2025年10月から11月にかけて、データの活用事例や最新のサービスなどを紹介する日本最大級のビジネスイベント「UpdataNOW25」(主催:ウイングアーク1st株式会社)が、名古屋、大阪、東京で開催されました。会場では、業界をリードするトップランナーによるセッションプログラムのほか、3会場で計40社以上の展示ブースが設置されました。
今回の記事では、11月11日に東京会場(ザ・プリンスパークタワー東京)で行われた3つのセッションプログラムをレポート。さまざまな業界でどのようにデータ活用やDXが進められているのか、その具体的なプロセスと成果を紹介します。
目次
47の展示ブース、AIを活用した「データの民主化」支援も登場
UpdataNOWの今年のテーマは「進化と不変の選択肢」。各会場ではさまざまなデータ活用の取り組みなどを紹介するトークセッションが行われ、各社の展示ブースも盛況でした。
たとえば、ウイングアーク1st製品を活用したデータの可視化を得意とする、コアコンセプト・テクノロジー(CCT)。
ブースでは、多棟エネルギーマネジメントの状況をリアルタイムでチェックできるモニターを展示。このモニターは、清水建設のオープンイノベーション拠点「温故創新の森NOVARE」で導入されたものでした。(詳細は関連記事を参照)
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一方、セッションプログラムでは、業界のトップランナーたちがデータ活用やDX化のノウハウや成功体験が紹介されました。
1. AWS & CCT:散在するデータを集約し可視化、予測につなげる
「AWS、コアコンセプト・テクノロジー、ウイングアークで実現する原価管理DX 〜コストの見える化からシミュレーションまで〜」と題したセッションでは、アマゾン ウェブ サービス ジャパン合同会社でパートナーの技術支援などを行うパートナーソリューションアーキテクトと、コアコンセプト・テクノロジーの二人が登壇し、散在するデータを集約してコスト管理や予測シミュレーションを行う流れについて、デモを交えながら紹介しました。



まず、セッションで最初に紹介されたのが、製造業が抱えるさまざまな課題です。
原材料費やエネルギー価格、物流価格の高騰、為替の変動や賃上げの要請など、製造業にまつわるコストは軒並み上昇。事業を続けるためには、コスト管理をして、対策を打っていくことが欠かせません。
標準原価を策定し、シミュレーションから予算を立て、実績を集計した上で予算と実績の差異を分析するのがあるべき姿です。そして、生産効率を上げていくためには、分析結果に基づき施策を打ち、標準原価の策定にフィードバックするサイクルを回す必要があります。
しかし、多くの企業では、こうした取り組みに手が回っていません。ERPやMES、PLMといった用途に応じた異なるシステム、そして個別に作成した数々のエクセルなど、コスト管理に必要なデータがさまざまなシステムの内外に散在し、さらには、システム自体もサイロ化(組織やシステムが縦割り・孤立し、情報が連携されていない状態)しています。そうした企業では、コスト管理のために人海戦術で集計をしています。労働力不足が進む中、月次の締めで手一杯となってしまい、分析や予測を精緻化する時間がないという深刻な課題に直面しているといいます。
ツールを活用し、データの可視化から予測までを実現
この課題の解決のためにセッションで紹介されたのが、「Amazon SageMaker Lakehouse(アマゾンセージメーカーレイクハウス)」、ウイングアーク1stの「MotionBoard(モーションボード)」などを活用し、散在するデータを集めて可視化した上でコスト管理から予測までを実現する方法です。
Amazon SageMaker Lakehouseとは、さまざまな種類のデータを、ETL(集めたデータを変換・加工して格納先に抽出するツール)を介さずにそのままの形で収集し、分析やAIなどに活用できるサービスです。また、MotionBoardは、集めたデータを高速で集計し、グラフなどでわかりやすく可視化するBIツールです。
これらのツールを活用することで、製造現場に散在するさまざまなシステムやエクセルファイルなどのデータを手間なく集めて一元化し、グラフなどで素早く可視化したり、蓄積されたデータに基づき予測シミュレーションを作成したりできるようになるということです。
また、集めたデータでAIを活用する際に効果的な機能もあります。「Amazon SageMaker Data and AI Governance」は、先述のAmazon SageMaker Lakehouseにビルトインされており、データの品質やアクセス権限などを効果的に管理することができます。この機能を使うことで、ユーザーは目的に応じた、かつ信頼性が担保されたデータをいち早く発見できるようになるということです。
セッションではAmazon SageMaker Lakehouseに集めたデータを用いて労務費の予測シミュレーションを作る流れや、MotionBoardを使ってグラフで見やすく表示する方法がデモで示され、実際の画面を表示して具体的な操作方法などが紹介されました。
吉田さんはこう話します。
