ダイナミックケイパビリティとは?組織変革の方法とその事例
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インターネット社会になり、コロナ禍を経て、DXが進行する中、現代における企業の経営環境は恐るべき勢いで変化しています。多くの企業ではこれらの変化に対応するために何か新しい方法をとることが求められ、その方法を模索しているのではないでしょうか。

そこで注目を集めている言葉が「ダイナミックケイパビリティ」です。本記事では、ダイナミックケイパビリティとはなにかを解説し、その重要性が高まっている理由、背景となる理論、成功事例に迫ります。また、ダイナミックケイパビリティを実現するために必要なDXについても解説し、組織を変革させる方法とは何かを考えていきます。

目次

  1. ダイナミックケイパビリティとは何か?
  2. ダイナミックケイパビリティの重要性が高まっている理由
  3. ダイナミックケイパビリティの背景となる理論
  4. ダイナミックケイパビリティの構成要素
  5. ダイナミックケイパビリティを実現するためのDX
  6. ダイナミックケイパビリティの事例
  7. ダイナミックケイパビリティを推進する上での課題
  8. ダイナミックケイパビリティを推進する方法

ダイナミックケイパビリティとは何か?

ダイナミックケイパビリティとは、企業が経営環境の変化を察知してそれに適応し、競争上優位に立てるよう組織内を再構築できる能力を指します。

この概念はカリフォルニア大学教授で経済学者のデイヴィッド・J・ティース氏(David J. Teece)によって提唱されました。日本では経済産業省・厚生労働省・文部科学省が共同で「ものづくり白書2020」を発表し、その中でとりあげられています。

「ものづくり白書2020」のなかでは、『世界の不確実性が急激に高まっている時代において、製造業の在り方を考える上で、このダイナミック・ケイパビリティ論は多くの示唆を与えてくれるだろう。』と述べられており、製造業を中心に注目されている言葉なのです。

オーディナリケイパビリティとの違い

図1.オーディナリケイパビリティとダイナミックケイパビリティの違い

オーディナリケイパビリティダイナミックケイパビリティ
経営資源の取り扱い適切に配置して効率的に運用する再構築をする
活動内容正しく行わせるあるべき姿に変化する

ダイナミックケイパビリティに対応する言葉として、オーディナリケイパビリティがあります。ダイナミックケイパビリティとオーディナリケイパビリティは、経営資源の使い方と、「何をどのように変化させるのか」という点で違いがあります。

オーディナリケイパビリティは、すでにある自社の現状をさらに発展させるためにヒト・モノ・カネ・情報といった経営資源を適切に配置しなおし、効率的に運用しようとするものです。

一方で、ダイナミックケイパビリティは、急激な環境変化に適応することを目的としています。このためには経営資源を適切に配置しなおすというより、再構築が必要であるとの考え方です。

オーディナリケイパビリティのオーディナリとは、「普通の」という意味です。そのため、どの企業でも行う「物事を正しく行わせる」という普通の改善能力だといえるでしょう。一方、ダイナミックケイパビリティのダイナミックとは「動的な」という意味であり、環境の変化に適応しようとして「あるべき姿に変化する」という、改善ではなく変革する能力を指しています。

ダイナミックケイパビリティの重要性が高まっている理由

現代社会における企業経営は以下のような事象に翻弄されつつあります。

・不確実性の時代:感染症の流行、戦争、自然災害などによりビジネス環境は大きく影響を受ける
・グローバル化:新興国の著しい経済発展やグローバル企業による世界戦略も大きな影響を及ぼす
・技術革新:IoT機器や携帯端末の急速な普及によって情報の量と流れは大きく変化し、次々と新しいビジネスが生まれ、古いビジネスは衰退していく
・働き方改革:上記のような理由によって、リモートワークや副業など人々の働き方も大きく変化してきた

これらの急激な環境変化に対応するために、企業には変革する能力、すなわちダイナミックケイパビリティが求められます。柔軟性や創造性を発揮し、変化の先を読んで未来に即した対策を講じることが競争優位に立つためには必要であるとされているのです。

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ダイナミックケイパビリティの背景となる理論

ダイナミックケイパビリティとは?組織変革の方法とその事例
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ダイナミックケイパビリティは、企業が有利なポジションを獲得するため、競争力を評価する2つの理論から生まれています。どちらも企業がライバルより優位に立つ方法について論じています。ここでは、ダイナミックケイパビリティの背景となった理論を紹介します。

