ISOとは?製造業が取得する3つのメリットや導入における注意点も解説

製造業を取り巻く国際競争が激化する中、世界共通の品質基準であるISO規格への対応は企業の競争力を左右する重要な要素となっています。

多くの大手企業や海外企業との取引において、ISO認証が必須条件となるケースが増加しており、特に品質管理や環境配慮、情報セキュリティの分野で高い水準が求められるようになりました。

一方で、ISO取得には相応の時間とコストが必要であり、経営層のコミットメント不足や文書作成の負担増といった課題に直面する企業も少なくありません。

この記事では、製造業におけるISO規格の重要性から、取得による具体的なメリット、導入プロセス、そして成功に向けた注意点まで、経営者が知っておくべきポイントを詳しく解説します。

目次

  1. ISOとは?
  2. 製造業で重要な3つのISO規格
  3. 製造業がISO取得する3つのメリット
  4. 製造業におけるISO取得の成功事例3選
  5. ISO取得までの4ステップ
  6. ISO導入における3つの注意点
  7. ISOの今後の展望
  8. まとめ

ISOとは?

ISOとは、国際標準化機構(International Organization for Standardization)の略称で、1947年にスイスのジュネーブで設立された非政府機関・非営利組織で、世界各国の標準化団体によって構成されています。

2023年5月時点では168カ国が加盟しており、日本からは日本産業標準調査会(JISC)が代表として参加しています。

ISOの主な役割は、製品やサービス、システムに関する世界共通の基準を定めることです。

約23,900種類もの国際規格を発行しており、クレジットカードのサイズや非常口のマークなど、私たちの身近にある多くのものがISO規格によって統一されています。

国際的な標準化により、世界中で同じレベルの品質や安全性が保たれ、国際取引がスムーズに行われるようになります。

製造業の経営者にとって、ISO規格への理解は国際競争力を高める重要な第一歩といえるでしょう。

製造業で重要な3つのISO規格

製造業で重要な3つのISO規格

製造業において特に重要視されるISO規格は以下の3点です。

  • ISO9001:品質マネジメントシステム
  • ISO14001:環境マネジメントシステム
  • ISO27001:情報セキュリティマネジメントシステム

順番に解説していきます。

ISO9001:品質マネジメントシステム

ISO9001は、製品やサービスの品質向上を目的とした品質マネジメントシステムに関する国際規格です。製造業においては、取引条件として求められることも多く、業界標準として広く浸透しています。

ISO9001の最終目標は、品質向上を通じた「顧客満足の達成」にあります。具体的には、Q(品質)・C(コスト)・D(納期)というQCDバランスを保ちながら、継続的な改善を図ります。

たとえば、どれほど高品質で安価な製品でも、納期が10年先では事業が成り立ちません。

逆に納期が早くても、品質が低すぎれば顧客満足にはつながらないでしょう。

ISO9001を導入した製造業では、不良品率の低減や生産リードタイムの短縮、設備稼働率の向上といった具体的な成果が報告されています。

ISO14001:環境マネジメントシステム

ISO14001は、企業活動における環境リスクを分析し、環境負荷を低減するための仕組みを構築するガイドラインです。

ISO14001を取得すると、以下のような利点があります。

  • 環境関連の法的要件への遵守体制が整い、法的リスクを最小限に抑えられる
  • 企業の信頼性や責任感が顧客や取引先から高く評価される
  • 資源の効率的な使用や廃棄物削減による、処理コストの削減と生産性向上

なかでも製造業では、工場から排出される煙や排水が環境汚染の原因となる可能性があり、環境への配慮がますます重要な課題となっています。

ISO27001:情報セキュリティマネジメントシステム

ISO27001は、企業が取り扱う情報資産を保護する情報セキュリティマネジメントシステムに関する国際規格です。

製造業でもIoT・AI・ビッグデータ・クラウドといったデジタル技術の活用が進み、情報セキュリティリスクが急速に増加しています。

ISO27001では、情報セキュリティを保つために「機密性」「完全性」「可用性」の3つの要素をバランス良く管理します。

機密性とは許可された者のみが情報にアクセスできる状態、完全性とは情報が正確かつ最新の状態で管理されていること、可用性とは必要な時に情報にアクセスできる状態を指します。