「さまざまなツールを用いることで、散在するデータを集め、可視化して分析したり、AIの活用基盤を整えたり、さらには予測シミュレーションにまでつなげることが可能になります。データが社内に散らばっている、という企業の方は、ぜひ、こうしたツールを活用し、生産性の向上を目指していただければと思います」
2. ヤンマー建機:Dr.Sumで組織横断のデータ連携を実現
「Dr.Sumによるデータ連携で加速する現場DX」がテーマのセッションでは、ヤンマーホールディングスでグループ資材機能のDX推進担当者と、グループ内のヤンマー建機のDX担当者が登壇。ウイングアーク1stのエンタープライズ営業部門長の進行のもと、ウイングアーク社が提供するデータ分析基盤「Dr.Sum」を通じ、ホールディングスと事業会社による、組織の壁を越えたデータ活用の取り組みが紹介されました。



総合産業機器メーカーのヤンマーホールディングスは、農業機械や建設機械、エネルギーシステムなどの研究・開発・販売などを手掛け、グローバルに事業を展開しています。国内外にグループ会社115社を抱え、そのうちの一つであるヤンマー建機は、福岡県筑後市に本社を置き、ショベルカーなど建設機械の製造販売を手掛けています。
ヤンマー建機では、製造や販売などの各システムやファイルを連携ツールを通じて集約しています。そして、大量データの蓄積・高速集計ができるデータ分析基盤「Dr.Sum」を利用し、集約したデータを各部門が可視化して効率化を推進しています。さらなる業務の効率化を進めるために、ヤンマー建機だけではなく、グループ全体の共通システムをDr.Sumの中に取り込み、グループ会社同士が連携できる仕組みを構築しようと考えました。
しかし、取り組みを進める中で、廣松さんは「データ連携の壁」にぶつかりました。データを連携するためには、まず、さまざまなシステムの管理者や、データオーナーを探し、データ取得や連携の許可を得る必要があります。そして許可を得て作業を開始した後も、データを転送してもらったり、連携ツールの追加を依頼したり、連携元に手間と時間がかかる対応をお願いしなければなりません。連携元が繁忙期であるなど、時期によってはなかなか進めることができないこともありました。
廣松さんはこう話します。
「『データ連携の壁』を壊すためには、階段を一段一段昇るかのような対応が必要です。しかも、システムは複数あり、それぞれのシステムごとに、そのステップをまたイチから踏まなければなりません。疲労の連続で、連携は無理かな、と途中で諦めてしまうこともありました」
「草の根DX」で培った人脈が突破口に
そうした課題を解決するきっかけとなったのが、ホールディングスの佃さんの存在でした。ある時、廣松さんは購買部門のダッシュボード作りに取り組みました。そのダッシュボードにはホールディングスが管理する資材システムのデータ連携が必要だったことから、上司からデータ管理者である佃さんを紹介されました。
佃さんは、もともとヤンマーグループの「草の根DX」を通じて、その廣松さんの上司と知り合いでした。草の根DXとは、グループ全体のデジタル中期戦略で掲げた「DXに対応する次世代経営基盤の構築」を推進するために、施策の一つとして設置されたものです。さまざまな部署でDXに取り組む人材が集まってコミュニティーを作り、デジタルを活用した改善事例などを情報共有し、DXの推進を後押ししています。
佃さんいわく、草の根DXは「改善に前向きで、かつデジタルが大好きな人たちの集まり」。そのため、部署が異なっていてもコミュニケーションの壁を感じたことはないと言います。データを活用した改善のために誰かに協力を仰ぎたいときは、声をかけると「じゃあやろう」とすぐに一緒になって動くことができるそうです。
結局、廣松さんの上司が資材システムのデータを管理する佃さんと廣松さんをつなぎ、データの連携が一気にすすむこととなりました。
連携をする前は、ヤンマー建機の担当者が全社の資材システムにアクセスし、欲しいデータを検索してCSVでダウンロードした上で、さらに別ファイルで自動集計をしていました。この手間をなくすために、ホールディングスの資材システムとヤンマー建機をDr.Sumで連携。資材システムのデータをODBC接続(アプリケーションとデータベースを、共通のAPIを介して接続する技術)し、一気通貫でデータを可視化できるようになりました。
このデータ連携により、ヤンマー建機では工数削減はもちろん、意思決定のスピードも向上したといいます。また現場からは、「より付加価値を生む業務に集中できるようになった」という声が上がっているということでした。
廣松さんと佃さんは、グループを横断したデータ連携を成功させる秘訣、そして今後の展開ついて、次のように話しています。
「DXを推進するためには、デジタルツールも必要ですが、やはり人と人とのつながりが欠かせないと思います。今回のデータ連携も、草の根DXを通じた人間関係があったからこそ、成しえたと感じています。コミュニティへの参加など行動を起こし、そして、お互いギブアンドテイクで信頼構築をしていけば、組織を横断したDXが推進できると感じました」(廣松さん)
