人は言葉を知ることで世界を認識することができる。言葉をつかい多くの人たちと情報を交換することで、その多くの人たちと同じ目的に向かって共同作業をすることが可能になります。言い換えるならば、新しい言葉を知ることは新しい世界を見る目を作り、思考を変え、行動を変えます。そして新たな仲間と出会い、共感する力、共創する力となります。
このシリーズでは経営者やビジネスリーダーの方々に知ってほしい重要キーワードを現役コンサルタントでもある編集部メンバーがピックアップし、そのキーワードについての我々なりの解説を試みます。ご紹介するキーワードが皆さまにとって既知であることが多いかと思いますが、我々がコンサルタントとして製造業の改革をご支援する際に、このようなキーワードに関連した理論やモデル、コンセプトなどを重視しているのだなと想像し楽しんでいただけたら幸いです。
本シリーズの記念すべき第一回は「経済複雑性」です。事業経営する上で地の利を活かすことは非常に重要です。日本という国の強み、それを活かす戦略を策定する上で非常に重要なキーワードとして「経済複雑性」をご紹介します。
1. 「経済複雑性」とは
経済複雑性とは、ある集団レベル(いわゆる社会ネットワーク)の経済活動における多様性や洗練さを表す尺度のことです。そして、ある集団レベルの経済活動の多様性と洗練さは、その集団で蓄積することができる知識やノウハウの多様性や洗練さに依存することより、その集団が蓄積することができる知識やノウハウの多様性や洗練さのことでもあります。言い換えるならば、その集団レベル(いわゆる社会ネットワーク)の生産的知識の尺度でもあります。
この集団レベルの単位を国とした場合、その国の経済がいかに多様性に満ち洗練されているかを表しているとともに、それを支えているその国の生産的知識に多様性に満ち洗練されていることを表しています。つまり、この「経済複雑性」の考えによると、経済が高度に発展している国とは、買う能力のある国ではなくつくる能力のある国のことであり、それは誤解を恐れず言い換えるなら、多様で洗練された広義のものづくり能力を持つ国こそが“経済が多様性に満ち洗練されている国”であり、それこそが“真の経済大国”だといえるのではないでしょうか。
2. 世界で一番経済が多様性に満ち洗練されている国はどこ?
「経済複雑性」という考えを提唱し発展させることに貢献した学者、セザー・ヒダルゴ氏らが開発した「経済複雑性指標(Economic Complexity Index, ECI)」というものがあります。この「経済複雑性指標」で世界の国を比較した「経済の複雑性ランキング」というものがハーバード大学グロースラボより発表されています。
この「経済の複雑性ランキング」において1995年から2019年まで、日本が連続で世界一位を維持しつづけています。つまり、「経済複雑性指標」によるならば、1995年より世界で一番経済が多様性に満ち洗練されている国は日本なのです。
しかし、世界の国ランキングは多くあります。その中で日本が一位であるランキングを見つけて喜びましょうという趣旨で今回この「経済の複雑性ランキング」をご紹介したわけではありません。今回ご紹介した理由の一つとして、このランキング指標である「経済複雑性指標」が非常に優れているということをまず皆さまにお伝えしたいと思います。それは、この「経済複雑性指標」は現状を可視化するだけにとどまらず、将来の経済成長を予測するという点でも有用であるということです。
3. 「経済複雑性指標」はなぜ重要なのか
この「経済複雑性指標」が高いにもかかわらず、「経済複雑性指標」が同等レベルの他の国に比べて一人当たりのGDPが低い場合、その国は将来その他の国と同じ一人当たりのGDP水準に向かうということを、先述したセザー・ヒダルゴ氏は自身の著書で書かれている。その著書によると、この経済成長予測は10年から15年スパンという長期的な予測という点では、他の経済指標と比較し非常に正確に予測できているとのこと、つまり「経済複雑性指標」は、所得を生み出す経済の長期的な潜在能力を示しているというのです。
そして何よりこの指標が重要だと思えるのは、「経済複雑性指標」とは何かしらのアイデアを具現化する知識やノウハウを、その国という社会ネットワークが蓄積できているという証しであり、それはより複雑な社会的課題を解決するコンセプトにとどまらず、それを具現化する知的生産性能力があるということに他ならないのです。
日本は課題先進国でもあります。そしてこれからの時代、地球規模の環境問題などより複雑度の高い課題解決が求められています。SDGsのように、目標を共有するだけでそのような複雑系の課題が実際に解決されるわけではありません。それをどのように解決するかというアイデアだけで解決できるわけでもなく、実際に解決するために必要な多くの人たちが持つ知識やノウハウを結集し、具現化することで初めて社会的課題は解決されます。そう考えた場合、日本はそのような社会的課題を声高に発信し押し付けるのではなく、それを具体的に解決する国を目指すべきであると考えた場合、この「経済複雑性指標」というものがいかに重要であるか、感じていただけたのではないでしょうか。
日本という国としても、自国の経済、社会ネットワークの強みを表すこの指標を重要視し、その指標を高める経済発展に向けた戦略策定を行い、それに基づいた各種政策を立案・施行すべきであるといえるのではないでしょうか。何より社会的課題解決の主体者である日本製造業の経営者・ビジネスリーダーにとって何より重要な指標であると思い、本シリーズの記念すべき第一回記事でご紹介しました。
※文中の組織名や氏名、肩書きなどはすべて元記事掲載時のものです
(提供:Collaborative DX)
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