
環境配慮への社会的要請が急速に高まる現代において、企業の調達活動においても持続可能性が重要なキーワードとなっています。
特に製造業では、取引先からのグリーン調達要請や環境適合商品の製造要求が急速に拡大しており、対応の遅れが既存取引の維持や事業継続に深刻なリスクをもたらすケースも増加中です。
一方で、早期に適切な対応体制を構築できた企業は、新たな取引機会の獲得や市場での競争優位性の確保という大きな恩恵を受けることが可能となります。
本記事では、製造業経営者が必ず押さえておくべきグリーン購入法の基礎知識から具体的な対応手順、導入時の注意点まで詳しく解説いたします。
目次
グリーン購入法とは?
グリーン購入法とは、正式名称を「国等による環境物品等の調達の推進等に関する法律」といい、2000年5月に制定された法律です。
国や独立行政法人、地方自治体などの公的機関が、環境に配慮した製品やサービスを優先的に調達するよう定めています。持続的発展が可能な社会の構築を目的として、循環型社会形成推進基本法に基づく個別法として位置づけられました。
法律の仕組みは、公的機関が率先して環境負荷の少ない商品を購入することで、市場全体の需要を環境配慮型に転換させる点にあります。
現在、紙類や文具類から建築資材まで22分野288品目が対象となっており、毎年度見直しが行われています。
製造業にとっては、公的機関向けの商品開発において環境性能が重要な競争要素となるため、事業戦略に大きな影響を与える法律といえるでしょう。
グリーン購入法が製造業へ与えるの3つの影響
グリーン購入法の実際の影響を理解するためには、法律に基づいて企業が実践する「グリーン調達」という取り組みを知っておく必要があります。
グリーン調達とは、企業が原材料や部品を調達する際に、環境負荷の少ない製品や環境配慮に積極的な企業から優先的に購入する取り組みです。
グリーン購入法は国や自治体の調達ルールを定めた法的枠組みですが、この法律の影響で民間企業でもグリーン調達の導入が加速しており、製造業にとって無視できない経営課題となっています。
グリーン購入法が製造業へ与える影響は、おもに以下の3点です。
- 取引先からの適合商品製造要請による事業継続への影響
- ISO14001取得を通じた優先取引機会の拡大
- 法規制対応強化によるリスク管理とコスト削減効果
順番に見ていきましょう。
影響1:取引先からの適合商品製造要請による事業継続への影響
製造業では、親会社や主要取引先から「グリーン購入法適合商品を製造してもらいたい」という要請を受けるケースが急速に増加しています。
環境関連の法規制は年々厳しくなっており、社会からの環境配慮に対する要請も高まっているため、大手企業は調達基準に環境性能を組み込む動きを加速させています。
製造業にとって深刻な問題は、要請への対応可否が取引先との関係性や取引継続の判断材料となってしまう点です。
適合商品の製造体制を整備できない企業は、既存の重要な取引を失うリスクに直面するでしょう。
一方で、早期に対応体制を構築した企業は、競合他社との差別化要素として環境性能を活用でき、新規顧客開拓の武器とすることも可能です。
影響2:ISO14001取得による優先取引機会の拡大
ISO14001環境マネジメントシステムの認証取得は、グリーン調達の要件を満たす重要な証明となり、取引機会の拡大につながります。
環境に関心の高い企業との取引において、ISO14001認証を持つ企業は調達基準に適合しているため、商談が容易に進む傾向があります。
認証取得は企業が環境問題に真剣に取り組んでいることを客観的に示す強力な証明であり、取引先や顧客に対して信頼性や責任感をアピールする有力なツールとなるでしょう。
特に製造業では、環境配慮型製品への需要が増加傾向にあるため、認証取得により新たな市場機会を獲得できる可能性が広がります。
投資対効果を考慮すると、認証取得コストを上回る取引拡大のメリットを享受できる企業が多いのが現状です。
影響3:法規制対応強化によるリスク管理とコスト削減効果
グリーン調達の導入により、製造業は法規制に抵触するリスクを効果的に回避できます。
製品の部品や原材料が多く、法改正への対応も必要な製造業では、原材料や部品の管理が複雑化しているのが実情です。グリーン調達を取り入れることで、サプライチェーンを通して法令や業界基準の順守を証明でき、化学物質などの法規制への対応力が向上します。
万が一、部品段階で有害物質が基準量を超えていると、完成品も違反品となり商品の販売停止や部品交換などが必要になる恐れがありますが、基準を満たしたサプライヤーからの調達により安全基準を満たしたものづくりが可能となります。
結果として、法令違反による損失リスクを大幅に削減でき、安定した事業運営を実現できるでしょう。
グリーン購入法対応の6ステップ

製造業がグリーン購入法に対応する手順は、大きく以下の6ステップに分けられます。
1.現状把握
2.目標設定
3.基準作成
4.調達先選定
5.情報開示
6.見直し・改善
順番に見ていきましょう。
ステップ1:現状把握
