IoTプラットフォームとは?機能や製品の特徴を解説
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IoTとは「Internet of Things」の略で直訳すれば「モノのインターネット」です。IoTを活用するということは、モノからデータを収集し、そのデータを活用して暮らしや業務に役立てることを意味します。

では、モノにセンサーを取り付ければすぐにIoTが実現され、活用できるようになるのでしょうか。残念ながらセンサーが自らデータを収集して分析結果を示してくれるわけではありません。データを収集し、活用できるようにするためには、「IoTプラットフォーム」を活用するのが近道です。

目次

  1. IoTプラットフォームとは
  2. IoTプラットフォームが提供する機能
  3. IoTプラットフォームの分類
  4. IoTプラットフォームの選び方
  5. IoTプラットフォームの紹介
  6. IoTプラットフォームを活用するためには?

IoTプラットフォームとは

プラットフォーム(Platform)とは足場や土台を意味する英語で、コンピュータシステムにおいては動作する環境や基盤のことを指します。IoTプラットフォーム、つまりIoTの基盤と一口で言っても、人によってまたは文脈によってその示す範囲は様々で、ある時はソフトウェアであったり、またある時はシステム全体のことを指していたりします。

指し示す範囲は様々ですが、なぜIoTを活用するためにはプラットフォームが必要なのでしょうか。モノにセンサーを取り付けた後、そのデータを活用するためには、データを収集するためのプログラムを組んだり、収集したデータを蓄積するためのクラウドを用意したり、蓄積データを分析し可視化するためのツール開発が必要であったり、というシステム構築が必要です。

これらのシステム構築にゼロから取り組んでいたのでは時間もコストもかかってしまいます。そこでアプリケーション、セキュリティ、クラウドなど、それぞれの機能についてパッケージ化されているものを利用することにより、開発コストと時間を削減することが一般的です。「それぞれのパッケージ」または「すべてをまとめてパッケージ化されているもの」がいわゆる「IoTプラットフォーム」です。

IoTプラットフォームが提供する機能

IoTプラットフォームでは、IoTシステム開発のための様々な機能を提供しています。その中で代表的な機能をいくつか紹介します。

システム開発環境

アプリケーションを開発するために必要なソフトウェアなどの組み合わせで構成された開発者の作業環境。例えばコードを書くためのテキストエディタやプログラミング言語を処理するためのコンパイラ、プログラムの実行環境が含まれています。中には業界ごとのテンプレート機能やSDKと呼ばれるアプリケーション開発に必要なプログラムやドキュメントをパッケージ化したものを提供しているものもあります。

デバイスの管理

接続している複数のデバイスの状態を管理する機能を提供します。デバイスを登録したり、リアルタイムで監視したりすることができます。例えば工場内にある温度計や湿度計、カメラやマイク、設備機器に取り付けられているその他のセンサー、タブレットなどのハードウェアをクラウド上で一元管理することができます。

認証・セキュリティ

クラウド上でデータをやり取りする際にアクセスしてきたデバイスやユーザーを認証し、セキュアに通信する機能を提供します。IoTデバイスとクラウド間でデータのやり取りをする際にはオープンなネットワークを介することが多いため、外部からの不正アクセス、通信傍受、データの改ざん、なりすまし等の脅威に晒されており、セキュアな通信は非常に重要な機能となっています。

データの蓄積や連携

収集した大量のデータを蓄積するための機能、インターネットへの接続環境やクラウドサービスなどを提供します。データを第三者に連携するためのAPI (Application Programming Interface)を備えているものもあります。例えばiCloudやGoogle Driveはクラウド上にデータを保管・蓄積することができます。

データの分析や可視化

収集したデータをリアルタイムで表示したり、見やすい形に整形して表示したりする機能を提供します。オープンソースソフトウェアとして提供されているものが多く、他のオープンソースソフトウェアやクラウドサービスと連携してデータの分析や可視化を実現します。 このように、IoTプラットフォームが提供する機能は多岐に渡っています。 自前で開発すると時間やコストがかかってしまうものばかりですので、プラットフォームを利用するメリットが大きいでしょう。

IoTプラットフォームの分類

上記で説明したように、各プラットフォームで強みやカバーする範囲は様々です。矢野経済研究所は、産業用IoTプラットフォームをカバーする業種(水平方向の展開)と機能(垂直方向の展開)で4つに分類しました。

出典:(株)矢野経済研究所「デジタルイノベーション動向に関する法人アンケート調査(2017年)」2017年4月14日発表
(出典:(株)矢野経済研究所「デジタルイノベーション動向に関する法人アンケート調査(2017年)」2017年4月14日発表)

水平・業種フルカバレッジ型

水平方向に幅広い業種をカバーするIoTプラットフォームです。汎用性が高く、ユーザーやSIer(Systems Integrator:ITシステムのコンサルティングから設計、開発、導入までを行う会社)などがカスタマイズしてIoTシステム開発に利用することを主要コンセプトとしています。

