AIによる在庫管理のメリット・デメリットは?導入事例を解説
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人の手による在庫管理では、いくら気をつけていてもミスは起きてしまうものです。そこで注目されているのが、AIによる在庫管理です。

AIによる在庫管理を導入することで、業務の効率が上がるだけでなく、ミスを抑止することもできるでしょう。ただし、AIを導入し生産性を向上するためには、メリットやデメリットをしっかり把握しておくことや、自社に合ったシステムを導入することが大切です。

目次

  1. AIによる在庫管理とは
  2. AIによる在庫管理の導入事例
  3. AIによる在庫管理のメリット
  4. AIによる在庫管理のデメリット
  5. AIによる在庫管理の導入方法
  6. AIの在庫管理を導入して効率アップしよう

AIによる在庫管理とは

AI(Aartificial Intelligence​)は日本語では人工知能と訳されます。AIの定義は「知能を持つメカ」という表現が適切でしょう。身近なAI機器が「スマートスピーカー」や「お掃除ロボット」などの家電製品です。これらの製品はデータを学習・分析することで機能します。このようなAIの学習・分析能力を、在庫管理にも応用することができるのです。

在庫管理の重要性とAI導入の背景

在庫管理とは、商品や材料などの在庫数が適切になるように維持する活動です。在庫管理を行うことで、コストの削減や利益向上が期待できます。また、顧客の要望にも迅速に対応できるので、満足度の向上にもつながるでしょう。このように、在庫管理は企業の収益性に欠かすことができない業務です。

AIによる在庫管理のイメージ

在庫管理のポイントは以下の4つです。

  1. 在庫の把握
  2. 環境の整備
  3. ABC分析(在庫管理の優先度を分析)
  4. 入出庫管理

中でも「どれだけの商品を入庫し、反対にどれだけ出庫したか」を管理する入出庫管理は、「いつ・どの商品が・どれだけの数」移動したかを逐一記録しなければいけません。記録漏れや個数間違いなど、人為的ミスも発生しやすくなります。

そのため近年では、在庫管理システムにAIを導入する企業が増えています。AIによる在庫管理では、在庫状況をリアルタイムで管理・把握できるほか、自動発注や需要予測が可能です。加えて、記録漏れや発注ミス、在庫数の入力ミスなども防ぐこともできます。

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AIによる在庫管理の導入事例

AIによる在庫管理は、製造業だけでなくさまざまな分野で注目されています。実際に導入することで、在庫問題の解消や生産性の向上につながった企業も多数あります。AIによる在庫管理を導入し成功した事例を知ることで、自社ではどのように活用できるのかがイメージできるでしょう。

薬局における導入事例

株式会社ビッグツリーテクノロジー&コンサルティング(以下BTC)では、AIを利用した「保険薬局における在庫適正化サービス」の実用化に向け、複数のチェーン薬局での効果検証に着手しています。その結果、発注や納入回数や毎月末の在庫金額、欠品回数の削減に成功しました。

実施した検証を踏まえ「主に特定の病院の処方箋を受け付ける薬局」や「地域密着型の薬局」など、さまざまなタイプの保険薬局ごとに効果を検証します。

AIによる在庫管理を導入することで薬剤師の業務負担が減るため、患者一人ひとりに対応する時間を増やすことができます。また、処方ミスの削減により患者からの信頼度が向上するだけでなく、患者の安全を守ることが可能になるでしょう。

薬局の数は近年、増加傾向にあります。自店の患者数を一定数確保し利益を上げるには、他店との差別化が重要です。AIによる在庫管理は、業務の正確性や患者の満足度向上につながるため、患者数の増加も期待できるでしょう。今後の株式会社BTCの効果検証結果に注目が集まります。

書店における導入事例

株式会社フライウィールは、需要予測による発注および個店の品揃え最適化をサポートするサービスを開発しています。この需要管理サービス公開に先立ち、TSUTAYAの書店事業で先行導入しました。その結果、30%以上が一般的とされる書籍の返品率が13%まで減少させることに成功し、スペースをさらに有効活用できるようになりました。

