RFP(提案依頼書)には何を書く?作成の目的やポイント
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システム開発の外注は、高額な費用をかけても失敗することがあります。原因はさまざまですが、RFP(提案依頼書)のコツをつかむだけで成功率が上がるケースは少なくありません。優れたパートナーを見つけるために、RFPの作り方を確認しておきましょう。

目次

  1. RFP(提案依頼書)とは?作成する目的
  2. RFP(提案依頼書)とほかの用語の違い
  3. RFP(提案依頼書)のフォーマットは?一般的な記載内容
  4. RFP(提案依頼書)を作成するときのポイント
  5. RFP(提案依頼書)のテンプレート・サンプル例
  6. 自社の課題やゴールが明確なRFPを作成しよう

RFP(提案依頼書)とは?作成する目的

RFP(Request for Proposal)とは、システムやアプリ、WEBサイトなどの製作を外注する際に、発注側がベンダー企業に提出する書類です。日本語では「提案依頼書」と呼ばれており、基本的には以下の情報が記載されています。

RFPに記載されている内容
・発注企業が抱えている課題
・開発するシステムで解決したい課題
・搭載してほしい仕様や機能

RFPは発注内容を決める書類なので、提出段階で契約が結ばれることはありません。RFPをもとにベンダー企業が提案書を作成し、その内容に発注側が合意をした場合に、初めて契約が成立となります。

RFP(提案依頼書)

RFPは認識のズレを防ぎ、要望を正確に伝えるための書類

RFPの作成目的は、ベンダー企業に要望を正確に伝えることです。

デジタル技術が発達した現代では、さまざまな業界で高度なシステムが求められるようになりました。そのため、RFPを提出せずに口頭のみで依頼をすると、以下のようなトラブルを招く恐れがあります。

RFPがない場合に起こるトラブル
・ベンダー側との認識がズレて、自社課題を解決できなくなる
・自社課題を抽出しきれなくなる
・自社課題の解決策を提案してもらえなくなる
・大幅な修正によって、工期やコストが増えてしまう

ベンダー企業はシステム開発のプロですが、発注側の内情をすべて理解しているわけではありません。発注側の課題を予測し、そのすべてに的確な提案をすることは難しいため、RFPを通して情報提供をする必要があります。

RFP(提案依頼書)とほかの用語の違い

発注企業とベンダー企業は、ほかにもさまざまな書類をやり取りすることがあります。RFPと混同しやすい書類もあるので、類似用語との違いを整理しておきましょう。

ベンダー企業の情報開示を要請する「RFI」

RFI(Request for Information)は、ベンダー企業に対して会社情報の提示を求める書類です。日本語では「情報提供依頼書」と呼ばれており、ベンダー側が提供できるシステムや実績などが記載されることもあります。

主な違い RFP RFI
日本語訳 提案依頼書 情報提供依頼書
目的 ベンダー企業に要望を伝える ベンダー企業の情報開示
意味合い ベンダー企業の二次選考 ベンダー企業の一次選考
記載内容 システム開発における要望など ベンダー企業の情報や実績など

候補先に複数のベンダー企業がいる場合は、以下のような流れで発注先を決めることがあります。

複数のベンダー企業がいる場合の流れ
1.発注側がRFIを提出する
2.ベンダー企業が会社情報などを提供する
3.発注側が候補企業を絞る
4.候補企業に対して発注側がRFPを提出する
5.RFPをもとに、ベンダー企業が提案書を作成する
6.提案書の確認を経て、実際の発注先が決められる

基本的には「RFI→RFP」の流れでやり取りされるため、RFIは一次選考、RFPは二次選考としての意味をもっています。

発注側が要望を伝える「要求定義書」

要求定義書は、発注側がシステム開発の要望をまとめる書類です。指示書のような役割を担っており、ベンダー企業はこの書類の内容をもとにシステム要件などを突き詰めます。

RFPと違って技術的な内容は含まれませんが、発注側の要望をベンダー企業に伝えるために欠かせない書類です。

完成イメージをすり合わせる「要件定義書」

要件定義書は、ベンダー企業が開発するシステムの要件を記載して、発注側に提出する書類です。認識のすり合わせが主な目的であり、専門家ではない発注側が見ても理解できる内容にまとめられています。

近年になって増えてきたアジャイル開発(※)では、要求定義書を要件定義書に落とし込む作業を何度も繰り返し、一つの製品やシステムを開発します。

(※)開発とリリースを繰り返して、細かいフィードバックを重ねながら製品開発をする手法のこと。

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RFP(提案依頼書)のフォーマットは?一般的な記載内容

RFPに決まったフォーマットはありませんが、内容に不備があると完成イメージの共有ができません。ベンダー企業の負担を和らげるためにも、一般的な記載内容を押さえておきましょう。

1.発注内容の大枠となる「システム概要」

まずはシステムを開発するにあたって、発注側が抱えている課題や背景、目的などを記載します。また、発注側はRFPをもとに提案書を作成してもらう立場なので、できれば冒頭に簡単な挨拶文を記載しておきましょう。

