描けるのかという、いわゆる「完成形」を最初に経験できました。

プレイヤー座談会

続いてアサインされたプロジェクトも同じような状況で、その2社に携わった後に他の企業を見て驚きました。

後から関わらせていただいた会社の多くはアナログが当たり前で、現場の職人の方の勘と経験によって仕事が回っています。そうした知見があることは素晴らしいですが、「その方が引退したら、現場が終わってしまうんじゃないか」という懸念も抱きました。

日本には同様の会社がたくさんあると気が付き、MESを一社一社イチから構築するだけではなく、もう少し横展開ができないものかと考えました。そして、MESの仕組み化ができていない中堅製造業のお客様に対し展開できるものとして企画したのが、「Orizuru MES」です。

阿部:いろいろと現場を見ていく中で、それをソリューション化して形になっていったんですね。中川さんの会社のプロダクト「実績班長」については、いかがですか。

中川:我々の会社はもともと半導体製造装置の制御や通信が中心だったので、石原さんと同じように完全な自動化がすでにできている会社の仕事が中心でした。一方で日本の製造業を見ると、製造装置も現場の力も世界に誇れる一級品でありながら、それをシステム化して組み合わせるところができていない。

ここに事業としての将来性があるのではないかと考え、まずは実績を収集する機能から新たなスタートを切りました。

プレイヤー座談会

そして、当社には設備を制御するOT領域(工場やプラントなどを制御するシステム)のエンジニアが多かったことから、できるだけ現場の方の入力負荷をなくして情報を集められるような差別化をして、サービスを作り込んでいきました。

製造業の顧客のMESに対する期待──投資判断を左右する鍵はどこにあるのか

阿部:一言で製造業といっても、その中でさまざまな分野があります。それらを一つひとつ見ていくと、製薬に近い分野や今、話に出たような半導体などはMESの導入が進んでいると感じます。反対に、そうではない分野もあります。

そこでプレイヤーの皆さんから見て、製造業の方たちがどのような課題を感じ、どのような期待をしてMESを導入しているのかをお聞かせいただけますか。

浮部:お客様からの声として多いのは、まずは製造現場の状況をリアルタイムで見られるようにしたいとか、現場で起こっていることをデータとして残したいという要望ですね。MESのコアな部分は、生産計画に対して実績をしっかり取っていく、そして工場全体をリアルタイムに把握できる部分だと思うので、当社としてもそこにしっかりと応えるサービスをいかに作るかを重視しています。

プレイヤー座談会

細井:当社はアメリカの町工場と関わることも多いのですが、現場の状況を把握して適切に管理することで、もっと効率よく現場を動かし、より多くの仕事を受注したいとのニーズを強く感じます。アメリカは景気が良いので、たとえば宇宙や防衛の仕事がたくさん存在しているのに、お客様は現場が手いっぱいで受けられないことがよくあるからです。

そうした状況を打破するために、MESによる現場の見える化をしたい企業があります。

プレイヤー座談会

中川:当社のお客様の場合は、中間在庫を見えるようにしたいという声が多いですね。それから、ERP(Enterprise Resource Planning。経営資源をまとめて管理するシステム)だと状況をつかめるのが一日単位と粒度が大きいため、計画通りに終わるのかどうかをリアルタイムに把握したいというニーズもあります。特に経営層は、現場にしかない情報を見える化したいという思いが強いのではないでしょうか。

阿部:MESで現場の状況を把握したいというのは、いろいろな企業に共通していますね。一方で、各社が考える「現場の見える化の効果」とは何になるのでしょうか。また、MESの導入はそれなりに大きな費用が必要になります。過去にKoto Onlineさんのセミナーでも説明したこともありますが、MESに期待する効果の考え方が重要です。この点が、皆さんのビジネスを進める上でハードルになることはありますか。

石原:具体的な投資による効果を示せないと、なかなか投資判断につながらないと感じます。たとえば、現場の見える化にとどまらずそれによって工数を減らしたいといった課題についても、自動化などを並行することでダイレクトに解決まで持っていく提案をし、導入判断をいただけるケースもあります。

最初から自動化ありきで提案するのではなく、まずはお客様の現状を把握して業務整理を行い、その中でボトルネックとなっている部分が見えた場合に、「ここを自動化するだけでキャパが大きく上がりますよ」と説明することが多いです。MESと並行して自動化を進めることで、上から下までつながった状態になる。その場合のメリットを踏まえて提案する、というパターンですね。

やはり、投資した分、期待したリターンを得られた成功経験を持っている企業は、その後もデジタル投資を検討しやすいのではないでしょうか。逆にそうした経験を持っておらず、アナログでもなんとか回ってきた企業の場合、できる限りコストを抑えようという発想になり、なかなかデジタルにお金を使おうとならないのかなと感じます。

阿部:製造業のお客様がどのような課題を感じ、そしてどのように新たな投資を判断するのか。金子さんは、まさに製造業とITの接点で長年、経営してきた中でどう感じていますか。

金子:「課題」について考えるときに私が重要だと思うのは、主語によって全く文脈が異なるという点です。

たとえば、経営者にとっての課題とは競合に遅れをとっているなど、それによってビジネスが左右されるもので、会社が主語となります。対して現場の方にとっての課題とは、負担が増えているなど業務をする上で困りごとの種となるものです。

会社としての課題なのか、向き合っている人としての課題なのか。おそらく、どちらも重要な課題ですが、それぞれをどう捉えるかによってビジネスの進め方も異なってくるのかなと感じています。これに関しては、私が新卒だった時代に、エンタープライズのお客様とコミュニケーションをとっていた際の肌感と、今Orizuru MESを展開する中でお客様とやりとりをする際に感じることと、あまり違いはないと感じています。

プレイヤー座談会

一方で、変化を感じる点もあります。その背景にあるのは、ERPの存在です。ERPは2000年ごろから大企業を皮切りに展開され始め、日本でも2010年ごろにはERPを入れているお客様がかなり増えました。そのため、まず各企業の本社からデジタルリテラシーが向上しています。経営者がビジネスプロセスの中でどんなことが起こっているのか、どのKPIが今ネックになっているのか、蓄積されたファクトとしてのデータとそれまで持っていた肌感とがつながって、数字を根拠に経営会議で議論が交わされることが増えてきたのではないかと考えています。

本社がERPによっていわゆる「デジタル武装」され、今度は現場の実際の状況や足回りについてもデータを取り、ERPと連携させる価値を感じ始めた。現場の閉じたシステムではなく、本社と接合できる形でデータを収集してビジネスに生かそうと考えるようになり、MESに対する位置付けや投資金額も上がっていったのではないかと見ています。

【後編に続く】
【座談会】国内MES有識者・プレイヤー座談会 ~日本の製造業の未来を語る~(後編)

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