製造業の省人化を実現するロボットとは?導入効果と工場活用事例の紹介
(画像=BluePlanetStudio/stock.adobe.com)

目次

  1. 製造業における産業用ロボットの役割
  2. 省人化と省力化の関係
  3. 産業用ロボットとRPAの違い
  4. ロボットが製造業にもたらすメリット
  5. ロボットの導入によるデメリット
  6. 省人化を実現する産業用ロボットの種類
  7. 産業用ロボットはどのように使われているのか
  8. 産業用ロボットの未来予想
  9. 省人化を目的としたロボット導入には事前のデータ分析が欠かせない

2019年7月に、ロボットによる社会変革推進会議が発表した「ロボットを取り巻く環境変化と今後の施策の方向性~ロボットによる社会変革推進計画~」によると、世界一のロボット生産国である日本は、産業用ロボットの導入台数が2012年には2万8,680台でトップでした。

その後、中国が飛躍的に導入台数を伸ばし、2017年には13万7,920台でトップとなりました。
日本製の産業用ロボットは総出荷台数の8割弱が国外向けで、2017年に中国で導入されていた産業用ロボットの44%は日本製が占めていました。

この動向をふまえて、今後、日本では、ロボットの導入がなかなか進まない中小企業に向けた導入の強化を進めていく方針です。

製造業においては、産業用ロボットの導入が人の作業を代替することになるでしょう。人に代わって生産ラインの工程に加わるロボットの導入は、省人化にもつながります。今回は、産業ロボットの導入が製造業にもたらすメリットやデメリットについて解説します。

製造業の省人化を実現するロボットとは?導入効果と工場活用事例の紹介

製造業における産業用ロボットの役割

ロボット政策研究会の「ロボット政策研究会報告書」によると、産業用ロボットは、センサーや知能・制御系、駆動系の3つの要素技術を知識化した機械システムと定義されています。
産業用ロボットは、製造現場の生産ラインにおいて、工程の自動化のために欠かせない役割を担っています。

作業人員の最適化

製造業で産業用ロボットを導入するのは、作業人員を最適化することが目的です。作業人員の最適化は、作業効率の向上に向けた取り組みであり、作業人員の削減を目指すものとは限りません。省力化と人員削減は、同じ視点で考えるものではないのです。

省人化を目指した作業人員の最適化は、人員削減ではなく、あくまでも作業員一人当たりの作業量を減らすことが目的です。ロボットは、作業者の負担を最適化して、働きやすい環境をつくります。働きやすい環境は、新しい挑戦の機会創出にもつながるでしょう。

省人化と省力化の関係

省人化と省力化は混同されやすい概念ですが、どのような違いがあるのでしょうか。

省力化の例

省力化は、作業負担を減らす取り組みを意味します。例えば、ある生産ラインに作業担当者が6人配置されていたとします。作業の見直しなどで1.8人分の作業を減らせた場合、その分の作業効率が改善されます。この作業負担の減少が省力化です。

ただし、6人で行ってきた作業から1.8人分の作業負担を減らせたとしても、4.2人分の作業負担のために5人の作業員を配置しなければなりません。また、0.2人分の作業を見過ごして適正人員を4人にしてしまうと、0.2人分の作業が未着手のままとなるでしょう。

端数分の作業に対して人員を減らせなければ、コストの無駄が蓄積されてしまいます。つまり、省力化だけでは作業の見直しが不十分であることが考えられます。

省人化の例

省人化は、作業負担を減らしたうえで作業にかかる作業員の人数を適正にするという考え方です。例えば、先ほどの例にあてはめると、生産ラインで6人の作業から1.8人分の作業負担を減らした場合、端数となる0.2人分の作業を残さないで、機械を導入したり割り当てたりして確実に生産ラインの人員を調整します。

その結果、6人で回す作業から余剰人員を2人削減して4人で回す体制を確立できます。作業単位ではなく、作業人員単位で生産性を計測するというのが省人化の考え方です。

産業用ロボットとRPAの違い

省人化を目的として導入する産業用ロボットは、生産ラインで人が携わっていた作業を代替する機械を指します。いわゆるハードウエアロボットです。同じように製造業や物流業界でロボットと呼ばれる対象としてRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)が挙げられます。

RPAは、産業ロボットと概念が似ています。人が行っていた作業をロボットの導入により自動化するという概念です。同じロボットでも、RPAは機械ではなく、パソコンなどにインストールして動かすソフトウエア型のロボットです。

製造業の省人化を実現するロボットとは?導入効果と工場活用事例の紹介

ロボットが製造業にもたらすメリット

ロボットが製造業にもたらす主なメリットは以下の4つです。

連続稼働による生産性向上が期待できる

ロボットを導入するメリットとして、24時間365日ほぼ続けて稼働できることが挙げられます。フル稼働の場合は、定期的なメンテナンスを除けば連続稼働を期待できるでしょう。人では実行不可能な長時間作業の自動化を実現できるため、生産性向上に役立ちます。

