総合建設コンサルタント会社として、道路や橋、トンネルなどの社会インフラ整備に携わる、八千代エンジニヤリング株式会社。事業計画や設計、完成物の維持管理など、施工を除く各段階で建設プロジェクトに関わり、官公庁・民間企業のまちづくりや交通網整備などを技術のプロフェッショナルとして支援しています。
八千代エンジニヤリングは、何度も修正を重ねる設計図面の管理を効率化したり、AIを使って修正前後の設計図面の差分を自動抽出するアプリケーション「TERNO(テルノ)」を開発しました。開発のきっかけとなったのは、大型のプロジェクトを複数抱え、疲弊する自社の設計者たちの声。業界ではいわば当たり前になっていた工程を効率化して、チーム内の若手技術者を楽にしたいという上司の思いがあったといいます。
「設計者による設計者のためのアプリケーション」というTERNOはどのようなツールで、開発にあたってどのような工夫があったのでしょうか。無料体験版の公開を経て外部への本格提供を控え、株式会社コアコンセプト・テクノロジー(CCT)経営管理本部 広報グループ マネージャーの幡井梨花氏が、八千代エンジニヤリング株式会社 国内事業部 構造・橋梁部 技術第三課課長の阿部雅史氏に、TERNO誕生の背景、今後目指す姿などを聞きました。
2001年入社。25年にわたり鉄道橋の計画・設計・施工監理に従事。リニア中央新幹線や震災復旧など、国内外の大型プロジェクトを管理技術者として主導。土木学会田中賞3度、PC工学会作品賞3度受賞という国内トップクラスの実績を持つ。2023年より設計現場の生産性を劇的に向上させるDXツール「TERNO(テルノ)」の開発を指揮。2026年7月、同ツールの外販を開始し、長年の現場経験に基づいた「真に使えるデジタルソリューション」を社会に実装している。
東京大学工学部卒業後、製造系ITベンチャーを経て2014年CCT入社。開発部門で製造業向けシステム開発PMを担当後、マーケティング部門立ち上げのために異動し、デジタルマーケティング基盤を確立。その基盤を活かし2023年にはオウンドメディア「Koto Online」を創設。2026年より広報マネージャーとして活動。
目次
「若手技術者の業務負担をなんとか軽減できないか」TERNO開発に込められた想い
幡井氏(以下、敬称略):最初に、御社が開発したAI図面管理アプリケーション「TERNO(テルノ)」について、機能や特徴などを教えていただけますか。
阿部氏(以下、敬称略):TERNOは、私たちの業界で設計者の負担となっている数多くの付帯業務を軽減し、設計者をサポートする目的で作ったAI図面管理アプリケーションです。何百枚、時には数千枚にも及ぶ図面を管理して、すぐに最新版にアクセスできるようにしたり、AIを活用して、修正指示が最終的な図面に反映されているかをチェックするなど、現場の業務に寄り添ったさまざまな機能を備えています。
幡井:TERNOは阿部さんの発想で開発が始まったとお伺いしていますが、まず初めにこういったアプリケーションを作ろうと思ったのは、どのような理由があったのでしょうか。
阿部:部下の業務負荷をなんとか軽減できないかと思ったことです。
私は現在、構造・橋梁部技術三課で課長を務めています。私の課は橋の中でも道路ではなく、鉄道の橋をメインに対応する部署なのですが、鉄道橋りょうの設計の場合は取り扱う図面の数がより多くなるんです。さらに、以前は10キロの橋であれば1キロずつ業者を分けて発注するのが一般的でしたが、近年は業務の効率化などのために2キロ、3キロと大ロットで発注するケースが増えてきました。しかも、通常は一人が複数の案件を並行して担当していることから、それぞれが膨大な数の図面を管理しなければならない状況が続いていました。
3年ほど前に行った部署のヒアリングで、何か困っていることがないかを聞いたところ、設計業務そのものより、図面の管理や修正履歴のチェックといった付帯業務の負担が大きいので、なんとかしてほしいという意見が多数寄せられました。私の立場としては、部下の業務負荷を軽くしてあげたいけれど、受注案件を減らすわけにはいきません。アウトプットの質や量を減らさずに仕事を楽にできるような環境を整えるのがマネジメントとして自分のやるべきことではないか、それならば、業務効率化につながるツールを用意しようと考えたのが、TERNO開発の大きな理由ですね。
図面の修正が相次ぎ「最新版はどれ?」という状況に
幡井:課の皆さんへの愛情を感じますね。設計図面に関する付帯業務のどこが特に課題だったのでしょうか。
阿部:特に大変だという声が多かったのが、図面の管理です。設計の期間はだいたい1年以上かかるのですが、その間、設計内容に誤りや矛盾がないかどうかを設計担当以外の人がチェックする「照査」をしなければなりません。
この照査は、この業界で一般的に使われるDWGというファイル形式の設計データを紙にプリントアウトして、チェックした人が修正してほしい内容を紙の設計図面に赤色で書き込みます。これは業界用語で「赤黄チェック(※)」と呼ばれています。さらには、修正内容を反映したものを突き合わせて、赤入れした箇所が直っていたら青でチェックをします。これが最終的には照査したというエビデンス、報告書の一部にもなるんです。
※ 設計図面の整合性や誤りを確認するため、修正箇所を赤、確認済み箇所を黄色マーカーで記す手法。青チェックは、主に第2チェックや別担当者が照査した証として青ペンを用いる。
複数の人が照査をするために、この一連の流れの中で、一つの図面に対して「〇〇確認中」とか「△△修正版」といったたくさんのファイルが存在し、どれが最新なのか更新日付を見ないとわからないという問題が常態化していました。先ほどお伝えしたように、設計者の多くは複数の案件を担当しているので、次の案件で忙しいのにも関わらず、上司から何カ月も前の図面について「最新版はどこにある?」といった質問が急に来るんです。
