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【CEO対談】製造業のDXを成功させる3つの勘所 カギを握る存在「デジタル・ラインビルダー」とは

対談
2021-04-30

コロナ禍でデジタルトランスフォーメーション(DX)の重要性を痛感し、取り組みを加速させる製造業が増えている。その一方で、当初目指したゴールまで到達できずに、次第にトーンダウンしていく企業も少なくない。「PoC(Proof of Concept:概念実証)疲れ」「PoC止まり」といった言葉もたびたび耳にする。では、製造業のDXプロジェクトはどうすれば成功させることができるのか。その勘所とは──。DXを総合的、長期的にサポートしているコアコンセプト・テクノロジーの金子 武史氏と、この分野のエバンジェリストとして活躍する福本勲氏に話を聞いた。

不確実性に弱い日本企業の意思決定プロセス

――日本企業のDXに向けた取り組みをどのように見ていますか。

福本: まだ既存ビジネスの効率化やコスト削減を目的とするデジタル活用が多いように感じます。DXは既存の延長というより、自社の立ち位置、提供価値、ビジネスモデルの変革を伴うものです。もっと未来志向やパ-パス(存在意義)の観点で考える必要がありそうです。

金子: DXプロジェクトを始めて3~4年が経ち、混迷状態に陥っているお客様からのご相談を最近よく受けます。その様子を見ていると、DXを推進する際に3つの壁があると感じています。

1つ目は、投資対効果の壁です。DXプロジェクトは、事前に投資対効果の試算が難しい場合も多い。ただ、日本企業は合議制で意思決定することが多く、投資対効果が明確に算出できない不確実性の高いテーマは決断しにくい。それがDX推進の壁になっています。

2つ目は人材の壁。現場のビジネスとIT、両方に精通した人材の不足です。分かりやすいのが、私たちもご支援することが多い製造業のスマートファクトリー実現に向けた取り組みです。

一般的に工場のスマート化は、モノづくり業務と生産設備、そしてIoTやAIおよびSIなどのデジタルに関する知見と、それらを融合させるための設計力が必要になります。日本の場合は、業務設計はコンサルティング会社が描くが、設備設計は設備メーカー、そして、デジタルに関する設計はSIerが担うなど、役割が分散しています。その結果、ユーザー企業も合わせると4社の合議体プロジェクトとなり、何かを決めたり、進めたりする度に話し合いや擦り合わせや必要で時間がかかる上、全員が一体となって動きづらいのです。

そして、3つ目は反対勢力の壁。DXプロジェクトには試行錯誤が付き物。成果が出るのに時間がかかります。すると、既存事業のステークホルダーから成果の不透明さに対する疑念の声が出てきて、DXの機運が削がれてしまうのです。

福本: 1つ目と3つ目は、社内の問題ですが、2つ目の壁は社会全体の課題でもありますね。欧米ではユーザー企業自身が積極的にIT人材を採用していますが、日本ではIT人材の多くがユーザー企業ではなくITベンダーに所属しており、構造としてビジネスとITの連携が難しい。そこに加えて、支援する側も役割が分散してしまうのですから、スピードなどの面で大きな不利があります。

業務、設備、デジタルの間をつなぐデジタル・ラインビルダー

――特に製造業が、それらの壁を乗り越え、DXを成功させるには、どうすればよいのでしょうか。

金子: 「映像で知覚に訴える」「デジタル・ラインビルダーの存在」「アジャイル的なアプローチ」という3つの勘所を抑えたDXプロジェクトの推進が重要です。

まず、「映像で知覚に訴える」は投資対効果の壁を越えるための勘所です。先ほど述べたように DXプロジェクトでは、投資対効果の厳密な試算が困難な場面が多々あります。しかし、ときにはリスクを取らなければ、変革の機会は得られません。では、何をもって合意形成を図るのか。目指す姿、すなわちゴールです。しかも、それを画像や映像といった視覚表現も積極的に用いて、なぜこの取り組みが必要なのかを知覚に訴えるのです。これなら、共有するゴールにずれが生じないし、合意形成がしやすくなります。

福本: PoCはコンセプトが実現可能かどうかを見極めるためのものですが、最終的なゴールや全体像を描かないまま行うと、より広範な取り組みに発展させる次のプロセスにもつなげにくくなります。例えば製造業では、どの工場のどの工程でPoCに取り組むべきかという思考に陥るケースがあります。しかし、これではモノづくりに限定した部分最適化だけを目指す活動にとどまってしまいます。先に目指す姿を明確にし、共有しておくことはPoCの取り組みにも影響を与えると思います。

