福岡銀行、十八親和銀行、熊本銀行など5行を傘下に持ち、九州全域で事業を展開する地域金融グループ・ふくおかフィナンシャルグループ(以下、FFG)。部署ごとの「個別最適の効率化」から脱却し、全社視点の改革を実現するために、2022年にDX推進本部を設立。業務プロセスそのものの刷新や新たな価値創造に取り組んでいます。
歴史ある銀行組織と業務を変革するために、担当者は何を意識し、どのようなことを心がけてきたのでしょうか。そして、「システムの内製化」にこだわった背景には、どのような課題があったのでしょうか。ふくおかフィナンシャルグループ DX推進本部 副本部長 兼 福岡銀行 システムソリューション部 部長の根上竜也氏と、コアコンセプト・テクノロジー(CCT)エンタープライズSI事業本部 リソースコンサルティング部 部長の竹井康浩氏との対談を通じて、FFGのDX推進の取り組みを紹介します。
金融システム開発を多数経験後、システム会社を設立。2018年に福岡銀行へ入行し、2022年にDX推進本部へ異動。2023年からFFGのシステム内製化組織を統括し、内製領域の拡大を推進中。
ITベンダーや外資系金融、ITベンチャーを経て、2018年にCCTへ入社。営業として主要顧客の開拓やビジネスパートナーネットワーク「Ohgi」立ち上げに貢献。現在は大手企業向けの拡大戦略立案・実行、組織マネジメント、パートナー企業開拓を担う。
目次
「紙と対面」の壁を突破せよ。横断組織が挑んだ個別最適からの脱却
竹井氏(以下、敬称略): 最初に、根上様が所属されているDX推進本部について、設立の経緯や目的などを教えていただけますか。
根上氏(以下、敬称略): DX推進本部が設立されたのは2022年4月です。当時、グループ傘下の各銀行では、部署間の連携が十分ではなく、「縦割り」になっているという課題がありました。DXで大きな成果を得るためには、各部署単独ではなく、グループ全体の視点が不可欠です。それを実現するには、いわゆる「横串を刺す」部署横断の組織が必要だということで、社長直下にこのDX推進本部が設立されました。
私はもともと、システム受託開発事業を手がける会社などを起業した後、2018年に入行しました。入行後も東京で仕事をしていたのですが、DX推進本部が立ち上がり、同部署へ配属となったため、福岡へ移住しました。
竹井: ビジョンや目指す姿があっても、実行する組織が整わずに「個別最適」に陥ってしまうのは、大企業ならではの課題ですね。部署間の連携ができていないために起きた問題など、横断組織の必要性を裏付ける事例があれば聞かせていただけますか?
根上: おっしゃる通り、まさに「個別最適」の弊害が各部署で起きていました。例えば、各部署が現行の業務プロセスを前提として、それぞれ必要なツールを個別に導入した結果、全体でのシステム連携が困難になるといった問題です。
銀行の業務プロセスは、その多くが「対面」「紙」をベースとして作られました。効率化を目指して一定程度のデジタル化は進めてきましたが、現代の技術を活用し、業務プロセスをゼロベースで見直すDXにはほど遠い状態でした。DXを推進するには、今の時代に合った形で業務プロセスを抜本的に見直す必要がありますが、全体の効率を考えてプロセスを変えようとすると、各部署から「品質担保が難しい」「この業務は残してほしい」といった主張が出てきます。それらの落とし所を探りながら改革を断行するためにも、やはり強力な横断組織が必要でした。
戦略を立ててさまざまな施策に取り組んだ結果、DX推進本部設立当初は約10名だった組織も、約4年後に200名規模まで拡大しました。
チャネル・仕組み・カルチャー。変革を加速させた「3つのDX戦略」
竹井: 御行の資料「FFGにおける企業変革のためのDX戦略」では、全社的なDX展開のために「デジタルチャネルの展開」「仕組み」「カルチャー」という3つの柱を掲げていらっしゃいます。具体的にどのような施策を進めてこられたのでしょうか。
根上: 1つ目の「デジタルチャネルの展開」については、デジタルを活用したお客様との接点を多方面で創出しました。
DX推進本部が発足して最初に着手したミッションが、個人のお客様向け銀行アプリの開発です。2023年7月にリリースしたこのアプリにより、利便性の向上はもちろん、支店事務のデジタル化が進み、大幅な業務効率化につながりました。他にも、法人向けポータルサイト「BIZSHIP」の開発や、データドリブンな営業戦略のためのSFA(営業支援システム)導入などを行っています。
2つ目の「仕組み」では、グループ全体の硬直化したプロセスを変革し、スピード感を持って動ける体制への見直しを行いました。
これまではシステム導入の際、「IT投資協議会」という社内の協議体に諮って承認を得る必要がありました。コスト管理の面では有益ですが、詳細な見積もりや要件定義を固めてから着手する「ウォーターフォール型」の開発が一般的だったため、リリース時にはすでに時代と乖離していることも多かったのです。
そこでDX推進本部では、新たに「DX投資協議会」を設置し、フレキシブルに新しい試みができる環境を整えました。開発手法もアジャイル型へとシフトし、仕様変更にも柔軟に対応できるスピード感を重視しています。