この結果を踏まえ、フライウィールは需要予測機能を各店舗の全在庫へと拡大し、機能拡張によって、TSUTAYA各店舗の売り場の規模に応じた在庫数の最適化を実現しました。在庫管理や返品作業に人的労力を割く必要がなくなるため、収益性の向上につながります。

書店の発注業務は、店舗の発注者が自身の販売経験から書籍の売れ筋リストを予測し、発注するのが一般的でした。現在はAIがシミュレーションに基づいて売れ筋リストを予測しています。つまり、書店員の知見とAIの機能を融合させることで、品揃えの改善・発注業務の負担削減が実現したのです。

宅配デリバリーにおける導入事例

株式会社サンライズでは、飲食店特化型AI自動発注サービス「HANZO」を導入し、宅配寿司55店舗に活用しています。HANZOは、天候による売り上げの増減および直近の客の注文傾向を加味し、店舗ごとの売り上げ予測をAIが分析するシステムです。適切な発注が可能になるため、過剰在庫や食材不足を防止し、発注業務の時間短縮につながります。

発注作業は、店員の勘と経験値が頼りです。とはいえ、常に予測が的中するとは限りません。時には食材が不足したり余ったりという発注ミスが起こることもあったため、発注作業が従業員の心理的負担となっていました。

HANZOを導入してからは、発注ミスが削減し、メニューごとの注文数予測と食材原価の把握が正確に行えるようになりました。時間的・心理的負担も軽減され、サービスの向上や従業員の教育に時間を割けるようになったのです。

コンビニエンスストアにおける導入事例

株式会社セブン-イレブン・ジャパンでは、2020年1月に千葉県内のセブン-イレブン約1,100店舗にAI発注システムを導入しました。対象の商品は日用品など約2,500品目で、これまでの発注データに基づき、最適な発注量数を自動計算するシステムです。

導入の結果、これまで1日に約80分かかっていた発注作業が約45分に短縮し、従業員の業務負担軽減を実現しました。株式会社セブン-イレブン・ジャパンは2023年春に、国内全店舗にAI発注システムを導入しています。

株式会社ローソンでは、2015年よりAIを活用したセミオート発注システムを導入しました。セミオート発注システムは、自店の3日間の平均販売数および天候・曜日・本部施策などを加味した発注数を1日4回算出するシステムです。

セミオート発注システムは主にサラダやデザート、おにぎりといった消費期限の短い商品に活用され、カップ麺や日用品といった日持ちするものは従業員による計画発注を実施しています。このように2つの発注システムを組み合わせることにより、1日1人あたり2時間の作業時間削減に成功しました。

衣料品店における導入事例

アパレルメーカーH&Mは、「一切廃棄はしない」というポリシーのもと、社内のAI導入を推進している会社です。製品をどの国のどの地域の店舗にどのタイミングで配分するかをAIが分析し、その結果をもとに、SNSや顧客データに基づくトレンドも加味しつつ、商品の生産・流通量を検討しています。また、AIが実店舗での購入・返品実績を分析し、商品の仕入れ担当者の判断・管理をサポートします。

AIによる在庫管理の強みは、時を経るごとに精度が上がることです。情報が多くなればなるほど機械学習によるアルゴリズムが発展するため、さらに精度の高い予測が実現可能になり、売り上げアップや在庫の削減につながります。

小売業者にとって、在庫管理は利益に直接結びつく重要な業務です。また「大量生産・大量廃棄」という企業姿勢は、昨今の消費者意識から大きく乖離しています。つまり、小売業界にとって「正確な在庫管理」は重要な課題となるため、AI導入を検討する企業が今後ますます増加することでしょう。

