
製造業界は、
- 人材不足
- コスト上昇
- 設備稼働率の低下
などの課題を抱えています。
上記のような問題解決に期待されるのが、情報技術(IT)と制御技術(OT)の融合です。
従来分断されていた経営層と製造現場がデータでつながることで、リアルタイムな意思決定が可能となりました。工場設備の稼働状況や生産効率を即座に把握し、迅速な対応ができるようになったのです。
IT・OTそれぞれ単体では実現できない価値が生まれ、製造業の競争力強化に大きく貢献するでしょう。
本記事ではITとOTの融合がもたらす3つの主要メリットと導入企業の成功事例から、実践的な取り組み方まで詳しく解説していきます。
目次
ITとOTの融合とは?

ITとOTの融合とは、情報技術(IT)と運用制御技術(OT)を統合することです。IT技術はデータの収集・処理・活用を担うシステムで、主に経営管理に使われています。
一方、OTは製品や設備、製造ラインなどを最適に動かすための制御・運用技術を指します。
両者の統合により、製造現場と経営層がリアルタイムにつながる環境が生まれるのです。たとえば、工場の機械の稼働状況や生産効率などのデータが直接経営層に伝わり、迅速な判断材料となります。
この融合は、単なる技術統合ではなく、製造業が直面する「経営と現場の乖離」という大きな課題を解決する手段でもあります。
経営層が製造現場の状況をリアルタイムで把握し、適切な判断に基づく指示を現場に伝えられる体制を構築できます。これにより、生産管理や在庫管理も現場からの即時データを基にした戦略的な判断が可能となり、製造業のデジタル変革に大きく貢献するでしょう。
製造業でITとOTの融合を実現したときの3つのメリット
製造業でITとOTの融合を実現したときのメリットとして、以下の3つがあげられます。
- 経営と製造現場のリアルタイム情報連携
- データ駆動型の意思決定による生産性向上
- コスト削減とアジリティ(俊敏性)の向上
順番に見ていきましょう。
メリット1:経営と製造現場のリアルタイム情報連携
製造現場の機械稼働状況や生産効率といった情報が、経営層にリアルタイムで伝わるようになります。従来、産業機械や運搬装置の稼働率は現場担当者だけが把握できる情報でした。
しかしIT/OT融合により、製造現場と経営層がデータを通じて直接つながり、経営判断の材料として活用できるのです。生産管理や在庫管理も、現場からのリアルタイムなデータを基にした迅速な判断が可能となります。
経営層と製造現場の情報共有が、四半期ごとなど定期的なタイミングから、日常的なものへと変化するでしょう。
例えば材料費の急激な上昇が利益率に与える影響などを即座に把握し、製造コストの低い製品の販売促進へと戦略を素早く調整できます。
製造業が抱える「経営と現場の乖離」という課題解決にも直結する重要なメリットなのです。
メリット2:データ駆動型の意思決定による生産性向上
堅牢なデータセットを活用した高度な分析と機械学習アルゴリズムにより、製造プロセスの最適化が実現します。設備の故障を事前に予測したり、作業の流れを合理化したりすることで、ダウンタイム(稼働停止時間)を大幅に削減できます。
予防的なメンテナンス対策も可能になるため、運用コストが削減され長期的な利益向上につながるでしょう。工場現場のデータをリアルタイムで収集・分析・実行することで、製品品質の向上や生産量の増加といった多大なメリットが生まれます。
従来は「経験と勘」に頼ってきた現場の装置や設備の運用が、定量的なデータに基づく操作へと変わっていくのです。熟練担当者の技術をより効果的に活用するための基盤となり、人と機械の間のコミュニケーションを円滑にします。
結果として企業全体を包括的に理解し、これまで解決できなかった課題にも機敏に対応できるようになります。
メリット3:コスト削減とアジリティ(俊敏性)の向上
IT/OT融合による主要なメリットとして、コスト削減やアジリティ(俊敏性)の向上も挙げられます。特にコスト面では、IT部門にとっては収益性を示す指標となり、OT部門にとっては生産コスト削減という目標に直結します。
どちらの部門にとっても、コストの改善は組織全体の収益にプラスの影響をもたらすのです。OT部門とIT部門のデータが連携する共通プラットフォームを構築することで、正確なKPI(重要業績評価指標)を生成できます。