製造業では自社の固有技術や設計図面、知的財産、原価情報といった機密情報を多数保有しており、厳重な保護が必要です。

認証取得により情報漏洩リスクの低減、社会からの信頼獲得、従業員の意識向上といった成果を得られ、取引条件として求められるケースも増加しています。

製造業がISO取得する3つのメリット

製造業がISO取得するメリットとしては、おもに以下の3点があげられます。

  • 顧客・取引先からの信頼獲得
  • 品質管理システムの確立による生産性向上
  • 業務の標準化と属人化の解消

順番に見ていきましょう。

メリット1:顧客・取引先からの信頼獲得

ISO9001認証は、製造業の企業が顧客や取引先から信頼を獲得する確実な方法の一つです。

多くの大手企業や海外企業との取引において、ISO9001の認証取得が取引条件となることがあるため、認証を取得することで新たな取引機会が生まれやすくなります。

特に公共事業や官公庁の入札案件では、ISO取得が必須条件となっているケースも多く見られます。

製品のパンフレットや工場の入り口、自社ホームページにISO認証マークを掲載することで、同業他社との差別化を図ることができ、ブランドイメージの向上にもつながります。

国際規格への準拠は、海外展開を検討している製造業にとっても重要な武器となるでしょう。

メリット2:品質管理システムの確立による生産性向上

ISO9001に基づいた品質マネジメントシステムを導入することで、製造現場の「ムリ」「ムダ」「ムラ」を大幅に減らすことができます。

具体的には、

  • 不良品率の低減
  • 生産リードタイムの短縮
  • 設備稼働率の向上

などといった目に見える成果が期待できるでしょう。

製造プロセスの各段階で発生する不良品の原因を特定し、改善策を実施することで、歩留まりが向上し、材料のムダや手直しの工数が削減されます。

作業の標準化や効率化により、製造プロセス全体のリードタイムを短縮でき、納期の短縮や在庫の削減も可能になるでしょう。また予防保全の徹底や設備の適切な管理により、突発的な故障や不具合を減らし、設備の稼働率を向上させることもできます。

継続的な改善活動を通じて、品質向上だけでなく、コスト削減にも大きく貢献するのです。

メリット3:業務の標準化と属人化の解消

製造業でよく見られる「ベテランしかできない仕事が多い」「人によってやり方が違う」という課題を、ISO取得により根本的に解決できます。

ISOでは、業務の流れや手順を明確にするため、作業標準書やチェックリストの整備、記録の残し方のルール化が進んでいます。

誰が担当しても一定の品質が確保される仕組みが生まれることで、新人教育や業務引き継ぎもスムーズになるのです。作業手順が明確化されることで、従業員の入れ替わりがあった際にも適切な引き継ぎや教育が行われ、常に一定の品質を保ち続けることができます。

マニュアルの統一化により、企業や組織のノウハウが文書として蓄積され、人事異動や責任者の退職などが生じた場合でも、ノウハウの共有が可能になります。

人に依存しない組織づくりは、製造業の持続的成長にとって不可欠な要素といえるでしょう。

製造業におけるISO取得の成功事例3選

ここからは実際にISOを取得した製造業の実例を見ていきましょう。

順番に解説していきます。

事例1:現場主導のISO導入により業務効率化を実現

ある製缶業では、ISO9001導入時に現場の作業員を主役として仕組みづくりを行いました。

従来の「やらされている」感覚を排除し、現場と一緒に作業標準書や記録様式を作成したところ、写真付きの手順書により新人教育が効率化され、短時間での作業習得が可能に。

さらに、ベテラン作業員の勘に頼っていた技術を文書化したことで、技術の標準化と継承が進み、属人化の解消につながりました。作業標準の整備により、ヒューマンエラーが減少し、クレーム件数も削減されました。

報告・連絡・相談の仕組みが明確になったことで、情報共有の問題も改善され、支援終了後も仕組みが自走し続ける「使える仕組み」として根付いています。

この事例は、ISO導入において現場の理解と参加がいかに重要かを示しています。

事例2:教育体制強化で品質向上を達成した電子部品製造業

全国に事業所を構える電子部品製造業では、ISO9001の品質マネジメントシステムを活用して教育・訓練をシステム化しました。

トレーナーや従業員のスキルレベルを明確化し、的確なフォローアップを実施したことで、スキルのばらつきを解消し、作業ミスの低減を実現。また、入社後アンケートを通じて新入社員の満足度を丁寧にヒアリングし、個々の不安を解消する仕組みを構築しました。

職場の傾向を分析して課題を迅速に解決することで、職場環境の改善が進み、定着率の安定につながりました。教育体制の強化により従業員のスキルが向上し、結果として品質・生産性の向上という好循環を生み出しています。