垂直・機能フルカバレッジ型

開発・導入から応用アプリケーション、基礎アプリケーション、クラウド基盤、ネットワーク、センサー類まで、IoTソリューション構築に関わるすべてをカバーするIoTプラットフォームです。一つの業種に特化して全ての機能を提供するので、汎用性は低いです。

垂直・アプリ提供型

垂直・機能フルカバレッジ型から、開発・導入・運用支援を差し引いたIoTプラットフォームです。業種に特化したものです。

垂直・基本機能提供型

目的や機能を絞って提供されるIoTプラットフォームです。

例えば、工場の特定の設備機器を監視し異常を検知したい、というような場合には垂直・基本機能提供型を選択するのがよいですし、工場全体を管理したい、というのであれば垂直・アプリ提供型を選択するのがよいでしょう。また、垂直・機能フルカバレッジ型は全ての機能を含んでいるのでスピーディに業種に特化したIoTシステムを開発することができますが、その分導入コストがかかります。

また、垂直型のIoTプラットフォームは一つの業種に特化しているためカスタマイズが難しく、汎用性が低いという特徴がありますので必要に応じて水平・業種フルカバレッジ型をカスタマイズして利用するという選択肢もあるでしょう。このように、目的や予算に合わせたプラットフォームを選定する必要があります。

IoTプラットフォームの選び方

IoTプラットフォームを構築する際、どのような基準で選べばよいのでしょうか。失敗しないための3つの確認ポイントについて解説します。

コネクティビティ(接続性)

IoTプラットフォームを選ぶ際に不可欠な要素がコネクティビティ(接続性)です。デバイス間の通信やサーバ・クラウドへのデータ転送など、IoTプラットフォームは重要な役割を果たしています。

転送するデータによって通信方法も変わるので、自社の規模や環境に最適なものを選ぶ必要があります。大量のIoTデバイスが同時接続に対応できるか、接続は安定性が担保されているか、接続は簡単か、データ転送や通信に十分耐えられるか、クラウドや回線で障害が発生してもIoTデバイスを稼働し続けられるか、などのポイントを押さえてコネクティビティを確認しましょう。

セキュリティ(安全性)

IoTでは、インターネットに接続するデバイスが増えるほど、第三者による不正アクセス、悪意のあるデバイス操作、情報盗難といった脆弱性も高まります。

近年、IoTデバイスを狙ったサイバー攻撃が多発し、特に2016年頃、アメリカでマルウェア「Mirai」(ミライ)による史上最大規模のDDoS攻撃が著名です。その踏み台となったのが冷蔵庫やスマートスピーカーなどのIoTデバイスでした。

よってプラットフォームを選定する際は、自社の規模や環境に留意しつつ、デバイスと通信する時にデータが暗号化されるなど安全なプロトコルが使用されているか、デバイスのリモート管理やファームウェアのアップデートが可能か、制御システム脅威検知ソリューションを採用しているか、などを確認しましょう。また、映像などIoTデバイスで取得した個人情報を含むデータは、クラウド上へ返信するのではなく、デバイス側で解析して結果だけをクラウドへ送信するエッジコンピューティング対応しているかどうかも大切なチェックポイントです。

スケーラビリティ(拡張性)

IoTプラットフォームは、多数のIoTデバイスやセンサーを相互接続し、システムを稼働させるための動作環境を備えています。さまざまな種類のセンサーを組み込んだり、数千台~数万台規模のIoTデバイスを接続する予定がある場合は、なるべく拡張性の高いIoTプラットフォームを選びましょう。とくにIoTデバイスの接続台数が増えると、プラットフォーム側の処理能力が大幅に低下してしまう危険性があるので、処理能力を落とさずに対応できるかの確認は必須です。他に、データの管理方法や分析方法を変更したい場合の対応はどうか、IoTデバイスを増やす場合、セキュリティを保ったままシステムを拡張できるかをチェックすることも忘れずに。

IoTプラットフォームの紹介

IoTプラットフォームとは?機能や製品の特徴を解説
(画像=Munwar/stock.adobe.com)

様々な機能を提供するIoTプラットフォームですが、実際にどのようなものがあるのでしょうか。提供する企業ごとに強みやカバーする範囲が異なっていますので、いくつか具体例を紹介していきます。

ファナック「FIELD system」

例えば、産業用ロボットで有名なファナックでは独自のプラットフォーム「FIELD system」を開発しています。このプラットフォームはロボットや設備機械分野に強みを持っており、200社以上のパートナー企業を集めています。しかし、「FIELD system」はリアルタイムに工作機械の状況を把握するためにエッジ(工作機械側)での利用が想定されており、工場内の様々なメーカーの機械同士を横につなぐためには他企業のプラットフォームを利用する必要があります。