共通の目標に向かって並行して取り組むことが可能になり、全社的な可視性の恩恵を受けられるでしょう。
企業がコスト管理を強化し、KPIをリアルタイムで把握するようになると、市場変化への迅速な対応力が向上します。
この結果、生産スケジュールの迅速な改善や新たな革新の機会創出など、より柔軟で戦略的なモノづくりが実現するのです。
製造業におけるIT/OT融合の成功事例3選
ここからは製造業におけるIT/OT融合の成功事例を3つ紹介していきます。
順番に見ていきましょう。
事例1:次世代飲料工場における製造現場と情報部門の一体化
ある大手飲料メーカーは、次世代工場モデルとしてIT/OT融合を徹底的に推進しました。
従来、製造現場を担当するOT部門と情報システムを担当するIT部門は、互いの言語やカルチャー、仕事の進め方の違いから連携が難しい状況でした。次世代工場では両部門が共通の目標に向かって緊密に協力することで、生産性と品質の向上を実現したのです。
具体的には、製造装置のリアルタイムデータをIT部門の分析システムに直接連携させ、現場の状況を経営層が瞬時に把握できる環境を整えました。これにより迅速な意思決定と問題の早期発見が可能となり、工場全体の生産効率が約15%向上したという成果が得られています。
また、現場作業者と経営層の距離感も縮まり、会社全体としての一体感も生まれたという副次的効果も報告されています。本事例の最大の成果は、「近くて遠い」と言われてきたOT部門とIT部門の距離を大幅に縮めたことにあるでしょう
事例2:ロボット組立ラインの工場全体可視化システム
ある工場では、複数台のロボットが連携してサーボアンプを組み立てる生産ラインにIT/OT融合システムを導入しました。
広大な工場内で複数のロボットやPLC(プログラマブル・ロジック・コントローラ)の稼働状態を把握することが困難という課題を抱えていました。
工場全体の稼働状況を一目で確認できるモニタリングシステムを独自に開発し導入したのです。このシステムでは工程をまたいだ工場全体の稼働状況をリアルタイムで表示し、各生産セルの状態や詳細情報まで簡単に確認できる仕組みとなっています。
特に現場担当者が遠くからでも進捗率を把握できるよう、フラスコ型の視覚的な表示を採用し、100%になれば生産完了が一目でわかる工夫も凝らしました。さらに設備に問題が発生した際には現場担当者のPHSに自動通知する機能も実装し、トラブル対応の迅速化にも成功しています。
これらの施策により、設備稼働率が向上しただけでなく、作業者の負担軽減と品質安定化という複数の効果が同時に得られました。
事例3:多品種少量生産を実現するスマートファクトリー
製造業の生産形態は、大量生産から多品種少量生産へと急速に変化しています。
さらに将来は、大量生産と同じコストで1つずつ仕様が異なる製品を生産する時代が到来すると予測されています。そんな中、ある製造企業は工場内の各システムをITで有機的につなぎ、柔軟な生産体制を実現するスマートファクトリーを構築しました。
従来は各工場や各生産ラインごとに基幹システム(ERP)や製造実行システム(MES)がバラバラに存在していましたが、これらを統合することで全体最適化を図ったのです。
OTとITを融合させることで、製造現場と経営側がリアルタイムにつながり、生産管理や在庫管理が現場からのリアルタイムデータを基に行えるようになりました。
その結果、需要変動に対して迅速に生産調整が可能となり、在庫削減と納期短縮の両立に成功しています。この成功事例は、単なる技術導入ではなく、経営と製造現場の情報連携がいかに重要かを示す好例といえるでしょう。
ITとOTの融合を成功させる4ステップ
ITとOTの融合を成功させる手順は、以下の4ステップに分けられます。
- 現状の把握とリスク評価
- OTとITチーム間の信頼関係構築
- 優先度に基づいた戦略の立案
- 専門チームによる段階的な実装
順番に解説していきます。
ステップ1:現状の把握とリスク評価
ITとOT融合の第一歩は、現状を正確に把握し、リスクを評価することから始まります。まずは社内のシステム構成や既存のセキュリティルールなどの内部要件と、法規制や業界ルールなどの外部要件を整理しましょう。
製造現場では実際にシステムがどのように使われているのかを明確にすることが重要です。