人材育成と品質管理を一体化させたアプローチが成功の要因といえるでしょう。

事例3:既存システム活用でスムーズにISO認証を取得

ある中堅製造業では、ISO9001取得に際して既存の品質管理システムをベースにしたアプローチを採用しました。

新たなルールやプロセスを一から構築するのではなく、従来の品質管理システムをISO9001の要求事項に合わせて見直し、一部のプロセスを補強する形で対応したのです。

この方法により、現場の混乱を最小限に抑えながらスムーズな認証取得を実現し、継続的な改善を通じて品質向上を図ることができました。

さらに、社員の意識改革を重視し、定期的な教育・訓練を実施したことで、品質管理の重要性を全社員に浸透させました。

顧客からのフィードバックを積極的に取り入れる仕組みを整えたことで、品質トラブルの発生率削減と顧客満足度向上の両立を達成しています。

既存のリソースを有効活用した効率的な導入方法として参考になる事例です。

ISO取得までの4ステップ

製造業でISO取得までに必要な手順は以下の4ステップに分けられます。

1.計画立案と体制構築
2.品質マネジメントシステムの構築
3.システムの運用と改善活動
4.外部審査による認証取得

順番に解説していきます。

ステップ1:計画立案と体制構築

ISO取得の第一歩は、経営層による明確な意思決定と全社的な推進体制の構築です。

経営層がISO9001の重要性を理解し、全社的な取り組みとして推進する姿勢を示すことで、社員の意識も高まり、効果的な運用が可能となります。

具体的には、ISO推進責任者や事務局を決め、部門横断的なプロジェクトチームを立ち上げる必要があります。現在の品質管理の状況を把握し、ISO9001の要求事項とのギャップを分析して課題を明確にしましょう。

また、品質方針を定め、具体的な品質目標を設定することで、達成すべき目標を明確にして取り組みの方向性を定めます。

認証取得までのスケジュールを策定し、各段階に要する期間を見積もって無理のない計画を立てることが成功の秘訣です。

ステップ2:品質マネジメントシステムの構築

計画に基づいて、実際に品質マネジメントシステム(QMS)を構築する段階です。

品質方針や品質目標の設定をはじめ、マニュアルや手順書の整備を行い、要求事項を満たすようQMSを構築します。

ISO9001のために新たなルールやプロセスを導入するのではなく、既存の業務ルールをISO9001の要求事項に合わせて修正・補強することで、負担を最小限に抑えられます。

文書構築では、作業手順書やチェックリスト、記録様式などの帳票整備も重要な要素です。

製造業では特に、生産プロセスの各段階での品質管理ポイントを明確にし、誰が担当しても一定の品質が確保される仕組みづくりが求められます。

既存のシステムを活用したアプローチにより、現場の混乱を避けつつスムーズな導入が実現できるでしょう。

ステップ3:システムの運用と改善活動

構築したQMSを実際に運用し、運用した記録を蓄積する段階です。

運用期間中は、定期的な内部監査やマネジメントレビューを通じて、業務プロセスの改善点を見つけ出し、常に品質の向上を図ることが求められます。特に製造業では、生産プロセスの改善が品質に直結するため、効果的な改善活動が重要です。

内部監査では、社内の別部署や専門スタッフが運用状況をチェックし、改善点を洗い出します。QMS運用の有効性を確認し、課題が発見された場合には是正処置を行う必要も。

社員に対してISO9001の目的やメリットを説明し、具体的な運用方法や各自の役割を明確に伝えることで、全社員の理解と協力を得ることができます。この段階での継続的な改善活動が、認証取得後の持続的な品質向上につながります。

ステップ4:外部審査による認証取得

十分な運用実績を積んだ後、認証機関による外部審査を受けて認証を取得する最終段階です。

審査は第1段階審査(文書審査)と第2段階審査(現地審査)の2段階で実施されます。

第1段階審査では、提出した文書類をもとに品質マネジメントシステムの適合性が評価され、第2段階審査に向けた準備状況も確認されます。

第2段階審査では、審査員が現地を訪問し、品質マネジメントシステムの運用状況が評価されるのです。

審査期間は約1か月で完了し、通過すると認証を取得できるでしょう。不適合があれば是正処置を求められるため、事前の準備と継続的な改善活動が重要となります。

審査結果をもとに、審査登録機関の判定委員会で認証可否が判定され、認証基準に適合していればISO9001認証が授与されます。

ISO導入における3つの注意点

ISO導入における注意点としては、以下の3つがあげられます。

  • 経営層のコミットメント不足による現場の疲弊
  • 文書作成の負担増と形骸化のリスク
  • 目的の不明確さと外部依存の問題

順番に見ていきましょう。

注意点1:経営層のコミットメント不足による現場の疲弊

ISO導入でよく見られる失敗として、経営層の関心が薄く現場が疲弊してしまうケースがあげられます。

ISO9001は現場だけの活動ではなく、経営トップのコミットメントがないと形骸化や担当者任せになりがちです。経営層がISO9001の重要性を理解し、全社的な取り組みとして推進する姿勢を示さなければ、社員の意識も高まらず効果的な運用が困難になります。