3つ目の「カルチャー」では、グループ全体でDXを推進する風土づくり、マインドの醸成に注力しました。
社内外のメンバーがオープンに共創できるスペースの設置や、実践型のワークショップ研修など、多角的に取り組んでいます。最近では、本部と支店が連携して銀行の課題解決アイデアを募集し、優勝者を表彰するプロジェクトも立ち上がっています。
ビジネスチャンスを逃さない!「外部への全面委託」から「内製化」への決断
竹井: 3つの柱それぞれにおいて、非常に活発な活動をされていますね。1つ目の「デジタルチャネル」でのアプリ開発などで「内製化」にこだわった理由を教えていただけますか。
根上: 銀行がシステムを導入する場合、従来は「外部への全面委託」が一般的でした。大手ベンダーの提案に基づき開発を依頼し、銀行は完成品を受け取るだけ。この手法にはメリットもありますが、柔軟性の面で大きな課題があります。例えば、一部を改修したいだけでも、その都度多額の費用と見積もり、社内承認が必要になり、ビジネス環境の変化に追いつけないのです。時間と費用の制約から、ビジネスチャンスがあるにもかかわらず改修を断念するケースもありました。
このストレスを解消するには、同じ課題感を共有する内部の人間が、同じ方向を向いて開発を行う必要がある。そう痛感したことが、内製化を決断した大きな理由です。
内製と外注、どちらがスピード面で優れているかについては、まだ模索中の部分もあります。ただ、柔軟性に関しては圧倒的に改善しました。アプリには行員やお客様から多数の要望が寄せられますが、それらを即座に検討し、修正・リリースできるようになったのは大きな前進です。
竹井: 私たちもビジネスパートナーとして携わらせていただく中で、御行が次々と機能追加や改修を行い、フレキシブルに動かれているのを肌で感じます。もう一点、DXを進める上で「AI」はどのように活用されていますか。
根上: AIに関しては、ROI(投資利益率)を過度に意識せず、「まずは試してみる」段階です。DX推進本部にはAI戦略グループがあり、同グループが中心となって組織全体のAI活用を推進しています。
現時点では、行員向けの業務支援が中心です。例えば、社内手続きに関するチャットボットや、五島久社長のAIアバターである「社長AI」を導入しました。様々な相談事を聞くことができ、行員からも好評です。
ただ、多くのチャットボットが乱立してしまったため、現在はインターフェースの統合を進めています。FFGのマスコットキャラクターをモチーフにした「AIユーモ」というWEBサービスを作り、「困ったらまずAIユーモに聞く」という流れを定着させています。これにより、内部の問い合わせ対応負荷が大幅に軽減されました。
ゴールは「DX推進本部の解散」。現場主導の変革で自走する未来へ
竹井: DXを推進する上で、根上さんご自身が特に意識されたことは何でしょうか。
根上: やはり「カルチャー」ですね。いくら本部が旗を振っても、現場のマインドがついてこなければ真のDXは実現しません。現場を巻き込み、「よし、やるぞ」という空気をいかに醸成するかに腐心してきました。
そのために、できるだけ顔を突き合わせたコミュニケーションを大切にしています。実際に営業店へ足を運び、課題を共有し、時にはお酒を酌み交わすこともあります。人と人としての信頼関係が、変革の土台になるからです。
丁寧に説明を尽くすことで、当初は懐疑的だった方々も、徐々に協力してくれるようになりました。10年後、20年後の銀行のあり方に危機感を持っているのは皆同じです。その課題解決のために「一緒に変えましょう」と寄り添う姿勢を貫きました。
竹井: 現場を巻き込む丁寧なコミュニケーションこそが、成功の秘訣なのですね。手応えはいかがですか。
根上: 設立当初の「何か新しい部署ができたぞ」という空気は一変し、今ではDXが当たり前になりました。先日実施したアイデア募集プロジェクトには100件以上の応募があり、本部が対応しきれないほどでした。現場から自発的に変革を起こそうとする組織に変われたことが、最大の成果だと感じています。
五島久社長が率先して「DXを推進する」というメッセージを根気強く発信し続けてくれたことも、非常に大きな後押しになりました。
竹井: 今後の目標についてお聞かせください。
根上: 今後は、CCTさんのようなパートナー企業の皆さまと共に、AI時代に市場価値を発揮できるエンジニアの育成に注力したいと考えています。
AIの進化により、エンジニアの業務領域も変化しています。AIを使いこなし、いかに付加価値を生み出すか。パートナーの皆さまと共に成長していきたいですね。
そして、DX推進本部の最終的なゴールは、この組織が「不要」になることです。本部がなくてもDXが当たり前のこととして浸透し、現場から自律的に変革が進むようになれば、私たちのミッションは達成です。そんな未来を目指して、これからも取り組んでいきます。
【関連リンク】
株式会社ふくおかフィナンシャルグループ https://www.fukuoka-fg.com/
株式会社コアコンセプト・テクノロジー https://www.cct-inc.co.jp/
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