まず、自社の調達活動における環境負荷を詳細に把握します。具体的には、調達する製品やサービスの種類、量、調達先の環境への取り組みなどを調査する必要があります。
製造業では原材料や部品が多岐にわたるため、主要な調達品目から優先的に調査を開始するのが現実的でしょう。南足柄市の事例では、現在の購入実態や今後の購入の可能性を勘案し、総務課等が一括購入する品目を中心に19分野を対象としました。
調査項目には、調達先の環境マネジメントシステムの有無、有害物質の使用状況、リサイクル可能性などが含まれます。
現状把握により、どの分野で環境負荷が高いかが明確になり、効果的な改善計画の立案が可能となります。
ステップ2:目標設定
現状把握の結果を踏まえ、環境負荷低減目標を数値で具体的に設定します。
目標は達成可能でありながら挑戦的な水準とし、期限を明確に定めることが重要です。製造業の場合「グリーン購入適合品の調達率を80%以上達成」など、測定可能な指標を用いるのが効果的でしょう。
目標設定の際は、業界のベンチマークや同規模企業の実績も参考にし、自社の事業特性に合わせた現実的な数値を設定することが持続的な取り組みにつながります。
ステップ3:基準作成
目標達成のために、環境に配慮した製品やサービスの調達基準を作成します。
基準作成の際は、グリーン購入法の基本方針や特定調達品目の判断基準を参考にすることが重要です。
2025年1月閣議決定の基本方針では、22分野288品目が対象となっており、各品目には「基準値1」と「基準値2」の2段階の判断基準が設けられています。
調達基準には、環境ラベル等を活用した視覚的に判断しやすい内容を盛り込み、現場担当者が迷わずに判断できる仕組みを構築することが実務上重要です。
基準は社内で共有しやすい形式にまとめ、定期的な見直しも計画に含めておくべきです。
ステップ4:調達先選定
作成した基準を満たす調達先を選定します。調達先の環境への取り組みを評価し、環境負荷の少ない製品やサービスを提供する企業を優先的に選定する必要があります。
評価項目には、ISO14001などの環境マネジメントシステム認証の取得状況、有害化学物質の管理体制、廃棄物削減への取り組みなどが含まれます。
株式会社ソディックの事例では、2017年11月に「グリーン調達基準書」を発効し、調達先および調達品の選定基準を規定して、グリーン調達の基準を満たすために必要な活動・調査を明確化しました。
新規サプライヤーの開拓においても環境配慮を重視し、既存取引先には段階的な改善を促していくことで、サプライチェーン全体の環境性能向上を図ることができるでしょう。
ステップ5:情報開示
調達活動における環境情報を開示します。
具体的には、グリーン購入の取り組み状況や環境負荷低減効果などを、ウェブサイトや報告書などで公開する必要があります。
情報開示により、取引先や顧客、投資家に対して環境への取り組み姿勢を明確に示すことができ、企業の信頼性向上につながります。開示内容には、グリーン購入適合品の調達実績、CO2削減効果、主要サプライヤーの環境認証取得状況などの具体的データを含めることが重要です。
地方公共団体では、環境省のデータベースを通じて取り組み状況が公開されており、民間企業も同様の透明性が求められる傾向にあります。
定期的な情報更新により、継続的な取り組みを証明し、ステークホルダーからの信頼獲得につなげることができるでしょう。
ステップ6:見直し・改善
定期的に調達活動を見直し、改善します。
環境負荷低減目標の達成状況や、新たな環境技術の動向などを踏まえ、調達基準や調達先を継続的に見直す必要があります。見直しの頻度は年1回を基本とし、法改正や業界基準の変更があった場合には随時対応することが重要です。
グリーン購入法の基本方針は毎年度見直しが行われており、2025年1月の改定では43品目の判断基準等の見直しと1品目の新規追加が行われました。
改善活動では、調達実績の分析結果をもとに効果の高い取り組みを拡大し、課題のある分野については具体的な対策を講じることが必要です。
継続的な改善により、環境負荷低減と事業競争力の両立を実現し、持続可能な経営基盤を構築することができるでしょう。
製造業におけるグリーン購入法の導入事例2選
ここからは製造業におけるグリーン購入法の導入事例を2つ紹介します。
順番に見ていきましょう。
事例1:自動車製造業における環境配慮型部品調達の推進事例
大手自動車メーカーでは、環境負荷低減型とリサイクル可能な原材料の調達を推進する方針を策定しました。
具体的には、ハイブリッド車などの環境配慮型車両の部品に再生プラスチックを積極的に使用する取り組みを開始しています。調達戦略では、単に環境に優しい素材を選ぶだけでなく、サプライヤーに対しても環境管理システムの導入を促進している点が特徴的です。
製造業の調達活動において、グリーン購入法の理念を先取りした形で環境配慮を組み込んだ成功例といえるでしょう。
この取り組みにより、車両製造における環境負荷を大幅に削減しながら、サプライチェーン全体での環境意識向上を実現しています。
同時に、環境配慮型製品の市場需要拡大にも貢献し、持続可能なものづくりの模範となっています。
事例2:食品製造業におけるグリーン調達ガイドライン策定の事例