余剰人員を最適化したコスト削減を期待できる

ロボットを導入することにより、コスト削減の効果も期待できます。省人化を目的として導入するロボットは、設備投資として高額の費用投入が考えられるでしょう。

しかし、初期投資により、生産ラインの余剰人員を最適化できれば、長期的な視点でみると、コスト削減を実現できます。最適化した余剰人員を新規のプロジェクトなどにあてることで、コスト削減が事業拡大へとつながります。

安定した反復作業による品質向上を期待できる

ロボットは、人より安定した反復作業を行うことができます。常に安定した作業をこなすことにより、製品の品質向上が期待できるでしょう。産業ロボットは、ムラのある人間の動きと異なり、安定した動きを継続できます。その安定的な動作が品質向上に役立ちます。

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ロボットの導入によるデメリット

ロボットを導入することによるデメリットとして、表面的な計画で導入してしまうとロボットの導入効果が得られないという点が挙げられます。

ロボットの得意領域を見極めなければ効果を発揮しない

製造業におけるロボットの導入は、得意な領域を見極めないと、効果を発揮できません。近畿経済産業局の発表した「中小製造業のためのロボット導入促進ガイドブック」によると、ロボットには以下のような特徴があります。

製造業の省人化を実現するロボットとは?導入効果と工場活用事例の紹介

ロボットは、人と専用機の中間に位置する作業手段です。専用機のように特定の作業に特化した機械ではないため、ロボットごとの得意領域を見極める必要があります。ロボット導入にあたって得意領域を見極めていないと、ロボットの能力を十分に活用できないでしょう。

専門的な知識や技術を持った人材の確保や育成

製造業の企業が産業用ロボットを導入する際は、専門的な知識や技術を持つ人材の確保が必要です。産業用ロボットは、導入すればすべて自動で任せられるわけではありません。導入後には、適切な設定や定期的なメンテナンスなどをしなければ活用することが難しいでしょう。

そのため、製造業の企業が産業用ロボットを導入する際は、ロボットやAI、IoTに関する知見を持つ人材の確保から始める必要があります。もし、産業ロボットの導入を「時代の流れだから」という理由で、準備もしないで導入すれば、行き当たりばったりの活用になります。導入は計画的に行い、専門的な見解を重視しましょう。

事前準備を怠れば誤解を生み離職を誘発

ロボットの導入は、計画的に進めなければ従業員の誤解を招く恐れがあります。特に、長年体制が変わらなかった現場では、ロボットの導入による人員削減や新たなIT技術の習得などの変化を従業員が不安視する可能性もあるでしょう。従業員の不安に対処することなく、ロボットの導入を進めてしまえば、誤解を生みだすかもしれません。そのため、ロボットの導入に至る経緯や導入効果などを事前にしっかりと説明することが大切です。

事前準備を怠れば、誤解を生み、離職の誘因にもつながるでしょう。省人化のためのロボットの導入は、人員削除や人件費削減を目的にしているのではなく、生産性向上による競争力の強化にあるという点を説明するし、従業員に理解してもらうことが大切です。

省人化を実現する産業用ロボットの種類

省人化を実現する産業用ロボットの具体的な種類を紹介します。

垂直多関節ロボット

人間の動きに似ている産業用ロボットの一つである垂直多関節ロボットは6軸稼働で機能します。具体的な動きは次のとおりです。

  • 身体軸:第1軸となる腰の回転が可能
  • 腕軸:第2軸となる肩の回転と腕の上下
  • 腕軸:第3軸となる肘の曲げ伸ばしと下腕の上下
  • 手首軸:第4軸となる手首の回転
  • 手首軸:第5軸となる手首の曲げ伸ばしと上下
  • 手軸:第6軸となる指先の回転

垂直多関節ロボットは、人の片腕を模倣した腕型ロボットです。マニピュレータ(ロボット本体)とコントローラー(基盤装置)、ティーチペンダント(オンラインプログラム記憶端末)で構成されています。

水平多関節ロボット

水平方向の動きをする水平多関節ロボットは、先端部が水平に移動する仕組みから、基盤の部品配置に使われます。基盤に部品を配置する際の押し込む動作が特徴です。水平多関節ロボットは、大きなロボットではないため、狭い場所でも設置できます。

直角座標ロボット

直角座標ロボットは、縦と横、高さの3方向を直線的に動くロボットです。直線的に3方向をスライドするだけの動きなので自由度や複雑な動きは期待できません。ただし、位置決めに関しては、精度の高さを持っています。

円筒座標ロボット

円筒座標ロボットは、1つの回転運動と1つの直進運動のジョイントを持つ作業領域の広いロボットです。アームの伸縮や直進運動だけではなく、上下の移動もできます。ただし、回り込む動きには向いていません。