例えば、生産計画の立案において現場のOA端末から日次で入力している、といった業務フローを洗い出します。この過程で情報技術(IT)と運用制御技術(OT)の融合点を精査し、潜在的な弱点も特定します。
一連の生産工程の中で漏れがないか、それぞれの業務の実施者が明確になっているかなど、詳細な確認が必要です。強固な融合基盤を構築するには、この現状分析が不可欠なのです。
ステップ2:OTとITチーム間の信頼関係構築
ITとOT融合の成功には、両チーム間の信頼関係構築が極めて重要です。
ITチームはデータの完全性とネットワークセキュリティを重視する一方、OTチームはリアルタイムの稼働継続性を優先するという文化の違いがあります。この文化的な隔たりを埋めるため、共通の目標に向かってチームを動員し、オープンなコミュニケーションを奨励する環境作りが必要になります。信頼関係構築の第一歩として、重要ではない製造プロセスから段階的にデジタル化を進めるのが効果的でしょう。
例えば、二次センシングや計量などの日常的な製造作業は、デジタル化とデータ分析の価値を実証するための良い出発点となります。OTチームがITの価値を実感できれば、「OT部門内でITを推進する担当者」が自然と育ち、融合への抵抗も少なくなるでしょう。
人的要因への配慮こそが、技術的な統合以上に成功の鍵を握っているのです。
ステップ3:優先度に基づいた戦略の立案
現状分析の結果を基に、自社の環境を考慮した上で、業務と保護対象に対して優先度と重要度を設定します。
限られた予算と期間の中で実現可能な方針を立てるには、優先的に取り組む範囲を明確にすることが重要です。優先順位の設定では、業務の重要度と脅威レベルを掛け合わせてセキュリティ要求レベルを設定するなどの方法が有効でしょう。
情報技術(IT)と運用制御技術(OT)の融合に伴う戦略では、相互運用性、文化的連携、人材の意識改革、サイバーセキュリティを含む多面的なアプローチが求められます。融合の鍵は、これらの要素を調和させ、シームレスに統合されたデジタルの未来に向けて統一された道筋を描くことにあります。
戦略立案の際は、単なる技術導入ではなく、組織全体の変革として位置づけることが成功への近道となるでしょう。ビジョンを明確にし、全社的な理解と協力を得ることが大切です。
ステップ4:専門チームによる段階的な実装
IT/OT融合の実装には、専門的な知識を持つチームの編成が効果的です。
センター・オブ・エクセレンス(COE)と呼ばれる、OTとIT分野の専門家から成る学際的なチームを結成しましょう。COEは3〜5人のメンバーから始め、ITとOTの両方の面で相互トレーニングを受けた人材で構成します。
このチームが変革の主体となり、ベストプラクティスを標準化して広め、反復可能なパターンを開発して実装を拡大していきます。COEが成功するためには、経営幹部のスポンサーシップと自律的に行動する能力が不可欠です。
大規模な変革ではなく、段階的な改善に集中できるよう体制を整えることが重要でしょう。
専門チームの活動を通じて、ITとOTが融合した新たな組織文化が徐々に根付いていくのです。
製造業におけるIT/OT融合時の3つの注意点
製造業におけるIT/OT導入時の注意点は、主に以下の3点です。
- セキュリティリスクの増大と適切な対策の必要性
- IT部門とOT部門の文化・スキルの違いによる摩擦
- レガシーシステムの統合に伴う技術的な障壁
順番に見ていきましょう。
注意点1:セキュリティリスクの増大と適切な対策の必要性
IT/OT融合によって新たなセキュリティ上の懸念が生じます。
従来、製造現場のシステム(OT)はネットワークから隔離された環境で独立して動いていたため、外部から攻撃される心配は少なかったのです。しかし、OTとITの一体化により、インターネットに接続されたITエリアを経由して、製造現場のシステムに侵入される危険性が高まっています。
レガシーシステムをITネットワークに接続すると、ランサムウェアが侵入できる経路や見落とされていた脆弱性が露呈するリスクがあります。最悪の場合、攻撃者によって製造プロセスを乗っ取られ、生産停止を余儀なくされたり、製品が改ざんされたりする恐れも生じます。
