AIによって可能になる業務効率とは?
(画像=wladimir1804/stock.adobe.com)

ChatGPTの登場によって、業務効率化を実現するための手段として、AI(Artificial Intelligence/人工知能)に注目が集まっています。IDC Japanが2022年に発表したレポートによると、AIシステムを業務利用しているユーザー企業の割合が、2019年と比較すると17.5%上昇しています。業務利用でもっとも多いのは、「品質管理」でついで「ITオートメーション」となっています。

今後、さらに企業のAI導入が爆発的に増加することが予想されますが、一方で、「AIを活用することで具体的にどのような業務を効率化できるのか、いまいちイメージが湧かない…」という方もいらっしゃるのではないでしょうか?

そこで、本コラムではAIと人間の協働関係や、AIを活用することで効率化を期待できる5つの業務を紹介していきます。

目次

  1. AIと人間が共存・補完関係になる
  2. 業務効率化に期待!AIを活用した5つの業務
  3. 工場や製造現場
  4. ChatGPTも製造業に!時代の変化に対応することが重要
  5. まとめ

AIと人間が共存・補完関係になる

AIのビジネス活用が進むと、「AIによって仕事が奪われる」「AIで仕事がなくなる」という話題が注目されますが、実際はどうでしょう? 近年のデータをもとに解説しますが、「奪われる」よりどのように「協働・共存」するか、が大きなテーマとなりそうです。

AIが代替可能な仕事はどのくらい?

少子高齢化により労働人口減少が叫ばれる日本では、グローバル競争に勝ち抜くには、AIの導入による生産性向上はもちろん、AI活用によってより付加価値の高い商品やサービスの開発を実現しなくてはいけません。

2015年に発表されたオズボーン研究では、日本の労働人口の約49%がAIやロボットによって代替可能と報告され、大きな話題となりました。しかし、さらに技術が進化した現在、アメリカのコーネル大学が「ChatGPTがアメリカ労働市場に及ぼす影響」という論文を2023年4月に発表。

同論文によると、約80%の労働者の少なくとも約10%の業務に影響があり、約19%の労働者の少なくとも約50%の業務に影響があると予想されています。この論文はChatGPTだけの影響ですので、その他のAIの影響を考慮するともっとこの割合は大きくなるでしょう。

またゴールドマンサックスが2023年3月に発表したレポートでは、アメリカとヨーロッパの3分の2の仕事が自動化される可能性があり、AIによって世界のGDPは約7%向上するとされています。

AIと人間の協働・補完関係の構築が肝心

AIと人間の協業のイメージ

AIの業務利用は世界的に爆発的に増加していくことが予想されますが、「AIによって仕事が奪われる」のではなく、「AIと共存しながらどうやって競争優位を確立するか」という視点が非常に重要になります。

AIにも得意な領域と不得意な領域があります。例えば、膨大なデータの収集や分析などはA人間よりはるかに効率よく正確に業務を進めることができます。しかし、創造的思考や非定型業務などは人間の方が得意とされています。今後、AIと人間の業務領域が徐々に変化していくなかで、人間がもっとも価値を発揮できる業務と必要になるスキルを特定することで、AIと人間が協働・共存が可能になり、より高い生産性を発揮できると考えられます。

業務効率化に期待!AIを活用した5つの業務

AIが可能な領域ではすでに成功事例が多く存在します。代表的なAIによる業務効率の事例を解説します。

問い合わせ応対業務

Webサイトやスマートフォン向けアプリに問い合わせ用に、チャット機能を導入して業務効率化を図る企業が増えています。電話とは異なり、チャットであれば1人のオペレーターが同時に複数の顧客を相手に応対できるからです。

さらに、AIチャットボットの登場によって、問い合わせ応対業務をより一層効率化できる可能性が出てきました。AIチャットボットは、学習データや実際の問い合わせ応対を通じて学習を重ねることで顧客からの問い合わせに対して適切かつ自然な回答を自動的に導き出せるようになります。そのため、オペレーターが行っているチャットでの問い合わせ応対業務の一部あるいは全部の自動化を期待できます。

また、電話での問い合わせ応対業務の自動化も現実味を帯びつつあります。たとえば、NTTコミュニケーションズ社の「コンタクトセンターDXソリューション」は、AIが電話口の顧客の音声から用件を分析し、データベースから最適な回答を検索して合成音声で回答するという製品です。このような製品を導入すれば、電話での問い合わせ応対業務についても一部あるいは全部の自動化を期待できるでしょう。

営業業務の効率化

「足で稼げ」という旧態依然とした営業スタイルが根強い日本において、最近ではそこからの脱却を目指す国内企業が増えています。

たとえば、SFA(Sales Force Automation/営業支援)システムやCRM(Customer Relationship Management/顧客関係管理)システムを導入して様々なデータを収集・分析したうえで、確度の高い見込み客への営業リソースの集中や、より効果的な営業プロセスの発見に取り組んでいる企業が少なくありません。

そして、営業業務はAIを活用することでより一層効率化できる可能性があります。実際に、成約確度の高い見込み客の抽出や、顧客ごとの営業担当者や商談スケジュールの割り当て、営業担当者ごと/チーム全体の売上の予測、顧客ごとのLTV(Life Time Value)の算出、メール・Webサイトでのコミュニケーションといった広範な業務をAIによって自動化可能なSFAシステムやCRMシステムが登場しています。

世界的なSFAシステムベンダーであるSalesforce社のAIプラットフォーム「Salesforce Einstein」は、その代表例と言えるでしょう。「Salesforce Einstein」は、同社のSFA・CRMシステムである「Sales Cloud」をはじめとする同社製品に追加可能なAIプラットフォームとなっています。

人事業務

人事業務は、まさに人と人との関係性が肝となる業務です。そのため、AIによって効率化できるというイメージをお持ちの方は少ないのではないでしょうか?

