RFID
(画像=TarikVision/shutterstock.com)

製造業界や物流業界では、業務効率を高めるためにRFIDを利用するケースが増えています。RFIDは通信技術を活用したデバイスであり、今までのバーコードを使用した管理よりも効率が良くなるでしょう。

RFIDのタグにはいくつか種類があり通信距離や価格が異なるため、それぞれの特徴と使用用途を把握する必要があります。本コラムでは、RFIDとはどのようなものか解説します。RFIDの特徴やバーコードについても紹介するので、ぜひ参考にしてみてください。

目次

  1. RFIDとは
  2. RFIDの特徴
  3. RFIDの活用で実現できること
  4. RFIDのタグの主な種類
  5. RFIDを活用する際の課題
  6. 導入する際のチェックするポイント
  7. 自社に適したRFIDを導入しよう

RFIDとは

RFIDとは無線通信を活用した自動認識技術のことであり、製造業の生産現場や物流業界で使われることが多いです。RFIDはそれぞれ無線(Radio)・周波数(Frequency)・認識(Identification)の単語の頭文字を組み合わせたもので、情報が書き込まれたRFIDタグを物品に取り付けて使用します。

この取り付けられたタグを専用のリーダーで読み取ることで、情報のやり取りが可能です。商品の状態を書き換えることも可能で、商品の個数をカウントするだけでなく物品の状態を適切に把握できます。

また、RFIDは特定の製品やサービスの名称ではなく、タグとリーダーを使用し情報を読み取る技術の総称であるため、使用する製品によって呼称はさまざまです。

このRFIDの技術は、タグとリーダーだけでなく情報を管理する処理システムの3つで成り立っています。

身近なところで使用されるRFID

RFIDは製造業などの倉庫にて在庫管理を効率化するために使用されるケースが多いですが、実は私たちの身近なところでも使われています。

例えば、鉄道やバスを使う際に利用するSuicaやPASMOなどの交通系ICカードにも使われており、改札にタッチするだけでカードの情報を瞬時に読み取ります。このとき、ICカードがRFIDタグになっており、改札機がリーダーの役割を担っています。

ショッピングの支払時に利用するさまざまなICカードの決済も同じような仕組みです。他にも、図書館の蔵書管理などでも使われています。

RFIDとバーコードの違い

バーコードは基本的に、横サイズの異なるバーとスペースの組み合わせによって構成されるコードのことです。商品に印刷されているものと同じものであり、リーダー(スキャナー)で読み取り情報を把握します。つまり、読み取り専用の機械で1つひとつスキャンする必要があります。また、表示できる情報の数にも制限があり、後に変更することも難しいです。

その点、RFIDであれば記憶媒体(例えばICカード)の中に情報が書き込まれており、リーダーをかざすことでデータを読み取れます。また、通信距離の範囲が広いものであれば複数の物品を一括で読み取れるため、バーコードをスキャンするよりも手軽に多くの情報を登録できます。

RFID

RFIDの特徴

RFIDにはいくつかの特徴があり、それらを把握して有効活用することにより業務の効率化を進められるでしょう。ここでは、RFIDの特徴について紹介します。

距離が離れていても情報を読み取れるものがある

RFIDのタグにはいくつか種類があり、タグとリーダーが離れていても読み取れるものがあります。これはタグの種類による通信距離によって異なりますが、非接触でカードなどをかざさずに読み取ることもできます。従来のバーコードを使用したデータの読み取りの場合、リーダーで接触するもしくは近距離に接近する必要がありました。

通信距離が長いものであれば、接触せずにデータを読み取れるため、手間をかけずに情報を蓄積、確認できるでしょう。製造業であれば、倉庫内のゲートを商品や物品などが通過するだけでデータを読み取ることもできます。

複数のタグを一度に読み取れる

バーコード形式の場合、基本的に1つのタグに対してリーダーをかざして読み取る必要があります。そのため、タグを使い効率化しようとしても、手間がかかるケースは少なくありません。一方、RFIDは通信距離の範囲内にあるタグを一括で読み取れます。

リーダーで読み取り、データを確認するものが多くある際は、RFIDを使うことで効率良く作業できるでしょう。例えば、複数の商品を多く確認しなければならない在庫管理や棚卸し作業、検品作業を効率化できます。

目に見えないタグでも読み取れる

さまざまな商品が多く積まれている場合など、バーコードが見えない場所に取り付けられていることもあるでしょう。実際に、箱にバーコードが貼られている場合、同じ方向になければバーコードで読み取る際に手間がかかります。また、箱の中にタグがある場合、リーダーで読み取る度に箱から取り出し、タグを探して読み取らなければなりません。

RFIDは通信技術を使用しているため、範囲内であれば目に見えない場所にあるタグの情報も読み取れます。そのため、バーコードを探す手間や箱から取り出す手間も必要ないため、作業の効率化が期待できます。