競争戦略論

競争戦略論は、自社が戦っている市場の中で競争優位性を発揮できるポジションを発見するための理論です。そのポジションを発見するにはファイブフォースという、以下の5つの力を評価することで分析します。

・新規参入企業の脅威
・売り手の交渉力
・買い手の交渉力
・代替品の脅威
・既存企業同士の競争

競争戦略論は、その企業が競争する市場の中におけるポジション分析であり、「自社の戦略は市場の影響を受ける」という考え方があります。この考え方で行くとコスト的に優位に立つか、差別化をするか、という2つの方法論に流れがちであり、環境の急激な変化に対応できる理論ではないとの見方が出てきました。こうした競争戦略論の批判を受けて登場したのが、次に紹介する資源ベース理論です。

資源ベース理論

資源ベース理論は、企業の競争優位性を解明するための理論です。この理論は企業固有の経営資源の質の違いが、競合他社との差別化や持続可能な競争優位性の源泉との考えに立脚しています。

資源ベース理論は、経営資源の質(強味・弱み)を評価するのに「VRIO」と呼ばれる切り口を用います。VRIOとは次の4つの事柄の頭文字を合わせた言葉です。

・Value(経済的価値)
・Rarity(希少性)
・Imitability(模倣困難性)
・Organization(組織)

簡単に説明すると、企業が所有する経営資源を上記4つの切り口で評価して、他社が容易に追いついたり、模倣したりできない組織やノウハウや設備を持っているならば、競争優位性があるとして評価できるというものです。

ただ、企業固有の経営資源だけに注目していても、市場が変化した時それらが価値を失うことが指摘され、ダイナミックケイパビリティの登場につながっていきます。

ダイナミックケイパビリティの構成要素

ダイナミックケイパビリティとは、「競争上優位に立てるよう組織内を再構築できる能力」であることを説明しました。その能力にはどのような要素があるのでしょうか。ここではダイナミックケイパビリティという能力を構成する3つの要素について説明します。

図2.ダイナミックケイパビリティの3要素

ダイナミックケイパビリティの3要素

Sensing(センシング:感知)

センシングは、企業が環境や市場の変化を感知する要素を指します。顧客のニーズ、同業他社の動向、社会情勢などから自社を取り巻く経営環境の変化をいち早く感知できるかどうかです。

センシングの要素を備えた企業は、市場のニーズや業界の動き、社会のトレンドに対して敏感になるでしょう。これは、技術の進展に迅速に対応できる可能性を示唆します。そればかりではなく、収集した情報を分析し、将来の方向性を見据えて戦略を形成する能力も備えることとなるでしょう。

組織がセンシングの要素を備えるには、情報共有や分析能力の向上が欠かせません。予測不可能な現代社会において、センシングは企業が変化に適応し、新たな機会をいち早く把握するための要素として重要であるといえます。

Seizing(シージング:捕捉)

シージングとは、感知した変化に対応して再構築する機会を捉える要素です。変革するチャンスを捉えてヒト、モノ、カネ、情報(経営資源)を再構成、再利用できるかどうかです。

例えばコロナ禍では、対人接触が制限される事態が生じ、直接対面での会合や営業ができなくなりました。このような変化に対応した再構築はどのようなものだったでしょうか。オンラインでの会議や在宅勤務などビジネスの在り方が大きく変わったはずです。

このように、環境の変化に対応した変革を素早くできるかが、市場における優位性を確立してニーズに対応することを可能にします。シージングの成功には、組織内の情報共有や意思決定の迅速性、リーダーシップの決断力が欠かせません。

Transforming(トランスフォーミング:変革)

トランスフォーミングは、企業が環境変化に適応するために組織内部を変革し、新しい価値を創造する要素を指します。変化を組織に定着させ、組織全体が変革できるかどうかです。

変化の機会を捉えたら、それを組織的に展開できるようにしなければ、部分的な変化にとどまってしまいます。変化とは、未知の新しい技術の導入であったり、革新的な戦略であったり、ターゲットの変更であったりするかもしれません。主力商品ですら180度転換する場合もあり得ます。