AIによる在庫管理のメリット

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さまざまな企業がAIによる在庫管理を積極的に導入する背景には、在庫管理の効率化や正確性の向上を実現させたい、というニーズがあります。人力で在庫管理を行う際に発生するかもしれないさまざまなトラブルや、課題の解決にもつながるでしょう。

需要予測の計画性向上

AIは売り上げや天候などの外部要因、顧客の属性など、さまざまなデータを分析して需要を予測します。そのため、従業員が勘と経験値に基づいて予測するよりも正確な答えを導き出せるでしょう。特に、AIは情報が多ければ多いほど機械学習により精度が向上するため、長く活用すればするほど正確性がアップします。

在庫管理における需要予測の目的は、商品在庫の適切な管理と不要在庫を抱えることで発生する損失の削減です。AIを活用した需要予測を行えば、データに基づいた正確な予測が可能になるだけでなく、これまで見えてこなかった需要の増減の要因も可視化されるでしょう。

過剰在庫・欠品の防止

AIによる正確な需要予測を行うことで過剰在庫および欠品の防止につながります。欠品を恐れて過剰に発注することで余計に費用がかかってしまった、というのはよくある事例です。

商品によっては長期保存することで劣化してしまい、出荷不可となるケースもあります。反対に、欠品数が多く必要なときに出荷できず、顧客の信頼を失ってしまうこともあるでしょう。

AIによる在庫管理を導入することで、データに基づく適切な在庫管理が可能になります。その結果、過剰在庫にはならず、欠品も防げる在庫を維持できます。顧客満足度の向上やコスト削減も期待できるでしょう。

業務効率の向上

AIによる在庫管理を導入することで、在庫情報や出庫情報などのデータがシステムで一括管理できます。また、補充や発注のタイミングも最適化できるでしょう。その結果、これまで多くの時間と人手を取られていた業務が自動化できるため、企業全体として見たときの効率化が図れます。

限られた人員で最大限の生産性を追求するには効率化が必要不可欠です。そのためには「AIに任せられる分野はAIに託し、人間は人間にしかできない業務に集中する」と、仕事を区分することがポイントでしょう。

人的ミスの抑制

人の手で在庫管理を行うと、どうしても数え間違いや重複して数えてしまうなどのミスが発生します。在庫数など手作業で入力すると、人為的なミスが起きてしまうのは当然です。また、需要予測の失敗は仕入れの過不足につながってしまいます。いくら経験を積んだ人でも、人的ミスを100%防げる保証はありません。

AIによる在庫管理システムを導入すると、正確なカウントや入力が自動化されるため、人的ミスを抑制できるメリットもあります。人的ミスを抑止できれば、ミスの修正作業や再発注作業にかかる時間を削減できるだけでなく、過剰な仕入れによる損失も防げるでしょう。

倉庫スペースの確保

AIによる在庫管理を行えば、過剰在庫を削減できます。その結果、商品を保管するための倉庫スペースにかかるコストを削減できるでしょう。倉庫スペースが新たに確保できるため、新たな在庫が保管できるようになります。

また、冷蔵品や冷凍品は、冷蔵庫・冷凍庫内に保管しなければいけません。しかし、収容できるスペースには限りがあるため、より正確な在庫管理が必要です。AIを活用して在庫管理すれば、冷蔵庫の稼働台数および稼働面積を削減でき、電気代の節約にもつながるでしょう。

このように、AIによる在庫管理を導入することで、デッドスペースをなくし、限られた面積を有効活用できるのです。

AIによる在庫管理のデメリット

AIによる在庫管理には多くのメリットがありますが、その反面、100%うまくいくとは限りません。在庫管理にAIを導入する際には、現状の課題もしっかり理解しておく必要があります。AIを活用するデメリットを把握し、事前に対策を講じておきましょう。

導入時に時間とコストがかかる

AIは高額なサービスが多いため、導入の際にはまとまった金額が必要になります。また、導入してすぐに実務に活かせるわけではありません。

正確に操作できる人員が必要です。社員にシステム操作やデータ解析を学んでもらうためには、研修期間が必要でしょう。研修を行う際にもコストがかかります。このほか、システムのアップデートやメンテナンスにも費用が必要です。