PTC「ThingWorx」

PTCが提供する「ThingWorx」は産業用のIoTプラットフォームです。PTCはもともとCADやPLM(Product Life cycle Management/製品ライフサイクル管理:製品の企画、設計、開発、製造、販売、廃棄に渡る製品のライフサイクルにおける全ての情報を一元管理すること)などのソフトウェアを提供していましたが、様々なサービスを買収したため豊富な機能のラインナップを揃えています。例えば、プログラミングすることなくドラッグ&ドロップでIoTアプリケーションを開発することができる「ThingWorx foundation」や、AR(Augmented Reality/拡張現実:実際の風景とバーチャルの風景を重ねて表示する技術)機能を提供する「Vuforia Studio」などのサービスがあります。

AWS 「AWS IoT」

Amazonが提供するIoTプラットフォーム「AWS IoT」はAWS経由でIoTデバイスと接続、連携することができるサービスです。ゲートウェイ(クラウド内のプライベート空間とインターネットを接続するためのコンポーネント)、認証機能、デバイスの管理機能などを提供しています。インターネットを経由してデータを送受信する際に、高いセキュリティが確保されていることが強みとなっています。他のAWSのサービス、例えばS3(ストレージ)やDynamoDB(データベース)、Kinesis(データを収集、処理、分析するサービス)と統合されているため、これひとつでIoTソリューションとして完結することができます。

Microsoft「Azure IoT」

Microsoftの産業用向けクラウド型IoT管理サービス「Azure IoT」は、自社でIoTに関するシステムを構築する必要がなく、保有するすべてのIoTデバイスと接続してその全体を監視・制御することが可能です。例えば「リモート監視機能」は、IoTデバイスのデータ監視に利用でき、エレベーターの速度計やダムの水位など、組織の重要な情報を定期的に抽出。異常が発生した場合、管理者に知らせることもできます。また、「Azure IoT」は脆弱性を最小化するシステムソリューションを多数備えているため、デバイスのセキュリティを強化し、脅威を監視・排除。これらはAIで自動化されているため、顧客はセキュリティに時間を費やす必要がありません。時間の効率化やコスト削減、人的ミスの防止など数多くのメリットを享受できます。

IBM「Watson IoT platform」

IBMが開発した「Watson IoT Platform」は、やはりIBM製の質問応答システムWatsonをベースにしたIoTプラットフォームです。増え続けるデバイスやセンサーからデータを活用するアプリを提供し、企業のシステム開発に貢献します。機能面では、MQTT(Message Queuing Telemetry Transport/リソースに制約のあるデバイスや低帯域幅、高遅延、または信頼性の低いネットワーク向けに設計された、軽量でパブリッシュ・サブスクライブに基づくメッセージングプロトコル)を用いたデバイス接続と管理、ダッシュボードでのデータ分析と、IoT構築に必要な内容を網羅。また、IBM Cloudの安全性が高いリアルタイム及びREST APIを使用するため、安全面を重視する組織にとって利用価値が高いIoTプラットフォームと言えるでしょう。

NTTコミュニケーションズ「Things Cloud」

NTTコミュニケーションズが提供する「Things Cloud」は、2020年フロスト&サリバンアジア太平洋地域ベストプラクティスアワードを受賞したIoTプラットフォームです。その特長は、スケーラビリティ(拡張性)を備えている点。基本要件の搭載はもちろん、初期段階から本格的なビジネス運用まで一気通貫で実現します。デバイスの接続から可視化まで、全てGUI(Graphical User Interface /ユーザーの使いやすさを重視し、アイコンなどで直感的にわかりやすくコンピューターに指令を出せるようにしたユーザーインターフェース)操作で完結するため、特別なITスキルが不要な点もメリットとして挙げられます。業態に関わらず、さまざまな企業が導入しやすい製品と言えるでしょう。

日立製作所「Lumada」

日立製作所が展開するIoTプラットフォーム「Lumada」は、人工知能やアナリティクス、ロボティクス、セキュリティといった日立が培ってきたさまざまな技術を活用して、業務の効率化や経営課題解決、新ビジネスの創生までを支援します。社会が生み出すデータ速度に対応し、ビジネスにつなげられるデータ活用法を伝授するので、その時代のトレンドに合ったビジネス展開のサポートを得られるのが魅力だと言えるでしょう。また、多岐にわたる知見は、業種や業務に関わらず、顧客にとって最適の仕組みを構築することができ、IoTソリューションの構築をすべて任せてビジネスを成長させる体制を作りたいという企業に向いています。

IoTプラットフォームを活用するためには?

これまで述べてきたように、IoTプラットフォームと一言でいってもカバーする業種や提供する機能は非常に多岐に渡っています。

自社のIoTシステム開発にプラットフォームの利用を検討する際には、そもそもプラットフォームが必要なのか、どのような機能が必要なのか、どの程度の規模のものが必要なのか、コストはどの程度かけられるのか、などを考慮しなければなりません。

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