システム概要の例
・システム開発の背景や目的、方針
・現状で抱えている課題(解決したい課題)
・システム開発で期待している効果
・新しいシステムと現行システムの関係
・会社や組織の概要
・開発するシステムの使用者や運用体制
・予算

現状で抱えている課題や運用体制、予算などは、具体的な数値を盛り込むことが重要です。例えば、「○○部△△課の5名が使用予定」「○億△△万円を上限予算とする」のように明記すると、ベンダー企業がイメージをつかみやすくなるため、後に受け取る提案書もより具体化されます。

2.提案書の内容を指定する「提案依頼事項」

提案依頼事項は、ベンダー企業が作成する提案書の内容を指定する項目です。発注内容によって記載すべきものが異なるため、以下では一例を紹介します。

提案依頼事項の例
・提案書の範囲   :システムの種別や分野など。
・システム構成   :ハードウェアや動作環境など。
・品質または性能条件:前提となる品質や性能。
・運用条件     :アップデート頻度、運用制限など。
・納期やスケジュール:テスト期間やユーザー教育など、納期以外も記載する。
・納品条件     :最終的な納入物の条件や場所。
・情報共有について :定例報告などが必要な場合は、その旨を記載しておく。
・開発推進体制   :メンバーの数やチーム編成など。
・開発手法     :開発ツールや開発言語など。
・保守条件     :開発したシステムを保守する組織や方法。
・費用見積     :提案書に必要な見積情報(導入費と月額費など)を記載する。
・貴社情報     :ベンダー企業の代表者名や従業員数など。

RFPを受け取ったベンダー企業は、提案依頼事項をもとに提案書を作成します。つまり、この事項に書かれていない情報は記載されない可能性があるため、共有が必須となる情報は必ず盛り込んでおきましょう。

3.参加資格やスケジュールをまとめた「提案手続き」

提案手続きの方法や流れについても、RFPで示しておく必要があります。どのような情報が必要になるのか、以下で例を見ていきましょう。

提案手続きの例
・提案書の提出期限や提出場所
・採否連絡の方法や時間
・発注側の対応窓口
・質問や問い合わせがある場合の連絡方法
・RFPと一緒に提供する資料の情報
・参加条件資格

提案書の採否にあたってプレゼンテーションなどを開催する場合は、その日程や参加条件も明記しておきましょう。また、開催当日に用意できる機器(パソコンやプロジェクターなど)を記載しておくと、ベンダー企業の負担を減らせます。

また、採否にあたって複数の選考がある場合や、各選考の通過企業数などが決まっている場合は、その旨も記載しておくと親切です。

4.対象企業を明確にした「システム開発条件」

システムに関する条件は複雑なケースが多いので、RFPの分かりやすい箇所にまとめて記載しましょう。開発期間のほか、品質保証基準やセキュリティ面、権利関係についても明記することが重要です。

システム開発条件の例
・開発期間と納期年月日
・打ち合わせやレビューをする場所
・開発コストの扱い(水道光熱費を発注者が負担するのかなど)
・システム品質保証基準
・内部と外部におけるセキュリティ要件
・支払条件や保証年数、著作権などの契約事項

RFPを通した発注では、自社課題などの機密情報を共有することがあります。もし外部に漏れると、競争力や信頼性などを損なうリスクがあるため、契約事項には「機密保持」に関する内容も記載しておきましょう。

RFP(提案依頼書)を作成するときのポイント

RFPは外部に共有する書類であるため、読み手(ベンダー企業)の立場で作成することが重要です。また、万全の準備をしておかないと、ベンダー企業への要望や方針を誤ってしまうリスクもあります。

以下ではRFPを作成するときのポイントをまとめたので、作業を始める前に確認しておきましょう。

全社的なプロジェクトとして方向性を考える

優秀なベンダー企業を見つけても、システム開発が必ず成功するとは限りません。特にRFPを介したシステム開発は、両社の協力によって進めていく形となるため、発注側も綿密なプランを立てる必要があります。

特に意識しておきたい点は、新しいシステムと既存システムの連携です。既存システムへの影響が大きいケースでは、関係部門や経営層に対してヒアリングを行い、全社的なプロジェクトとして方向性を考えます。この工程が大規模になりそうな場合は、独立したプロセス(※ITグランドデザインと呼ばれる)として取り組むことも検討しましょう。

既存システムへの影響が小さいケースでは、新しいシステムと現状の課題を確認すれば問題ありません。優秀なベンダー企業を見つけても、システム開発が必ず成功するとは限りません。特にRFPを介したシステム開発は、両社の協力によって進めていく形となるため、発注側も綿密なプランを立てる必要があります。 広い範囲にヒアリングを行う必要はありませんが、新しいシステムの役割や効果は明確にしてください。

定量的な数値目標を設定する

理想的なシステムを開発してもらうには、ベンダー企業に明確な目的を伝える必要があります。例えば、「業務効率を改善したい」「人件費を減らしたい」といった抽象的な目標では、システムの細かい仕様まで突き詰められません。

