製造業におけるバリューチェーンとは?課題分析と活用方法
(画像=Blue Planet Studio/stock.adobe.com)

製造業で、新たな価値を発見するために用いられる考え方の一つとして、「バリューチェーン」というものがあります。バリューチェーンは製造業に限ったものではなく、企業のビジネスプロセスの中で商品やサービスの価値を高めるための流れのことです。自社商品の価値を高めるためにも、バリューチェーンの考え方を活用するとよいでしょう。

今回は、製造業におけるバリューチェーンについて解説します。バリューチェーンの活用方法などについても触れるので、ぜひ参考にしてみてください。

目次

  1. バリューチェーンとは
  2. 製造業のバリューチェーンにおける主活動の3チェーン
  3. バリューチェーン分析のメリット
  4. バリューチェーンを分析するために必要な手順
  5. バリューチェーン分析が必要となる背景
  6. 製造業のバリューチェーン分析に最適なシステム
  7. DXの推進が求められている
  8. 自社の価値をバリューチェーンで見つけよう

バリューチェーンとは

バリューチェーンとは、企業の事業活動で生み出される価値を、1つの流れとして考えるものです。日本語では「価値の連鎖」を意味し、原材料の調達から顧客に商品を届けるまでの流れにおける複数の機能の中で、商品の価値を高めることです。

1985年にハーバード大学経営大学院教授のマイケル・E・ポーター氏が提唱したフレームワークであり、企業の活動が最終的な付加価値に対して、どのように貢献しているのかを明確にするためのツールです。また、バリューチェーンでは、企業の活動を大きく分けて「主活動」と「支援活動」の2種類に分けます。

この主活動とは、生産から消費に直接関わるプロセスのことであり、支援活動は間接的に生産・消費に関わる活動のことです。例えば、生産・出荷・物流などのプロセスは主活動に分類され、人事や技術開発などは支援活動に該当します。

バリューチェーンのイメージ

このバリューチェーンを分析することにより、自社が提供できる価値や不利になる弱みなどを把握しやすくなります。それらを把握した上で戦略を考えることで、より利益を追求できるでしょう。経済産業省がまとめた『通商白書』でも、下図の「日本を中心としたグローバル・バリュー・チェーンの実態」が示されており、国家規模で経済を考える際の基本的な考え方になっています。

世界における日本の付加価値のフロー(出典:経済産業省『通商白書2019』より)

製造業におけるバリューチェーンとは

製造業では、原材料の調達や加工・生産がメインの業務です。そのため、より品質の良い原材料を安く仕入れ、競争力が高い商品を作ることが、製造業における付加価値をつける大きなバリューチェーンの主活動になります。

また、新しい価値を創造するために、新商品の企画・開発も行うでしょう。ヒット商品を作るために、市場調査の実施や消費者のニーズを把握する必要があり、これらを徹底することで商品の価値は高まります。

しかし、良い商品を作ったからといって必ず売れるわけではありません。品質を維持した状態で、消費者のもとへ届けることも必要になるため、物流・販売のプロセスもバリューチェーンの中では重要な役割を担っています。

サプライチェーンとの違い

製造業では「サプライチェーン」という言葉がよく使われます。サプライチェーンとは、製造業における一連の流れのことであり、原材料の調達から加工・生産・出荷・物流・販売という消費者の手元に届くまでのプロセスです。

これらは1つの鎖のようにつながっているため、日本語では「供給連鎖」と呼ばれています。サプライチェーンは商品が供給されるまでの流れを示しており、バリューチェーンはどのように価値が加わっているのかを示しています。

いずれのチェーンも製造業にとって重要なものです。サプライチェーンを最適化することにより、生産過程の無駄を省けるため利益を大きくできるでしょう。バリューチェーンを最適化すれば、自社商品の価値は高まります。

製造業のバリューチェーンにおける主活動の3チェーン

製造業のバリューチェーンの主活動をプロセスにすると、次の3つのチェーンに分類できます。

  1. デマンドチェーン
  2. サプライチェーン
  3. エンジニアリングチェーン

ここでは、主活動の3つのチェーンについて紹介します。

デマンドチェーン

デマンドチェーンとは、マーケティングや営業活動などであり、商品を製造する前後のプロセスです。そのため、サプライチェーンとは対称的な関係であり、顧客に提供する価値を最適化することが目的です。製造業においては、マーケティングなどによる需要予測や、新商品開発に向けた市場調査などを実施します。他にも、営業活動による顧客・需要の拡大も含まれます。

サプライチェーン

サプライチェーンとは、原材料の仕入れから消費者への商品提供までのプロセスのことであり、製造業における根幹をなす流れです。サプライチェーンは自社だけではなく、仕入れ業者や卸売業者、小売業者、物流業者など、複数の企業が含まれており、全体の流れを効率化する際に役立ちます。

エンジニアリングチェーン

エンジニアリングチェーンとは、商品の設計・設備の設計・生産準備・保守までのプロセスのことです。これらの最適化を図ることを「Engineering Chain Management」と呼び、略してECMと呼ぶこともあります。エンジニアリングチェーンは、製造プロセスを客観的に分析することで、主に商品の品質向上や生産工程の効率アップなどを実現します。