幡井:ファイルが多数存在して、どれが最新かわからなくなるというのは、製造業でもよく聞く課題です。御社のように大きな橋や鉄道などの建設に携わっていると、図面の数が多い分、修正履歴を確認するだけでも大変そうですね。
阿部:そうなんです。赤黄チェックの内容が反映されているかどうかを確認し、照査済みのエビデンスを一覧で提出する必要もあるのですが、これも大きな負荷となっていました。最終的にはDWGのデータで提出するのですが、お伝えしたように修正指示の内容はデータをプリントアウトした紙に書き込んでいるので、修正内容がデータに漏れなく反映されているか、修正履歴を全て追っていかなければなりません。しかも1枚ではなく、50枚、100枚、数千枚、という単位です。みんな残業して、なんとか対応していた、というのが実情でした。
内製化で挑んだTERNOの開発:付帯業務の負荷軽減に徹底したAI活用
幡井:TERNOのような解決策が必要とされていた背景がよく理解できました。TERNOは内製で作ったアプリケーションで、私どもCCTもシステム開発に協力させていただきました。自分たちで作ろうと思ったのはどのような理由からですか。
阿部:最初はすでに世に出ているツールが使えないかと思い、調べたところ、図面を管理したり図面の履歴を差分比較したりできるアプリケーションがいくつかありました。
しかし、それらのアプリケーションは、工業用品の図面が対象でした。当社で取り扱う図面は情報量が細かく、図面の差分比較が正しく抽出できないことに加え、枚数も情報量も格段に多くなるため、そのまま導入はできませんでした。そこで「カスタマイズしてほしい」とメーカーに相談したところ、かなり高額になることがわかり、それだったら自分たちで作ろうと考えました。
CCTさんにシステム開発をお願いしたのは、ちょうどそのころ、国のDXなどに関する委員会で一緒になり、そのご縁で相談したのがきっかけです。いわゆるシステムエンジニアの会社に開発をお願いする際は、こちらから細かくお願いをするのが一般的かと思いますが、CCTさんの場合は、まず私たちがどんな流れで仕事をしていて、何に悩んでいるのかを細かく聞き取りするところからスタートしてくれました。こちらからお願いしたことをこなすだけではなく、全体を理解した上で背景にある課題をキャッチアップし、必要に応じて解決策も提案してくれたので、一緒に開発しやすかったですね。
幡井:TERNOの開発を進める上で、どのようなアプリケーションを目指すのか、機能などでこだわった点はありますか。
阿部:TERNOの強みの一つに、照査の履歴が表示される機能があるのですが、照査に関する機能を作りこむときには、照査に長けた熟練技術者に相談しながら、どうすれば照査が効率よくできるか、照査漏れを防ぐには何が必要かといった現場業務に即した意見を、要件定義から画面のデザインまであらゆる場所に取り入れるよう意識しました。
それから、「自分の部下たちを少しでも楽にしたい」という、TERNOを開発するきっかけとなった当初の目的がブレないようにすることにもこだわりました。
TERNOでは、AIが修正前と後の図面の差分を抽出することで、修正漏れのミスを防いだり、照査したというエビデンスとして記録することが可能です。AIをどう活用するかについてはいろいろな意見がありましたが、設計に付帯する業務の負荷軽減につながっているかどうか、という点は最後まで貫くようにしました。
TERNO導入で設計の業務時間「3割減」を実現。今後は業界全体の課題解決へ
幡井:実際にTERNOが完成して、社内からはどのような反応がありましたか。
阿部:お伝えしたように、以前は図面データ(DWG等)を紙でプリントアウト(PDF変換)してチェックしていたため、修正指示がデータに反映されているかどうかを確認したり、最新版のファイルを探したりするのに手間がかかっていましたが、TERNOができてからはバージョン管理ができるので、上書き保存をしたり、TERNO上でチェックすることで修正履歴が残るようになったので、1つのファイルで完結できるようになりました。現場の設計者たちからは、出力した図面と図面データが一致しているかどうかを確認する必要がなくなり、だいぶ楽になった、ストレスがなくなったという声が挙がっていましたね。
数値上も効果が出ています。TERNOの導入により、修正箇所の確認や修正履歴の一覧表を作成するなどの業務時間が短縮され、設計業務全体にかかる時間は、導入前に比べて概ね3割削減しています。
幡井:外部に向けては、現在、無料体験版が公開されていますよね。無料体験版のリリース後、CCTにもTERNOに関するたくさんのお問い合わせが寄せられており、業界内でも図面チェックの大変さが課題であったことや、それをアプリケーションで解決できることへの期待の高さを感じます。TERNOとしての今後の展望について、お聞かせいただけますか。
阿部:TERNOは2025年6月から無料体験版を公開し、ユーザーの皆様から寄せられたさまざまな声を活かして、機能改善などを行ってきました。現在は正式に外部の皆様に使っていただく準備が整い、2026年7月から提供を開始します。
TERNOは、現場での使い勝手の良さを最優先に作った、設計者による設計者のためのアプリケーションです。当社のような設計に携わってきた会社だからこそできる課題解決を目指して、自社の社員だけではなく、設計に関わる業界の皆様の助けとなるツールになるよう、今後も改善を続けていきたいと思います。
【関連リンク】
八千代エンジニヤリング株式会社 https://www.yachiyo-eng.co.jp/
株式会社コアコンセプト・テクノロジー https://www.cct-inc.co.jp/
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