金子: 次の「デジタル・ラインビルダーの存在」は、人材の壁を克服するための重要な存在です。欧米では、工場のスマート化を進める際、業務、設備、そして、デジタルを熟知しているラインビルダーと呼ばれる企業が活躍しています。ドイツのシーメンスのような企業です。ラインビルダーが全体設計を行い、ユーザー企業の現場と生産技術やIT部門、そして経営層の間をつなぎながら、一体となって改革に取り組みます。

福本: コアコンセプト・テクノロジーは、そのラインビルダーの役割を期待されたり、担ったりしていることが多いですね。

金子: ありがとうございます。もともと私たちのメンバーには、製造業出身のメンバーが多数います。彼らを中心にモノづくりの現場や設備に関する知見を蓄積し、それらを熟知したITベンダーとして「デジタル・ラインビルダー」を標榜。お客様のDXプロジェクトの中で、積極的にラインビルダーの役割を果たしています。

アジャイル的アプローチで進捗の共有を図る

──3つ目の勘所である「アジャイル的なアプローチ」についてお聞かせください。

金子: DXプロジェクトが始動したが、進捗が見えてこない。これでは、不安に思う人が出てくるのも仕方ありません。そうではなく、アジャイル的なアプローチでプロジェクトを進め、成果を段階的に積み上げながら、進捗を広く共有する。そうすることで、既存事業の関係者などが反対勢力に回ってしまうような事態を防ぎます。新規事業と既存事業とが良好な関係にあれば、2つの事業のコラボレーションを、さらなる価値の創出につなげることも可能になります。

福本: 今後、ますます業種の壁はなくなり、デジタル化や自動化が進むことで、ビジネスも変わっていきます。例えば、自動運転が高度化すれば、ユーザーはクルマの運転性能ではなく、目的地に着くまでの時間をどう快適に過ごすかを重視するようになるでしょう。この新しいテーマに立ち向かうには、新事業と既存事業の双方の協力が必要不可欠です。

──今後の展望をお聞かせください。

金子: 私は、製造業のDXは「Atom」→「Bit」→「Cluster」→「Decision」のABCDモデルに集約できると考えています。モノづくりの現場で起こっていること(Atom)は、デジタルデータに変換した上で(Bit)、意味のある単位のビッグデータとして集積し(Cluster)、その集積データを可視化あるいは制御することでビジネス意思決定に生かす(Decision)。コアコンセプト・テクノロジーは、これを実現するIoT/AIソリューションパッケージ「Orizuru」を持っていますが、今後もABCDモデルに関するノウハウや技術力を磨き、製造業のお客様のDXに貢献していきます。

また、DXは企業だけでなく、社会全体のテーマでもあります。よりよい社会の実現に貢献すること、そのための人材を輩出することも私たちに課されたミッションの1つと捉え、様々なプロジェクトに積極的に参画していきます。

※こちらの記事は2021年3月~4月に日経クロステックにて掲載された内容となっております

Profile

株式会社東芝 デジタルイノベーションテクノロジーセンター チーフエバンジェリスト 福本 勲氏
中小企業診断士、PMP(Project Management Professional)
1990年 早稲田大学大学院修士課程(機械工学)修了。同年に東芝に入社後、製造業向けSCM、ERP、CRMなどのソリューション事業立ち上げやマーケティングに携わり、現在はインダストリアルIoT、デジタル事業の企画・マーケティング・エバンジェリスト活動などを担うとともに、オウンドメディア「DiGiTAL CONVENTiON」の編集長をつとめる。 また、企業のデジタル化(DX)の支援/推進を行う株式会社コアコンセプト・テクノロジー、国内トップシェアの帳票・BIソフトウェアベンダーであるウイングアーク1st株式会社のアドバイザーもつとめている。 主な著書に『デジタル・プラットフォーム解体新書』、『デジタルファースト・ソサエティ』(いずれも共著)がある。 主なWebコラム連載に、ビジネス+IT(SBクリエイティブ)の『第4次産業革命のビジネス実務論』がある。 その他Webコラムなどの執筆や講演など多数。 (2021年4月現在)
会社名 株式会社東芝
URLhttps://www.global.toshiba/jp/top.html

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