具体的には、トップが「品質を高める理由」を明確に示し、定期的な経営レビュー会議を設けて品質目標や改善計画をリードする仕組みが必要です。

経営者自身がISO活動に参加し、現場との対話を重視することで、組織全体でISO導入の意義を共有できるようになります。

現場に丸投げではなく、経営判断として取り組む姿勢が成功の鍵となるでしょう。

注意点2:文書作成の負担増と形骸化のリスク

ISO認証取得のためには、品質方針・目標、品質管理の組織図、手順書・仕様書など規格に応じて様々な書類・マニュアルの作成が必要です。

通常業務を行う中で審査に必要な書類の作成をしなければならず、担当者に大きな負担がかかってしまう恐れがあります。

さらに深刻な問題は、規格文を丸写しして形だけの手順書を作ってしまうケースです。現場がその文書を使わず、結局は「書類だけ増えた」状態となり、審査でも不備を指摘されがちになります。

細かすぎる文書化は形骸化しやすいため、現実的に運用できる程度の文書化が望ましく、自社独自のプロセスをしっかり反映し使いやすい形にすることが重要です。

既存の業務ルールをISO9001の要求事項に合わせて修正・補強するアプローチにより、負担を最小限に抑えられます。

注意点3:目的の不明確さと外部依存の問題

ISO認証の取得に向けて準備や運用に負担が生じる理由として、取得だけが目的になってしまうケースがあげられます。

「どうやって活用していきたいのか」「なぜ取得したいのか」という目的がなければ、認証取得後に有効活用できません。

また、コンサルタントや外部機関に任せきりになってしまい、「何が何だかわからなかった」という状況に陥る企業も少なくありません。外部任せすぎの問題として、内部監査や文書管理を1人の担当者に集約すると、退職や異動でノウハウが消える恐れもあります。

成功する企業は、社内で動かす仕組みづくりを重視し、部署間でチームを作って複数人で管理することでリスクを分散しています。

ISO導入の目的を明確にし、社内主導で進めることが持続的な運用につながる重要なポイントといえるでしょう。

ISOの今後の展望

ISO規格は2026年から2028年にかけて大規模な改訂期を迎えます。最も重要なISO9001は2026年9月頃にISO9001:2026として発行される予定で、現在は委員会原案の段階にあります。

改訂の焦点は、以下のとおり。

  • リスク管理の強化
  • デジタルトランスフォーメーション(DX)への対応
  • サステナビリティとサプライチェーンマネジメントの重視

またISO14001は2026年1月に新バージョンが発行予定ですが、既存要求事項の理解を深める変更に限定され、新たな要求事項の導入は避けられる方針です。

製造業にとって重要なのは、DX・サプライチェーンレジリエンス・サステナビリティといった新たな要求への対応が急務となっていることです。

認証機関は「改訂が確定してから動く」のではなく「ドラフト段階から先手を打つ」アプローチを推奨しており、製造業経営者は早期の情報収集と準備が成功の鍵となるでしょう。

まとめ

製造業において、ISO規格の取得は国際競争力向上と事業安定化の重要な手段です。

特に品質マネジメントシステム(ISO9001)、環境マネジメントシステム(ISO14001)、情報セキュリティマネジメントシステム(ISO27001)の3つが製造業には欠かせません。

ISO取得による主要なメリットは以下の通りです。

メリット 詳細
信頼獲得 顧客・取引先との新規取引機会創出
品質向上 不良品率低減、生産性向上
業務標準化 属人化解消、技術継承の円滑化

取得までは「計画立案→システム構築→運用改善→外部審査」の4ステップで進行し、経営層のコミットメントと現場の理解が成功の鍵となります。

2026年から2028年にかけてISO規格の大規模改訂が予定されており、DX対応やサステナビリティへの配慮が新たに重視される見込みです。

製造業経営者は早期の情報収集と準備により、変化する国際標準に適応し、持続的な成長基盤を構築することが重要です。