ただしこの場合、樹脂や木材でできた箱は問題ありませんが、金属で遮蔽(しゃへい)された場合は電波が届かず読み取れないため注意が必要です。

タグが汚れていても読み取れる

バーコード型の場合、表面が汚れていたりかすれていたりすると、リーダーで読み取ることはできません。そのため、生産現場の種類や状態によってはバーコードを使った管理は難しいでしょう。しかし、RFIDは電波を使用して情報を読み取るため、タグ自体が汚れていても使用できます。タグ表面の状態に影響されることはなく、使用環境が悪い場所でも活躍するでしょう。

情報の書き換えや追記が容易

RFIDはタグ内の情報を書き換え・追記できる点も大きな特徴です。バーコードなどであれば、情報を更新することが難しいケースがあります。このような場合は、情報を書き換え・追記する際には、再度バーコードを発行しなければなりません。情報が更新されるものを管理する場合は、大きな手間がかかるでしょう。

その点、RFIDはタグを読み取ることで、新しい情報を書き込めます。ただし、データの書き込みは読み取りよりも時間がかかり、タグをとリーダーの通信距離も短くなるため注意が必要です。

RFID

RFIDの活用で実現できること

RFIDはさまざまなシーンで活用される画期的な技術です。製造業でもRFIDの活用例は多いため、導入によりどのようなことを実現できるのかを押さえましょう。ここでは、製造業がRFIDの活用で実現できることを解説します。

在庫管理の効率化

RFIDタグはさまざまな物品に取り付けられ、その物品の位置や情報を記録できます。そのため、製造業であれば調達した原材料の数量や完成した商品の個数、場所を管理しやすくなります。

さらに、生産過程で使用する道具や梱包(こんぽう)材などの資材・パレットに取り付けることで、物品の管理もしやすくなります。物品の場所をシステム上で管理できるため、物を探す時間を削減でき効率が良くなるでしょう。例えば、台車の位置を把握するだけでも、業務が終了した後の片付けに割く時間を削減しやすくなります。

他にも、情報を常に更新しておけば、いつ調達した原材料か、いつ生産した商品なのかも分かりやすくなり、品質の低下を防ぎやすくなるでしょう。

正確な作業進捗データの記録

生産プロセスでRFIDを利用すると、原材料や完成した商品の状態や位置を把握しやすくなるだけでなく、仕掛品の状態も分かりやすくなります。仕掛品の状態や位置を把握できれば、作業の進捗状況を正確に記録できるでしょう。

例えば、生産中の製品においてどの段階まで工程が進んでいるか、全ての仕掛品が生産ラインに乗っており放置されているものがないかなどを確かめることができ、適切にプロセスを進められます。他にも、適切に生産されていないものがあれば、アラートが鳴る仕組みなども構築可能です。

作業進捗のデータを把握し分析することで、生産工程の中で作業の課題になっている箇所が分かります。そのプロセスを改善することにより、生産効率の向上を実現しやすくなります。同様に、生産プロセスにおける必要な人員の数も調整しやすくなり、人件費の削減にもなります。

作業員のデータの活用、人のデータ取得による手間・工数の削減

作業員が多い生産現場の場合、作業員にRFIDを活用することによってプロセスの効率化を実現できるケースもあります。とくに、作業員が複数のラインやフロアを移動する場合は効果を得やすいでしょう。

RFIDを活用することにより、作業員の作業時間や移動経路などを把握できます。例えば、作業開始時・終了時にIDを読み取ることで、正確な作業時間と作業場所を記録できます。また、作業ごとの進捗具合や工数を把握しやすくなるでしょう。これらをデータ化し分析することにより、課題を見つけ改善に向けて行動できます。

今まで、手書きの報告書を提出している場合は、記入したり内容を転記したりする手間も軽減できます。このような作業員のデータを活用することにより、手間や工数の削減を実現できるでしょう。

RFID

RFIDのタグの主な種類

RFIDの種類

RFIDのタグは電力の供給方式によって大きく3種類に分類されます。それぞれの特徴を押さえることで、最適なものを導入できるでしょう。ここでは、RFIDのタグの主な種類について紹介します。

パッシブタグ

パッシブタグとはタグ内にバッテリーを搭載していないものです。主に、リーダーから受信した電波を利用しICチップが動作します。通信距離が短いことからリーダーで直接読み取るものが多いです。

例えば、電子マネーなどのICカードや、製造業・物流業のパレット管理、アパレル業界の商品管理などに使用されます。バッテリーを搭載していないことから、メンテナンスが不要な点も大きなメリットです。また、タグ自体の価格も低いことから、取り付けたい物品が大量にある際に便利です。

アクティブタグ

アクティブタグはパッシブタグと異なり、タグ内にバッテリーを内蔵しています。パッシブタグと比較するとサイズは大きくなり、価格も高価になります。また、時間が経過するとバッテリーは消耗するため管理も必要になるでしょう。

しかし、パッシブタグよりも通信距離は長くなるため、用途の幅は広がります。例えば、大規模な倉庫であり物品の種類・量が多いときの在庫管理や、温度センサーと組み合わせた鮮度管理などで使用されています。