「同じく、DX推進には人とのつながりが重要だと感じています。加えて、例えば今回のケースでいうと、私がいなくても同じようにドライブしていける体制を作る必要があります。そのためにも、今後は組織で回せる仕組みをホールディングス全体で構築していきたいと思います」(佃さん)
3. JFEスチール:DX戦略で「インテリジェント製鉄所」を目指す
「JFEスチールのDXの取り組みとデジタル人材育成」と題したセッションでは、JFEスチールのDX戦略を担う担当者が登壇し、DXを推進する具体的な取り組みや人材育成などについて紹介しました。

鉄鋼メーカーのJFEスチールは、「積極的データ(データドリブン)により、競争優位を獲得」という方針を掲げ、全社でDX推進に取り組んでいます。
DXを進める上で注力しているのが、「IT構造改革の断行」、「ITリスク管理強化」、「データ活用レベルの高度化」の三つの柱です。
1つ目の「IT構造改革の断行」では、DX推進の土台となる環境を整備するため、自社独自のプライベートクラウドを構築。2016年から稼働を開始し、システムのブラックボックス化や、データの散在によって限られたデータしか活用できないという状況の改善を進めてきました。2025年度中に全社のシステムのオープン化が完了する見込みです。
2つ目の「ITリスク管理強化」で取り組んだのが、JFEホールディングスにおけるサイバーセキュリティ統括部の新設です。グループ会社を含めた横断的なセキュリティ対策をけん引し、安全を担保した上でデータを活用できる環境を整え、DXの推進を後押ししています。
そして3つ目の「データ活用レベルの高度化」では、構築した基盤をもとに、さまざまなデータやAI、そしてこれまで培ってきたノウハウを掛け合わせ、生産力や競争力の向上につなげています。
データ活用レベルの高度化によって目指す一つが、「CPS(サイバーフィジカルシステム)」というシステムを活用した、自律的に最適な自動操業を行う「インテリジェント製鉄所」の実現です。CPSとは仮想モデルと実プロセスをリアルタイムで融合させて、異常の検知や予測、自動運転などにつなげていくものです。
セッションでは、このCPSを活用した成功事例として、鉄を溶かす高炉への導入例が紹介されました。
高炉の内部は約1800度の温度があり、一度稼働を開始すると火を消すことなく運転が続けられます。仮に高炉が止まって冷えてしまうと、数十億円の損失が出る大きな問題となります。しかし、高温で大きな高炉の内部を制御するのは非常に難しく、従来は熟練のオペレーターの経験と勘に基づいて操業をしており、不定期にトラブルが発生する状況だったといいます。
そこで、JFEスチールでは高炉にこのCPSを導入し、物理モデルや統計モデル、人工知能などを用い、高炉の内部の様子を可視化することに取り組みました。データを活用することで12時間後の高炉の熱を予測できるようになり、さらには異常の早期検知なども実現しました。現在は全ての高炉にこのCPSが導入され、今後はトラブルの根絶や操業のリモート化や自動運転を目指すということです。
それぞれのステージを定義し、DX人材を育成
セッションでは、JFEスチールのDX人材育成の取り組みも紹介されました。
JFEスチールでは、データ分析や活用の高度な専門知識を持つ「データサイエンティスト」、デジタルを活用しソリューションを提案する「デジタルデザイナー」の二つのタイプの人材育成を目指し、それぞれ5段階のステージを設置。ステージごとにスキルセットを定義し、育成に取り組んでいます。
廣山さんは、DX人材の育成を進めるためには、三つのポイントがあると考えています。
一つは、教育機会の提供。効果的に学ぶことができるツールやカリキュラムを整備して、育成を後押ししています。次に、部長や所属長など、管理職のマインドセット。DX推進や成長に向けた学習を支援する職場づくりが欠かせないと考えています。そして三つ目が、全社員のDXに対する意識の向上。全社的なリテラシー教育を拡充し、DXが推進される土台づくりをしています。さらには、年に2回、全社でDXの成果発表会を開催。DXに取り組み優秀な成果を出した社員を表彰し、全社的な意欲を高めることも意識しています。
こうした取り組みを通じて、昨年度までに約660人のデータサイエンティスト、そして約600人のデジタルデザイナーの育成に成功しました。今年からは、各部門での業務改革をけん引する「ビジネスイノベーター」の育成にも新たに取り組み、さらなるDX人材の輩出を目指しています。
「鉄鋼メーカーは比較的、早くからデジタル化が進んでおり、活用できるデータが豊富にあります。データと、鉄を作るノウハウ、そうした自分たちの資産をうまく組み合わせて、競争力を獲得し、差別化を図っていきたいと思います」(廣山さん)
まとめ
「進化と不変の選択肢」をテーマに開催された、今年のUpdataNOW25。それぞれ取り組みが紹介されたセッションや数々の展示ブースに、来場者は大きな関心を寄せていました。データを活用したさまざまな課題解決が進み、企業の持続的な成長をよりいっそう後押しすることが期待されます。
【注目コンテンツ】
・DX・ESGの具体的な取り組みを紹介!専門家インタビュー
・DX人材は社内にあり!リコーに学ぶ技術者リスキリングの重要性
・サービタイゼーションによる付加価値の創造と競争力の強化