しかし、人事に関してもAIを活用することで業務効率化できる可能性があります。すでに、採用や異動、離職防止といった人事の業務効率化を目的としたAI製品も登場しています。そして、AIを含む様々な技術を駆使した人事業務向けのITシステムはHR(Human Resources)テクノロジーと呼ばれており、このところ特に注目されています。

NECソリューションイノベータ社の「HRテッククラウド」も、HRテクノロジー製品の1つです。「HRテッククラウド」は、AIが従業員のスキルや勤怠などのデータを分析し、空席となっているポジションに適した人材や、離職する可能性のある人材に関する情報を人事担当者に提供するという製品です。このような製品を活用すれば、プロジェクト立ち上げや体制変更、離職者の発生などにより人事異動が必要となった際に、適切な人材を速やかに充てることができるようになります。また、離職する可能性の高い人材に絞って重点的なフォローを行うことも可能となるでしょう。

また採用においても母集団形成や書類選考などの初期段階では、AIによる業務効率化が実現しています。既存社員の適性検査の傾向などのデータを採用時に結合することで、より精度の高い採用工程を踏むことが可能になり、今後は表情や話し方などから採用候補者の本質的な部分も浮き彫りにできます。

倉庫での出入庫管理業務

「当日配送」や「翌日配送」が当たり前となった今日、通信販売事業者や物流事業者にとって、倉庫での出入庫管理業務の効率化により商品到着までのリードタイムを短縮することは非常に重要です。実際、これらの事業者はWMS(Warehouse Management System=倉庫管理システム)やRFID(Radio Frequency Identifier)などを用いて業務効率化を図っています。

そして、倉庫業務はAIを活用することでさらに効率化できる可能性があります。すでに製品化されているところでは、日立製作所社がAIを活用した「Hitachi AI Technology/倉庫業務効率化サービス」を開発しています。これはWMSや基幹システムなどのデータを同社のAIプラットフォーム「Hitachi AI Technology/H」が分析・学習することで、業務効率化に向けた施策を提案するというものです。具体的には、業務効率化を期待できる在庫の配置案と、具体的な配置替え作業リストを生成します。

そのほか、商品出荷の業務効率化を目的としたAI製品も登場しています。シンガポールに本社を置くGreyOrange(グレイオレンジ)社が開発した「Butler(バトラー)」は、倉庫内において出荷指示が発生した商品が収納された棚の下に潜り込み、棚ごと持ち上げてスタッフのもとに運ぶ自動搬送ロボットです。そして、「Butler」は単に棚を自動運搬するだけではありません。自動搬送を繰り返すなかで季節ごとの出荷頻度や売れ筋商品を学習し、自ら棚の配置を最適化します。さらに、売れ筋商品は商品出荷担当者がピッキングしやすい胸の高さ付近に自動配置します。

工場や製造現場

製造業はIoTとAIを活用したスマートファクトリーの実現などさまざまな事例が生まれています。自動機の標準部品、金型部品、生産関連部品の製造・販売をおこなう株式会社ミスミが提供する機械部品調達のAIプラットフォーム「meviy」はDXを実現した良い例です(2023年には「ものづくり 日本大賞 総理大臣賞」を受賞)。

これまでは注文を受けた部品の見積もりから出荷までは通常数週間程度の期間が必要でしたが、「meviy」実装後は、顧客が3DCADデータをアップロードするだけで、最短1分の即時の見積もり、最短1日の出荷を可能にしています。注文があるとAIが即座にミスミ社の工場とデジタル連携をして、見積もりと製造日数を算出。工場では自動加工が始まる仕組みとなっています。

3DCADデータをアップロードすると、寸法、穴、幾何公差指示、板金加工、切削加工や素材の選択も可能となっており、最小1点から注文できます。またソフトのインストールも不要で、無料の会員登録さえすればブラウザ上で365日24時間注文が可能となっています。

まさにカスタマーの課題と購買体験そのものを大きく変革し、製造業のリードタイムとコストの大幅削減に貢献しています。

ChatGPTも製造業に!時代の変化に対応することが重要

ChatGPTは製造業でも徐々に活用され始めています。データ収集や分析、故障の予知、検品などではなく、工作・加工分野、マニュアル作成などで利用されているようです。

そもそもChatGPTは人間と同じように会話が可能なテキスト生成AIです。そのためCAM(コンピューター支援製造)などのプログラミング生成、IoT機器やロボティクスへの的確な指示などの効率化に貢献しています。今後は、デジタル分野での製品開発や動作確認などにも活用の幅が広がっていくことは容易に予測できます。またマニュアルやドキュメントの作成はChacGPTの得意分野となります。

まとめ

このように、AIは様々な業務効率化を実現できる可能性を秘めています。そして、今回ご紹介したようにすでに業務効率化を目的としたAI製品が数多く登場しています。

非常に便利なAIではありますが、重要なのは、得意領域と不得意領域が存在するため、人間とAIをどのように協働・共存するかの視点となります。また企業にとって強みとなるコアケイパビリティなど自社の強みをAI導入でどのように伸ばしていくかというビジョンも定める必要があるでしょう。

デジタル技術の進化によって、業務プロセスやビジネスモデルの変化が求められる中で、従業員に求めるスキルや知識も変化していきます。常にスピーディで小サイクルのPDCAを繰り返すことで、日進月歩のAIの最適な導入方法のヒントも見つかるでしょう。

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