極座標ロボット

極座標ロボットは、土台の旋回軸で左右に回転できます。旋回軸にある2つの回転ジョイントと伸縮運動の直進ジョイントで構成されています。

パラレルリンクロボット

パラレルリンクロボットは、人の動きでは再現できないロボット特有の動きをすることができます。形状的には、マニピュレータから並列につながったリンクを持っている点が特徴です。このリンク同士が連携して高精度の作業を可能にします。

産業用ロボットの種類

産業用ロボットはどのように使われているのか

実際に産業用ロボットがどのように使われているのか、経済産業省が公開した「一般社団法人日本ロボット工業会による「ロボット導入実証事業事例紹介ハンドブック2016」を参考に、作業ごとの活用事例を解説します。

南部鉄器鉄急須のホーロー工程のロボット導入

岩手県奥州市の製造業の及源鋳造株式会社では、南部鉄器の鉄急須の加工の工程にロボットを導入し、職人によるホーロー引きと振り切りの作業をロボットに代替しました。ロボットに代替した工程は、次のとおりです。

  • 鉄急須の取り出し作業
  • 急須にホーローを塗布する作業
  • 塗布後の急須から余分なホーローを振り切る作業

導入したロボットは、多関節ロボットです。ロボットの導入により、作業員2名の作業から1名分の省人化に成功しています。従業員の労働時間は従来のままで、生産量は132%増加しました。労働生産性は、2.64倍まで向上しました。この事例では、ロボットの作業習得の早さが技能承継の短縮につながっています。人が実行する際に負担となる過重労働が低減できたことも生産量増加の要因ではないでしょうか。

建設部品の外観部溶接工程にロボット導入

広島県広島市の製造業の株式会社江波工作所では、近年の労働人口の減少問題を解消するために、熟練技能者の高度な技術をロボットに代替しました。建設部品の外観部溶接工程は、一つの製品で2ヵ所、人による4時間の単調な手作業が実行されていました。そのうえ、高度な超音波探傷検査の工程も必要だったため、ロボットの導入に至りました。ロボットに代替した作業は以下のとおりです。

  • 熟練技能者でなければできなかった作業をロボットに代替
  • 熟練技能者とロボットの共同作業で10メートルの製品を1ミリ単位で制作
  • 部品の外観部の70%をロボットが溶接加工
  • ロボットにできない部分を熟練技能者が補助加工

導入したロボットは、多関節ロボットです。ロボットの導入により、作業人員4名から3名への省人化を実現しています。労働時間も8時間から6時間と2時間の削減となりました。逆に、生産量が3個から5個に増えているため、労働生産性が150%向上しました。この事例では、産業ロボットの得意とする部分を見極めて、熟練技能者と共同作業を実現している点が大きな成功要因と考えられます。

産業用ロボットの未来予想

産業用ロボットの市場、今後さらに成長すると予測されています。
経済産業省とNEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)が公開した「2035年に向けたロボット産業の将来市場予測」には、2035年には9.7兆円まで市場規模が拡大するという予測データが示されています。

日本では、ロボット産業の将来的な発展に向けて、今後、官民一体の取り組みを強化することが課題となっています。官民一体となって取り組むことが、少子高齢化による労働人口の減少と技能継承の問題の解決につながるでしょう。

産業用ロボットは、人の代わりに作業することを目的として作られています。そのため、労働人口が減少することで起きる人手不足の解消に役立つでしょう。人手不足で頭を抱えている製造業の企業にとっては、生産ラインの見直しから検討して積極的に産業ロボットの導入を検討することが求められています。

製造業の省人化を実現するロボットとは?導入効果と工場活用事例の紹介

また、国内産業の中でも製造業の技能継承は86.5%の事業所が抱える大きな問題です。技能継承を人から人へ伝承する場合は、属人的な要素も絡むため、時間や労力を必要とするでしょう。産業用ロボットの得意な部分を生かせれば、作業の一部をロボットの作業による自動化へ移行できます。技能継承は、技能を可視化し、デジタル化してこそ明確な伝達が実現できます。

省人化を目的としたロボット導入には事前のデータ分析が欠かせない

省人化を目的として産業用ロボットを導入する際は、どの作業にどのような自動化が必要なのかを事前計画の段階で十分に分析して明確にすることが大切です。事前の分析や計画があいまいだと、中途半端な省力化で終わってしまう可能性もあります。また、省人化は、一歩間違えば、従業員に人員の削減が目的だと誤解されて、従業員の離職を誘発します。そのため、行き当たりばったりの導入ではなく、従業員に対する説明を含め、事前にしっかりと計画を立てて進める必要があります。

省人化のためのロボットの計画的な導入には、AIやIoT、ロボットに関する知見を持つ専門家の力が求められます。IoTやAIの分野は業種ごとに異なるため、製造業に特化したDXの知見を持つ専門家を活用することをおすすめします。

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