ビジネスデザイナー
(画像=metamorworks/shutterstock.com)

ビジネスデザイナーという職種をご存じでしょうか。一般的に募集している企業も少なく、あまり見かけたことはないでしょう。一方で、よく調べてみると、国が重要と位置づけるDX推進に必須の人材であることが分かってきます。

目次

  1. ビジネスデザイナーとは
  2. IPAが示すDX人材の種類について
  3. ビジネスデザイナーが備えておくべきスキルとは
  4. ビジネスデザイナーを抜擢・育成するには
  5. ビジネスデザイナーが持つべき資格とは
  6. ビジネスデザイナーとデジタルスキルの標準化
  7. ビジネスデザイナーに関するよくある質問

ビジネスデザイナーとは

ビジネスデザイナー

ビジネスデザイナーとは、アイデアをビジネスとして成立させるための仕組みを構築する仕事を担う職種のことです。

ビジネスの最初の段階は、単なる思い付きであることが多いのも実情です。こうした思い付きにすぎないアイデアをビジネスとして成立させるには、実にさまざまな作業が必要となります。

ビジネスにおいて、アイデアは実践できなければ意味がありません。実践する方法を思いついても、何をどれだけ、いつまでに準備すればいいのか、それらはどういった順序で取り組めばいいのかわからなかったり、実践するための知識とノウハウがなかったり、人を説得できなかったり、協力者が得られなかったりといった事情によって、アイデアがお蔵入りになることも少なくないでしょう。

そこで、そのアイデアは一見よさそうに見えるが、本当にマーケット(市場)と需要があるのかという調査にはじまり、具体的な形にするための発想力をともなって、それを出資者や経営者に理解してもらうためのプレゼンテーションを実施したりする能力を発揮するのが、ビジネスデザイナーの仕事です。

2020年代になって、いよいよデジタルトランスフォーメーション(以下、DX)が進んでくると、次々と新しいビジネスが誕生してきています。とくにデジタルを活用したビジネスでは、ビジネスデザイナーの需要は高まっているといえるでしょう。企業においてスピードが重要となる新規事業では、どれだけスムーズにアイデアを形にできるかで勝負が決まります。

これらに気が付いた企業は、その役割を外部のビジネスデザイナーに委託したり、自社の社員をビジネスデザイナーに育成したりする動きを検討しはじめると考えられます。

IPAが示すDX人材の種類について

IPA(独立行政法人情報処理推進機構)が2019年7月に公表した資料「これからの人材のスキル変革を考える~DX時代を迎えて~」によると、アンケート調査の結果、DX推進人材は大幅に不足するとされています。

このアンケート調査は、2018年12月に東証一部上場企業1000社を対象に行われたもので、このなかで企業・組織におけるDXの推進を担う人材を、以下の6種類に定義し、それぞれの人材に対する不足感を尋ねました。

① プロデューサー ・・・DXやデジタルビジネスの実現を主導するリーダー格の人材(CDO含む)
② ビジネスデザイナー ・・・DXやデジタルビジネスの企画・立案・推進等を担う人材
③ アーキテクト ・・・DXやデジタルビジネスに関するシステムを設計できる人材
④ データサイエンティスト/AIエンジニア・・・DXに関するデジタル技術(AI・IoT等)やデータ解析に精通した人材
⑤ UXデザイナー ・・・DXやデジタルビジネスに関するシステムのユーザー向けデザインを担当する人材
⑥ エンジニア/プログラマ ・・・上記以外にデジタルシステムの実装やインフラ構築等を担う人材

このリストの②にビジネスデザイナーが登場しますが、これら6つの職種が相互に連携してDX推進を担っていくと考えられています。アンケートの結果はこれらすべての職種について大幅に不足感があるとの集計になりました。

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▽DX推進人材の不足感

これまでのIT人材は、SEやプログラマを中心とした技術者が育成されてきましたが、それはもう昔の話といっていいでしょう。

これからはビジネスに精通した上でITの知識をもって、応用力と発想力でアイデアを具体的な形にしていく人材がいないと、アイデアを持つ人と実装・実行する人の橋渡しができない状況になっています。

個々でアイデアと知識や技術があっても、連携できなくては何も実行できません。すなわちビジネスデザイナーなしでは、DX推進もままならないであろうことが見えてきます。

ビジネスデザイナーが備えておくべきスキルとは

冒頭でビジネスデザイナーは、アイデアをビジネスとして成立させるための仕組みを構築する仕事であることを述べました。単なるアイデアの段階から、ビジネスに具現化していくにはどのような能力が必要なのでしょうか。

ここでは、ITのスキルやその業界知識を要していることは前提として、それ以外にビジネスデザイナーが備えておくべきスキルを挙げてみました。

事業計画書の作成スキル

ビジネスデザイナーはスタートアップの起業家と同様の能力が必要とされます。それは新規事業を計画する能力のことです。新規事業を計画する能力とは実現可能な事業計画書を作成でき、それを実行させられる能力ということになるでしょう。