セミアクティブタグ(セミパッシブタグ)

セミアクティブタグとは、セミパッシブタグとも呼ばれ、パッシブタグとアクティブタグの双方の特徴を兼ね備えたものです。通常時はパッシブタグとして動作するため、内蔵の電池を消耗しません。リーダーからの電波を受信したときにのみ、内蔵バッテリーを使用するため、電池の消費を最小限に抑えられます。

電池が内蔵されていることから通信距離はパッシブタグよりも長く、誤検知が少ない点も大きなメリットです。例えば、企業の入退室管理やレースのタイム計測などで使用されています。前出の製造業の例でいえば、作業員が複数のフロアを移動するときに使うと、稼働状況や作業時間の計測などを効率化できるでしょう。

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RFIDを活用する際の課題

RFIDを活用する際の大きな課題は、導入コストが大きいことです。

RFIDのタグの価格は種類によって変わりますが、1枚10円以内で購入できるものから100円以上するものまであります。また、金属に対応しているタグもありますが比較的高価です。これらのタグを大量に購入し、読み取り用の専用リーダーやシステムも合わせて導入すると、導入費用は大きくなるでしょう。

また、パッシブタグとアクティブタグでは価格が変わり、安いタグを選べば費用は抑えられるものの使用用途は限られます。そのためRFIDを導入する際は、用途に適した種類のものを選ぶことが重要です。

価格は下降傾向にある

RFIDのタグの課題は導入コストの大きさである一方、価格は年々下降傾向にあるため以前よりも導入しやすくなっています。

実際に、安いタイプのタグは1枚あたりの価格は100円ほどでありましたが、近年では10円以下ほどの価格まで下がっています。そのため、数年前にRFIDの導入をコストが問題で諦めていた場合、今であれば予算の範囲内に収まる可能性があるでしょう。

導入コストの低下から検討企業も増加

このようにRFIDタグの価格は減少傾向にあることから、導入を検討する企業は増加傾向にあります。通信技術の開発にかかるコストも減っていく見通しが立っていることから、より利便性の高いタグをリーズナブルな費用で利用できるようになるでしょう。

現在では、RFIDの導入に向けて再検討している企業が増えています。価格の問題が解決した場合、次の問題になるのは実際に導入するタイミングです。RFIDの導入はコストがかかるだけでなく手間もかかります。例えば、導入後は今までと運用体制・業務の手法が変わるため対応しなければなりません。

導入する際のチェックするポイント

RFIDを導入することによりさまざまなメリットを得られますが、同時に相応の費用が発生します。そのため、導入する前にどのような費用が発生するかを確認しましょう。ここでは、RFIDを導入する際にチェックするポイントを解説します。

初期費用とランニングコストを確認する

RFIDを導入する際は、初期費用としてRFIDタグ・RFIDリーダー・システム(アプリケーション)の3つ分の費用が必要です。先ほどの通り、タグは1枚あたりの単価は小さいものの大量に用意する可能性があるため、導入コストを圧迫する要因になります。

RFIDリーダーも同様に、1台あたりの価格は5,000円前後のものが一般的ですが、高性能なものであれば1万円以上することもあります。従業員の人数が多いケースや、生産施設の規模が大きい場合は必要なリーダーの台数は増えるでしょう。

RFIDのデータを処理するアプリケーションは、近年ではクラウド型のものが多く初期費用を抑えられますが、その分毎月のランニングコストが発生します。費用は使用するユーザーの人数などによって変動するため、自社の場合はどれくらいの金額になるのかを確認しましょう。

人件費も考慮する

RFIDに限らず新しい仕組みを導入した場合、運用体制が安定するまでに時間がかかります。例えば、使い方を従業員にレクチャーするために研修する機会を設けなければなりません。また、ITシステムに詳しい担当者を雇用したり、導入担当者を確保したりする必要があり、人件費などのコストが発生します。

高性能なタグやリーダーを導入することにより、管理面の効率化が図れるため人件費は抑えられるでしょう。ただし、この場合は初期費用が高くなるため注意する必要があります。自社に適したRFIDを選ぶためにも、特徴を把握して導入効果を算出し費用とのバランスを考慮することが重要です。

自社に適したRFIDを導入しよう

RFIDは従来のバーコードとは違い通信技術を活用しており、今までよりも在庫管理や工数管理の効率を高めやすいです。バーコードを利用する場合では、スキャナーで一つ一つを読み取る必要がありましたが、通信範囲が広いRFIDを利用すると複数のタグの情報を一括で読み込めます。

他にもタグが見えない場所にあっても読み取れる点や、情報を更新しやすい点も大きなメリットです。倉庫の物品のカウントや管理に時間がかかっている場合は、RFIDの活用で解決できる可能性が高いでしょう。ただし、RFIDの導入には大きな費用がかかる点も注意が必要です。自社に適したRFIDを導入し、ぜひ効率化を図ってみてください。

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