この問題に対処するには、エッジから基幹システムまでを包括的に可視化し、統合的なセキュリティ対策を講じることが重要です。製造業のDXの取り組みが進む中、少なくとも当面は攻撃にさらされる可能性が高まるという認識を持ち、適切なセキュリティ対策を進める必要があるでしょう。
注意点2:IT部門とOT部門の文化・スキルの違いによる摩擦
IT/OT融合における大きな課題の一つが、これまで独立して業務を行ってきた両部門間の文化的な違いです。IT部門はデータの完全性とネットワークセキュリティを重視する一方、OT部門はリアルタイムの稼働継続性を優先するという異なる価値観を持っています。
さらに、ITとOTそれぞれの専門家の間にある文化的な衝突が、業界のベストプラクティスに基づく共同作業を妨げる要因となっています。この課題を乗り越えるには、両チームが相互にコミュニケーションを取り、協力して作業の優先順位を付け、共通の目標達成を目指す体制づくりが欠かせません。
両部門が今後は、重複する運用コストを削減し、プロセスの複雑さを軽減していくことも期待されています。
また、OT部門の人材はITに詳しいとは限らず、ITインフラの管理・運用が新たな課題となることも念頭に置く必要があります。このような人的要因への配慮は、技術的な統合以上に成功の鍵を握っているといえるでしょう。
注意点3:レガシーシステムの統合に伴う技術的な障壁
IT/OT融合におけるもう一つの大きな課題は、レガシーシステムの統合に伴う技術的な障壁です。
OTシステムは主にプラントや工場に置かれ、ITシステムとは異なる特性を持っています。特に問題となるのが、ITシステムに比べてOTシステムのライフサイクルがかなり長いという点で、これがカスタマイズやサポートを難しくしています。
従来の製造業では、各工場・各生産ラインごとに基幹システム(ERP)や製造実行システム(MES)が存在していましたが、これらを統合することで全体最適化を図る必要があります。また、ハードウェアと専用ソフトウェアが密に統合された既存のシステムを、疎結合でオープンなシステムに再構成するには、コストも工数もかかります。
この課題に対応するため、「ソフトウェア・デファインド・マニュファクチュアリング」という手法が注目されており、ハードウェアを仮想化技術で抽象化し、ソフトウェアとして制御するアプローチが有効とされています。
製造工程のシステムには変化に素早く対応できる柔軟性が求められるため、クラウドを基盤にしたITとOTを融合するオープンプラットフォームの実現が今後の鍵となるでしょう。
製造業におけるIT/OT融合の今後の展望
製造業のIT/OT融合は、今後ますます加速していく見込みです。
リアルタイムのデータ交換が促進され、工場の現場と経営層の間で情報が瞬時に共有される世界が広がるでしょう。
2025年4月にはOMRONとコグニザントが戦略的パートナーシップを締結し、この動きに拍車をかけています。
両社の協力により、
- 生産性の大幅な向上
- 運用損失の削減
- 経営判断の迅速化
など、製造現場が直面する喫緊の課題解決が期待されています。
将来の製造業は、つながり、知能化され、自律的かつ持続可能で強靭な状態へと進化していくことでしょう。
高度な分析と機械学習アルゴリズムを活用したシステムが標準となり、プロセスの最適化や設備の故障予測が当たり前になります。製造現場では人とロボット、AIが融合し、リアルとバーチャルが一体化した新しい働き方が実現するでしょう。
こうした変化により、データドリブンな意思決定が製造業の競争力を大きく左右する時代が間もなく到来すると予測されます。
まとめ
ITとOTの融合は、情報技術と製造現場の制御技術を統合し、経営と現場の乖離という製造業の課題を解決する取り組みです。
ITが担うデータ収集・処理技術とOTの製造設備制御技術が融合することで、現場の状況をリアルタイムに経営層へ伝え、迅速な意思決定を可能にします。
ITとOT融合のメリットは、以下のとおりです。
メリット | 内容 |
---|---|
情報連携 | 製造現場と経営層がリアルタイムでデータを共有 |
生産性向上 | データ分析による予防保全や工程最適化が実現 |
コスト削減 | 共通プラットフォームによる運用効率化と俊敏性向上 |
導入時はセキュリティリスクの増大、部門間の文化的摩擦、レガシーシステムとの統合など課題がありますが、これらを克服することで製造業の競争力強化につながるでしょう。