大手食品メーカーでは、購買活動における環境配慮を具体化するため、国内外のグループ企業を対象としたグリーン調達ガイドラインを策定しました。
ガイドラインでは、原料・資材・間接材などの購入とサービス委託について、明確な要求事項を設定しています。
各組織では、事務文具や事務所器具・備品、実験機材、製造過程における消耗品といった間接材について、エコ商品の割合目標を設定し、達成に向けた企業努力を継続しています。
食品製造業という特性を活かし、原料調達から製造、流通まで一貫した環境配慮の仕組みを構築している点が注目されます。環境保全計画にグリーン調達の取り組み計画と具体的目標を盛り込み、組織全体での意識統一を図っています。
グリーン購入法を導入するときの3つの注意点
グリーン購入法を導入するときの注意点として、以下の3つがあげられます。
- 判断基準の理解と適用における専門性の高さ
- 初期コスト増加と専門人員確保の課題
- 継続的な情報収集と法改正への対応負担
順番に解説していきます。
注意点1:判断基準の理解と適用における専門性の高さ
グリーン購入法の導入で最初に直面する課題は、判断基準や対象品目の理解です。
環境省の調査によると、都道府県や政令市では「グリーン購入法の判断基準や対象品目の範囲の記述が難しい」が最も多い要因となっています。
現在22分野288品目が対象となっており、各品目には詳細な環境基準が設定されているため、製造業の担当者が正確に理解するには相当な専門知識が必要です。
特に製造業では、紙製品や文具類から建築資材、自動車関連商品まで多岐にわたる品目が関係するため、判断に迷うケースが頻発します。
注意点2:初期コスト増加と専門人員確保
グリーン購入法への対応には、初期投資と人員体制の整備が不可欠です。
環境省の調査では、地方自治体における方針策定時の課題として「調達コスト増加の懸念」「人員不足」「参考情報の不足」が主要な問題として挙げられています。
製造業では、環境配慮型製品への切り替えや認証取得に伴うコスト増加が避けられません。さらに、グリーン購入法や環境配慮契約法に関する知識や経験を有する専門人材の確保も重要な課題となります。
中小製造業では特に人員不足が深刻で、既存の業務と並行して環境対応を進める必要があるため、効率的な体制構築が求められるでしょう。投資対効果を慎重に検討し、段階的な導入計画を立てることが成功の鍵となります。
注意点3:継続的な情報収集と法改正への対応負担
グリーン購入法は毎年度見直しが行われるため、継続的な情報収集と対応が必要です。
品目や判断基準は定期的にアップデートされ、新たな環境技術の進歩に合わせて要求水準も変化します。製造業では、法改正への対応が遅れると、既存の取引に影響が生じるリスクがあります。
特に化学物質や有害物質の管理基準は厳格化の傾向にあり、部品段階での基準超過が完成品の違反につながる可能性もあります。
情報収集体制の整備には、業界団体への参加や専門コンサルタントの活用、環境省の公式情報の定期チェックなどが有効です。
継続的な対応を怠ると、競合他社との差が拡大し、取引機会の損失につながる恐れがあるため、組織的な取り組みが重要となるでしょう。
グリーン購入法の今後の展望
グリーン購入法は継続的な発展が見込まれており、2025年1月28日には基本方針の変更が閣議決定され、対象品目が22分野288品目に拡大されました。
環境省では来年度以降も引き続き基本方針の変更を検討していく予定としており、時代の変化に合わせた柔軟な制度運用が行われています。
特に注目すべきは、2段階の判断基準の導入により、より多様な環境配慮型製品が対象となる点です。
製造業にとっては、持続可能な社会の実現に向けた取り組みが加速する中で、企業の社会的責任(CSR)重視の流れが強まっており、環境配慮は競争優位性の源泉となりつつあります。
消費者の環境意識の高まりも相まって、サプライチェーン全体での環境負荷低減が求められる時代に入っているでしょう。
グリーン購入法は国内の制度にとどまらず、国際協力や技術開発の促進にも寄与することが期待されており、持続可能な未来実現のための重要な基盤となっています。
まとめ
グリーン購入法とは、2000年に制定された「国等による環境物品等の調達の推進等に関する法律」で、公的機関が環境に配慮した製品やサービスを優先的に調達するよう定めています。
現在22分野288品目が対象となり、毎年度見直しが行われています。
製造業への主な影響は以下のとおり。
影響 | 内容 |
---|---|
事業継続への影響 | 取引先からの適合商品製造要請の増加 |
取引機会の拡大 | ISO14001取得による優先取引の獲得 |
リスク管理効果 | 法規制対応強化によるコスト削減 |
注意点として、判断基準の理解に専門性が必要で、初期コスト増加や継続的な法改正対応が求められます。
2025年には288品目に拡大され、今後も制度発展が見込まれています。環境対応業務の効率化には、専門的な管理ツールの活用が重要です。
法改正への迅速な対応と継続的な取り組みにより、競争優位性の確保と持続可能な経営基盤の構築を実現しましょう。