バリューチェーン分析のメリット

製造業では、バリューチェーン分析を行うことで、業務改善につながるさまざまなメリットを得られます。製造業の規模が大きくなると、購買、製造、出荷、物流、販売といった一連の流れが複雑化します。そこで、バリューチェーン分析を行うことで、事業の構造を明らかにし、問題点や改善策が見つかりやすくなります。ここでは、製造業がバリューチェーンを分析するメリットを紹介します。

コストが発生しているポイントを見つけられる

製造業が利益を最大化するためには、コストを抑えて売り上げを増やす必要があります。しかし、サプライチェーンが複雑になるほど、各プロセスにおけるコストの発生ポイントが見つけにくくなります。バリューチェーン分析を行うことでコストの発生源を見つけられます。無駄な経費が見つかれば、必要最低限に抑えることで利益を高められるでしょう。

差別化要素を見つけられる

バリューチェーン分析を行うことで、付加価値を生み出しているプロセスが明確になります。そのため、自社の強みを把握でき、他社との差別化ポイントが見つかるでしょう。自社の得意分野を明確にした上で、予算や人材、資材などの経営資源を再分配することで、価値・利益を高められます。

反対に、他社と比較して弱点になっているポイントがあれば、改善策を考えることで新しい価値が生まれる可能性があります。

競合他社の分析によりヒントを得られる

バリューチェーンの分析範囲は自社だけに限りません。競合他社を分析することで、差別化要素・競争力、自社に足りないポイントや勝っている要素を見つけられます。競合の状況を把握することで、今後の動向を予測しやすくなるでしょう。

また、他社の強みになるポイントを自社に生かせる可能性もあります。自社だけでなく他社も含めてバリューチェーン分析を実施することで、視野が広がり客観的な分析を行えるようになります。

バリューチェーンを分析するために必要な手順

適切にバリューチェーンを分析するためには、いくつかの手順通りに進めることが大切です。ここでは、バリューチェーンを分析する際の手順を紹介します。

現状を把握する

まずは、バリューチェーンの構造を明らかにするために現状を把握します。事業に関わる全ての活動を洗い出し、それぞれの活動をその機能別にリストアップします。その中から主活動と支援活動に分類しましょう。このように、事業活動を洗い出し、分類することで現状の活動が見えてきます。

コストを分析する

現状把握のために、各事業の活動などのプロセスを細分化した後は、それぞれの費用と収益のバランスを評価していきます。このとき、活動ごとにコストを評価するのではなく、そのプロセスの担当部署を整理するとよいでしょう。それぞれの部署のコストと収益のバランスが分かるため、比較することでコストの無駄を見つけやすくなります。

1つのプロセスに複数の部署が関与している場合は、活動の比率をまとめると比較しやすいでしょう。コストの発生原因やそれぞれの費用の関連性を明記すると、より詳細に分析できます。

自社の強み・弱みを分析する

自社の価値を把握するためには、強みや弱みを分析して把握することも重要です。競合他社よりも優位性があるポイントや、不利な点を把握することにより、提供できる価値や改善点が見つかりやすくなります。これらを把握することで、自社の価値を生かすための戦略を考えやすくなるでしょう。

経営資源の評価

コストを分析した後は、各活動に関する経営資源を評価します。経営資源を評価する際には「VRIO分析」という手法が使われるケースが多いです。VRIO分析とは、Value(価値)・Rareness(希少性) ・Imitability(模倣可能性)・Organization(組織)の略であり、それぞれの項目で強みや弱みを分析します。

人材や設備などの経営資源を洗い出した後は、VRIOのどれが該当するかを整理しましょう。当てはまる項目が多い経営資源は、競争優位性が高いと判断できます。反対に、当てはまる項目が少ない経営資源は、不足を補うための施策が必要になります。

分析結果を戦略に生かす

バリューチェーン分析で重要なことは、結果を戦略に生かすことです。自社の経営資源の強みや弱みが把握できた後は、それを戦略として実際の業務に落とし込みましょう。強みとなる経営資源がある場合は、より強化することで価値を高められる可能性があります。

また、他社と差別化を図りやすいものであれば、差別化できる要素を強化することで、新しい価値を創造できるでしょう。

無料eBook

  • 製造業DXの教科書
    図版と事例でわかる|製造業DXの教科書

    世界市場での競争の激化や労働人口の減少などが進む今、日本の製造業においてDX(デジタル・トランスフォーメーション)の推進は不可欠です。 このeBookでは、製造業のDXの全体像について詳しく解説します。 DXに必要な技術を製造プロセスごとに紹介するほか、具体的な活用事例、製造業DXの今後の展望まで幅広く理解できる内容になっています。


バリューチェーン分析が必要となる背景

バリューチェーンを分析することで、自社の強みや提供可能な新しい価値が見えてくるでしょう。より具体的にバリューチェーンを分析する必要性を押さえることで、有益な分析を行えます。ここでは、バリューチェーンを分析する必要性について説明します。