出資者を募ったり、資金を借入れたりするために事業計画書の作成は必須です。そのためには、それなりの経験と知識が必要にな流でしょう。これらは書物やネットから得られる知識だけではなく、実体験や肌感覚がなくてはなりません。つまり、行動しながら身に着けていかなくてはならないでしょう。

新規事業の構築

ビジネスデザイナーは、事業計画を立案したらそれを起業家や新規事業の担当者と一緒に実行していかなくてはなりません。実際に行動するのは事業主ですから、その人たちがどのように実行すべきかわかるようにしておく必要があります。

やるべきことは山のようにあっても、まず何をするべきかわからなければ計画的に実行できないでしょう。こうした判断ができるスキルが必要になるのです。たくさんあるやるべきことの中から一つだけ選ぶ行為は、逆に考えると「何をやらないか」という引き算になります。複雑で分かりにくいものを、シンプルで分かりやすいものに変えていく行為があるからこそ、「デザイナー」といわれるのです。

ビジネスデザイナー

ファシリテーションスキル

DXを使った新規事業を推進するにあたってはチームで事を進めなくてはなりません。チームの中で情報共有するのはもちろんのこと、合意を取り付け、情報を集めそれを共有してメンバーを同じ方向に導くことが必須となります。ファシリテーションスキルとは、このようなチームによる合意形成をスムーズに進行・調整する能力のことをいいます。

会議は頻繁に行う必要が出てくると思いますが、あまり長々と行うものではないでしょう。会議の進行役は、できるだけ短い時間で最大限の効果が出るよう会議を進行させる必要があります。

またファシリテーションスキルは人間関係を良好に保つスキルでもあります。人間関係が悪いチームは物事をうまく運べません。ビジネスデザイナーにはこのようなマネジメント能力も必要とされるのです。

プレゼンテーションスキル

ビジネスデザイナーは株主、役員、銀行などステークホルダーに対して自ら企画するビジネスの企画内容や進捗について、わかりやすく説明しなければなりません。

ビジネスの成否のカギを握る人物の協力・同意を得る必要があります。聞き手がどんなことを望んでいるのか、プレゼンテーションの前提となる知識は持っているのか正確に把握したうえで、理解と同意を得られるプレゼンテーションができるかどうかは重要な能力です。

コーチングのスキル

事業計画書の作成スキルにおいて、「事業計画書を作って実行できる能力が必要であるとし、それには実体験や肌感覚が必要」と述べましたが、コーチングのスキルも実体験が重要です。

コーチングでは自らプレイヤーにはなりませんが、道筋を示す必要があります。自ら経験し、時には失敗した経験があるからこそ示せる道筋があり、それこそが成功の道筋ともいえるでしょう。

これは、上手に人を導くことのできるテクニックに、業界に携わった経験や起業の経験を加えたスキルです。

ビジネスデザイナーを抜擢・育成するには

ではビジネスデザイナーが必要になったとき、どのように採用すればよいでしょうか。ITのスキルを持ちながらも実行可能な事業計画書を作成することができ、新規事業を構築して、さらにコーチングまでできる人物など、なかなかいるものではありません。

他社の人材やコンサルタントに委託するのかというと、それもできるかどうか不安が付きまといます。そこで新規事業となったときよく使われる手が自社内から抜擢する方法です。

入社して数年たち、ある程度ベテランの域に達しており、自社内の業務に詳しい、なおかつITのスキルもそれなりにあり、新しいもの好きで新規事業に向いている人材ならどこの会社にもいるのではないでしょうか。

事業計画書の作成や新たに必要となる知識は新しく学ぶ必要があるため、育成にはある程度の時間がかかるかもしれませんが、“自社に精通した”ビジネスデザイナーを育成できることでしょう。

たとえば、営業部門や経営企画、マーケティング部門の最前線で活躍してきた人材を育成していく方法が今のところは近道になるかもしれません。

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ビジネスデザイナーが持つべき資格とは

ビジネスデザイナーとして活躍するための資格はありませんが、その能力を証明するために役立つと考えられる資格が2つほど挙げられます。

ITコーディネータ(経済産業省推進資格)

ITコーディネータ(ITC)試験は、特定非営利活動法人ITコーディネータ協会が実施する試験です。2001年、通商産業省による国家プロジェクトの一環として設けられた資格で、合格者の累計は1万人を超えているといいます。

ITコーディネータは、経営者の立場に立って、経営のためのITを実現する役割を持った人材と考えられています。ITコーディネータ試験に合格するには、2つの要件があります。

1つ目は、年間3回開催しているCBT形式(コンピュータのディスプレイに問題が表示され、それに答える形式)で行われる試験に合格することです。試験日時、会場(約300ヶ所)は試験期間内で自由に選択が可能になっています。