ベンダー企業はあくまで外部の発注先なので、RFPには定量的な数値目標を記載しましょう。「労働生産率を〇%向上したい」のように数値を盛り込むだけで、発注側の意図は伝わりやすくなります。

同じタイミングで評価資料も作成する

評価資料とは、ベンダー会社の提案書を採点するための書類です。RFPと並行して作成すると、「自社が何を重視しているのか」や「不要な条件はないか」などを整理できます。

評価資料にも決まったフォーマットはないため、項目ごとの○×表や点数表のように簡単なもので構いません。発注先を絞るプロセスにも役立つので、RFPと同じタイミングで作成しておきましょう。

判断に迷っている部分も記載しておく

RFPは契約書類ではないため、不明点は曖昧な内容を記載しても問題ありません。課題を解決できる技術や仕組みが分からなくても、定量的な目標値さえ記載しておけば、具体策を提案してもらえる可能性があります。

そのため、RFPには判断に迷っている部分も記載しておきましょう。ほかにもデザイン面のイメージや競合サービスなど、システム設計に役立つものは積極的に共有する姿勢が重要です。

RFP(提案依頼書)のテンプレート・サンプル例

ここまでの内容を踏まえて、以下ではRFPのテンプレート・サンプル例を紹介します。なお、適したRFPは企業によって異なるため、カスタマイズや微調整をしながら自社仕様にブラッシュアップしてください。

RFPのテンプレート・サンプル例

○○年△△月□□日
●●部門▲▲担当


株式会社○○
△△システム開発についての提案依頼書

目次
  1.プロジェクトの概要
   1-a.目的
   1-b.現状における課題
   1-c.本プロジェクトの目標値
2.システム要件や方針
   2-a.要件・要望
   2-b.現行システムの構成
   2-c.現行システムの運用状況
   2-d.納期およびスケジュール
   2-e.予算
   2-f.提案内容
  3.対応窓口
  4.補足情報
  5.参加条件資格

1.プロジェクトの概要
1-a.目的
本プロジェクトは、弊社の倉庫管理システムの最適化を目的として行うものです。
1-b.現状における課題
現在、弊社は以下の課題を抱えており、本プロジェクトによる解決を目指しています。
   ・品目の多さによる収納場所の複雑化
   ・~
   ・~
1-c.本プロジェクトの目標値
本プロジェクトで弊社が達成を目指す目標値は、以下の通りです。
   ・倉庫業務にあたる人員の10%を削減(現在〇名)
   ・~
   ・~
2.システム要件や方針
2-a.要件・要望
発注対象となるシステムは、以下の仕様や機能を想定しています。
   ・ハンディターミナルによる検品効率化
   ・~
   ・~
2-b.現行システムの構成
現在利用している倉庫管理システムと、連動しているシステムは以下の通りです。
   ・在庫管理システム「△△」
   ・~
2-c.現行システムの運用状況
現行システムの運用状況は以下の通りです。また、本プロジェクトで開発される新システムでも、同様の運用を想定しています。
   ・運用人数:○○名
   ・導入支社:△△店
   ・~
2-d.納期およびスケジュール
新システムの本稼働開始は、〇〇年△△月□□日を予定しております。
提案書には、検収までのスケジュールを明記してください。

2-e.予算
本プロジェクトで想定している費用は、以下の通りです。
   ・予算上限額:●●円
   ・賃料:▲▲円
   ・水道光熱費:■■円
   ・~

2-f.提案内容
提案書を作成いただく際には、以下の情報を記載してください。
   ・企業情報
   ・これまでの成果物(実績等)
   ・~
3.対応窓口
本プロジェクトにおける対応窓口は、以下の通りです。
   ・担当部門名:~
   ・担当者名:~
   ・連絡先住所:~
簡易なお問い合わせは、基本的に電子メールまたはFAXにてお願いできますと幸いです。電話でのお問い合わせはご遠慮くださいませ。

4.補足情報
提案書の作成や選定にあたっては、以下の内容を参考にしてください。
   ・提案書のテンプレートは、弊社ホームページよりダウンロードしてください。
   ・~

5.参加条件資格
  ①ITコーディネーター等、システム開発に精通した人材を1名以上確保できること。
  ②これまでに同様のプロジェクトを完遂した実績があること。
  ③~

上記はあくまで簡易的なテンプレート・サンプル例なので、必要に応じて挨拶文や項目などを増やしましょう。

自社の課題やゴールが明確なRFPを作成しよう

システム開発を外注する企業にとって、RFPは重要な役割をもつ書類です。要望を正確に伝えることが目的なので、可能な部分は定量的なデータを用いて、自社の課題やゴールが分かりやすいRFPを作成しましょう。

また、いくら優秀なベンダー企業が見つかっても、システム開発が成功するかは分かりません。少しでも成功率を上げるために、RFP以外の書類でも積極的な情報提供を心がけてください。

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