多様化する顧客や市場のニーズに対応する

現代では、大量生産・大量消費ではなく、多品種少量生産が求められるようになっています。いわゆる「モノ消費」から「コト消費」へと変わっていき、消費者や市場のニーズが多様化しています。自社が持つ既存の技術や商品を軸に事業を展開するだけでなく、顧客のニーズに対応する視点が求められるでしょう。

そのため、企業側はさまざまなニーズに対応するために新しい価値を創造するか、自社の価値を明確にした上で効果的な戦略を立案することが必要です。また、既存の顧客以外にも潜在的な顧客や市場全体に関する理解も必要になるでしょう。

バリューチェーンを分析することにより、提供できる新しい価値や自社の価値を明確にできます。また、バリューチェーンを最適化することにより、多様化するニーズにも対応しやすくなります。

VUCAの時代への対応

現代は、ITシステムなどのテクノロジーの発展や、世界的な経済情勢が目まぐるしく変化しており、環境が複雑化することで将来の予測が困難になっています。この状態を「VUCAの時代」と呼んでおり、今後は激しく変化する社会に対応しなければなりません。

VUCAとはVolatility(変動性)・Uncertainty(不確実性)・Complexity(複雑性)・Ambiguity(曖昧性)の頭文字です。1990年代の後半に軍事用語として生まれたといわれていますが、2010年代になって、先を見通せない情勢を指すビジネス用語として用いられるようになりました。現代は、想定外のことが次々と起きる可能性があり、それに応じる形で、新しい価値を提供する商品やサービスが登場することもあるでしょう。

そのため、自社が提供できる価値や強み、得意分野を把握する必要があります。新しい価値を継続的に創造できるように、バリューチェーンを分析して最適化できれば、激動の時代を乗り越えられる可能性が高まるでしょう。

製造業のバリューチェーン分析に最適なシステム

製造業のバリューチェーン分析を効率化するためには、社内の活動に関するデータを把握できるシステムが必要です。製造業の根幹のプロセスであるサプライチェーンを最適化するサプライチェーンマネジメント(SCM)や、企業の経営資源を最適化する統合基幹業務システム(ERP)などが該当するでしょう。

ただし、SCMはサプライチェーンの活動に限定したシステムであるため、企業全体のバリューチェーンを分析するためには、ERPなどの基幹システムも必要になります。これらのITシステムを導入することで、各業務のコストや収益、商品を生産する量などのデータも把握しやすくなるでしょう。

これらのシステムによりビッグデータを蓄積することにより、精度の高い分析が可能になります。また、ERPで製造業のプロセスを可視化することにより、バリューチェーン分析をスムーズに実施できます。

SCMだけでなく、ERPを活用することで全社的なプロセスを可視化できます。これにより、価値を生み出すプロセスが明確になり、顧客や市場の多様化するニーズにも対応しやすくなるでしょう。

DXの推進が求められている

DXとは「Digital Transformation」の略であり、業務プロセスなどをデータとして扱い、組織やビジネスの仕組みを変革することです。ここまで説明した通り、バリューチェーンを分析するためには、有効なデータの存在が不可欠です。

SCMやERPなどのITシステムを活用することにより、データを収集することで、より効果的なバリューチェーン分析を行えます。また、サプライチェーンのように製造業のプロセスの一部分だけでなく、全社的なバリューチェーンの分析を行うためには、普段の業務を効率化するためのツールの導入も必要になるでしょう。

データとデジタル技術を有効活用することにより、付加価値の向上が期待できます。実際に経済産業省は「2025年の崖」の対策として、DXの推進を本格的に進めています。「2025年の崖」とは、全社横断的なデータ活用ができないことや、業務プロセスが複雑化・ブラックボックス化することにより生じる損失のことです。

経済産業省は、これらの課題を克服できない場合、2025年以降に年間で最大12兆円の経済的な損失が生じる可能性があるとしています。反対に、DXを推進することができれば、既存業務の効率化だけでなく、従来の延長線上ではない変革をもたらすことも可能になります。

2025年の崖(出典:経済産業省『DXレポート』)

自社の価値をバリューチェーンで見つけよう

現在は、消費者や市場のニーズが多様化しているだけでなく、ITシステムなどの技術の発展により将来の予測が難しい時代になっています。そのような時代の中で製造業の企業が生き抜いていくためには、自社の強みや得意分野を適切に把握し、利益を出すための戦略的な活動が求められます。

また、新しい価値を創造することにより、多様化するニーズにも対応しやすくなるでしょう。自社の価値を見つけ、新しい価値を提供し続けるためには、バリューチェーンの分析が不可欠です。

また、分析のサイクルを効率良く回し続けるためには、SCMやERPなどのシステムの活用も必要です。製造業は日々の業務の中で、膨大な量のデータが発生するため、それらを収集・管理する体制づくりが求められるでしょう。自社に最適なシステムを導入し、新しい価値を生み出すためにバリューチェーン分析を行ってみてください。

【こんな記事も読まれています】
国内製造業の再生を狙うINDUSTRIAL-Xが推進する[ESG×DX]時代の戦い方
製造業における購買・調達業務とは?課題の解決方法も紹介
サプライチェーン排出量はなぜ注目される?算定方法も含めて紹介