2つ目は、ケース研修と呼ばれる研修プログラムを修了することです。オフライン・オンライン、集合研修・レポート提出などに取り組む必要のある密度の濃い研修です。

ITコーディネータの資格を得るには、これら2つの要件を4年以内に満たす必要があります。

プロジェクトマネージャー(情報処理技術者試験:国家資格)

受験の対象者は、「高度IT人材として確立した専門分野をもち、組織の戦略の実現に寄与することを目的とするシステム開発プロジェクトにおいて、プロジェクトの目的の実現に向けて責任をもってプロジェクトマネジメント業務を単独で又はチームの一員として担う者」とされています。

プロジェクトマネージャーに期待される役割は、「システム開発プロジェクトの目的を実現するために、当該プロジェクトチーム内でのプロジェクトマネジメント業務の分担に従って、次の役割を主導的に果たすとともに、下位者を指導する。」とされており、企業のITプロジェクトを推進するマネージャーとしてその能力を証明する資格です。ITの業界では難易度の高い資格として知られています。

試験内容は、午前が1部と2部に分かれ4択問題、午後も1部と2部に分かれ記述式と論述式になっています。9:30から16:30まで午前90分、午後210分にわたる長時間の試験です。毎年1回、秋に実施されています。

ビジネスデザイナーとデジタルスキルの標準化

ビジネスデザイナーの重要性に伴い、ビジネスデザイナーをめぐる環境にも変化が起きています。

2022年12月、経済産業省とIPAは、企業・組織のDX推進を人材のスキル面から支援するため、個人の学習や企業の人材育成・確保の指針 となる「デジタルスキル標準(DSS)」を策定し公開しました。

「デジタルスキル標準」は、2022年3月末に経済産業省が公開した「DXリテラシー標準」と今回新たに策定した「DX推進スキル標準」の2つで構成されているものです。

「DX推進スキル標準」は、DXを推進する人材について、5つの人材類型および15のロール(役割)と、それらの人材に必要となる49個のスキル項目で構成されます。主な特徴は以下の通りです。(図1)

▽DXを推進する人材のうち、5つの人材類型および15のロール(役割)

これによれば、ここまで述べてきたDX推進人材としてのビジネスデザイナーに相当する部分は、「デザイナー」として3種類のロールモデルをもつ人材類型になっています。

この標準による人材類型のデザイナーとは、「ビジネスの視点、顧客・ユーザーの視点等を総合的にとらえ、製品・サービスの方針や開発のプロセスを策定し、それらに沿った製品・サービスのありかたのデザインを担う人材」と定義されています。

そしてDX推進人材類型のデザイナーは、以下の3つの役割(ロール)を持つとされています。

・サービスデザイナー
サービスデザイナーは、ビジネス変革・データ活用・テクノロジー・セキュリティというあらゆる分野をカバーしつつ、とくにビジネス変革に関して「顧客・ユーザーを理解して新しい価値を発見して実行すべきことを定義すること」を最重要とする役割とされています。

・UX/UIデザイナー
UXとはユーザー体験、UIとはユーザーインターフェースのことです。つまりサービスデザイナーと同様に顧客を重視した上で、デジタルツールを顧客・ユーザー目線で使いやすくデザインする役割を担っています。

・グラフィックデザイナー
グラフィックデザインもWEBやアプリを見やすくするうえで重要な役割を持つと考えられています。マーケティング・ブランディング、顧客の価値発見の段階からほかのデザイナーと連携することもあるでしょう。

また、DX推進標準スキルの中には「ビジネスアーキテクト」という人材類型もあります。役割としては、新規事業の開発・既存事業の高度化・社内業務の高度化効率化となっており、これも、ここまで述べてきたビジネスデザイナーの仕事の一部が分担される形です。

このように見ていくと、「ビジネスデザイナー」はこれから「ビジネスアーキテクト」と「デザイナー」に人材類型が分かれていくと想像することもできます。

DXを推進する人材としてこれまでになかった役割が必要とされ、国もここへきてデジタルスキルの標準化を提起して、DX人材育成に本腰を入れようとしています。

DXに役立つ人材を目指す、あるいは企業が自社で育成することを考えると、いずれも現状は黎明期であり、今後さまざまなビジネスの現場で活躍のチャンスが生まれてくると考えられます。

ビジネスデザイナーに関するよくある質問

ビジネスデザイナーはどういう仕事?

ビジネスデザイナーとは、アイデアをビジネスとして成立させるための仕組みを構築する仕事を担う職種のことです。IPA(独立行政法人情報処理推進機構)が2019年7月に公表した資料「これからの人材のスキル変革を考える~DX時代を迎えて~」の中で、企業・組織におけるDXの推進を担う人材の一つとして定義されています。

ビジネスデザイナーが持つべき資格は?

ビジネスデザイナーとして活躍するために必須の資格はありませんが、その能力を証明するために役立つと考えられる資格としてITコーディネータ(経済産業省推進資格)などが挙げられます。

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