このように、AIによる在庫管理を導入するには、ある程度のコストと時間が必要です。導入する前に、どれくらいの資金と時間が必要になるのかを試算しておくとよいでしょう。

システムが複雑になる可能性も

AIによる在庫管理の導入が、システムが複雑化につながる可能性があります。したがって、システムの管理やメンテナンスに苦戦してしまうかもしれません。

また、既存のシステムに導入しようとしても連携できない場合もあります。社内の基幹システムと連携できないと、AIによる在庫管理が導入できません。その場合は、基幹システムそのものを見直す必要があります。

AIによる在庫管理を導入する際は、既存のシステムが外部のデータと連携できるのかどうかを確認するとともに、システムをスムーズに活用できる体制を整えておきましょう。

過去の実績データが必要

せっかくAIによる在庫管理を導入しても、対象データの量が不十分では、正確な分析が行えません。たとえば新商品や、売れ筋ではない商品のデータ数は少なくなってしまうので、分析の精度も低くなってしまうでしょう。

AIには傾向のつかめないデータ、想定外の事象に柔軟に対応する能力はありません。さらに、データに誤差やノイズが発生している場合、正確な分析ができなくなってしまいます。

AIに在庫管理を託せばすべて万全という思い込みは捨てましょう。また、導入する前に、自社が過去のデータをどれくらい蓄積しているのかを確認しておくことも大切です。導入した後も、整理整頓や先入れ先出しなど人の手による管理も継続して行いましょう。

AIによる在庫管理の導入方法

(画像=Mustafa/stock.adobe.com)

AIによる在庫管理を導入する方法は、既存のシステムに実装する方法と新規導入の2つの方法があります。まずは、AIによる在庫管理を導入することで、どのような課題を解決したいのかを明確にしましょう。そのうえで、自社にとってベストな導入方法を採用することがポイントです。

既存の在庫管理システムにAIを実装する方法

現在使っているシステムに合ったAIを導入する方法です。AIがもともと入っているシステムを導入するわけではないので、既存のシステムに合ったAIを新たに構築する必要があります。既存システムにそのまま実装できるケースもありますが、ほとんどの場合、既存システムを変更する必要があります。。

AIを実装するプロセスではAIの専門知識を有する人物が必要不可欠です。社内にエンジニア等がいない場合は、新たにエンジニアを採用するか、導入作業を外注する必要があるでしょう。

AI対応の在庫管理システムを導入する方法

これまで手作業で在庫管理を行っていたり、在庫管理システムを一新したいと考えていたりする場合は、AI対応の在庫管理システムを新たに導入するとよいでしょう。AIによる在庫管理システムは数多くあり、機能や価格がそれぞれ異なります。

システムを選ぶ際のポイントは以下の5つです。

  • 操作しやすいかどうか
  • 業界特有の機能や項目を柔軟にカスタマイズできるかどうか
  • 企業が抱えている業務や課題解決に適合しているかどうか
  • システムトラブル対応などのサポート体制が万全かどうか
  • 仕入れ管理や販売管理などのシステムと連携可能かどうか

導入する際はこれらのポイントをしっかりとチェックしたうえで、自社に最も適しているシステムを選ぶことが大切です。

AIの在庫管理を導入して効率アップしよう

人の手による在庫管理は、どれだけ気をつけていても数え間違いや発注漏れなどのヒューマンエラーが発生する恐れがあります。

また業務にかかる人員やコスト、時間もかかってしまうので、どうしても生産性が落ちてしまいます。これらの課題を解決してくれるのが、AIによる在庫管理です。導入することでミスを防ぎ、業務の効率化が図れるでしょう。導入の際は、目的を明確にし自社に合ったシステムを選ぶことが大切です。企業の導入例を参考にして、適切なシステムを選択しましょう。

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