たとえその企業にとって受け入れ難いような変化であっても、必要ならば受け入れて組織ごと変革できるかどうかがトランスフォーミングのカギになります。

ダイナミックケイパビリティを実現するためのDX

ダイナミックケイパビリティを発揮して、変化の激しい世の中に対応していくにはDXが不可欠だといえます。製造業の現場では、センサーやIoTデバイスを活用して、リアルタイムで生産データを収集・分析することで、工場の稼働率が向上し、不良品の発生も少なくなって生産効率が上がります。

同時に、クラウドベースの生産管理システムは、製品の在庫状況や需要予測を的確に把握する手助けとなります。全国での離れた工場の間であっても、サプライチェーン間であっても生産量をお互いに調整することができるようになりました。

このようなDXによって世の中の急激な環境変化による需要変動に迅速に対応し、在庫を最適化することができ、結果として効率が向上することによって競争で優位に立てるようになるのです。DXは製造業においてダイナミックケイパビリティを発揮するのに欠かせない要素です。

※ 出典:2023年版ものづくり白書(経済産業省)
https://www.meti.go.jp/report/whitepaper/mono/2023/pdf/all.pdf

ダイナミックケイパビリティの事例

ここから、製造業においてダイナミックケイパビリティが発揮された事例を紹介していきます。いずれも、デジタル化の進展による需要の変動やコロナ禍によるサプライチェーン継続の危機など、環境の変化に対応しています。企業としての変革能力はどのように発揮されていったのかを知るための好事例です。

富士フイルム

1990年頃からカメラはデジタル化していき、既存の写真フィルムの需要は大きく落ち込んでいきました。富士フイルムは写真フィルム業界で大きなシェアを持ち世界的な企業にまでなっていましたが、経営は急激に危機的状況に陥っていきました。

この変化に対し、同社はダイナミックケイパビリティを十分に発揮したといえます。単年度の利益や株主の価値に重きを置かず、生き残っていくために、自らの経営資源を徹底的に再利用しようと、保有資金をつぎ込んでいったのです。

持っていた写真フィルム技術は、これから必要となる液晶ディスプレイを保護するための特殊な保護フィルム技術へ、写真フィルムの乾燥を抑えるためのコラーゲン関連の技術は化粧品へと応用され、いずれも現在では市場で確固たる地位を形成しています。

また、医療分野への進出もその一環です。同社は医療画像診断機器や医療情報システムの分野でデジタル技術を駆使しており、医療機器業界でも注目される存在です。

DMG森精機・ファナック

DMG森精機、ファナックは、DMG森精機の施設内に5G通信環境を活用した既存の生産ラインの組み換えや制御を可能にするダイナミック生産パイロットラインを整備し、研究開発事業に取り組んでいます。

これは、工場内の生産設備を一括制御するIoT基盤と多能工自走ロボット(AGV)が連動するもので、メインのライン設備が故障した場合でも即時に別のラインに生産を移行できる仕組みです。

多能工自走ロボットは代替設備に移行した場合でも補完できるよう様々なアプリケーションを搭載しており、トラブルの内容や代替設備の性能に応じた柔軟な対応が可能になっています。これは業種や工場規模にかかわらず、既存の設備のまま導入できるので、普及が期待できます。

工場内のトラブル対処は、経験値を持った多能工が必要ですが、昨今の人材不足に対応するダイナミックケイパビリティとして位置付けられる事例です。

ダイナミックケイパビリティを推進する上での課題

ダイナミックケイパビリティは、変化の激しい現代を生き残るためにぜひ身につけ推進していきたいものです。ただし、これまで解説してきたように誰にでも簡単にできるようなものではありません。ここではダイナミックケイパビリティを推進する上の課題をまとめてみました。

トレンドの把握

前段で紹介したように、ダイナミックケイパビリティを構成する要素の一つにSensing(センシング:感知)があります。世界、日本、地域の変化や市場の動向をいち早く感知できるかどうかです。

新聞やネットニュース、勉強会、講演会などでの知識習得は欠かせませんし、ビジネスマンや経営者の多くは進んで情報の取得に励んでいることでしょう。しかし、社会や市場の変化を読み取ることは勉強しているだけでできることではなく、思った以上に困難です。メディアが騒ぎ出してから着手していたのでは競争には勝てません。

実際、変化に敏感なビジネスマンや経営者は意外と少ないものです。ダイナミックケイパビリティを身につけるには、まず世界の変化を把握しなければならないという課題があります。

限られた経営資源

世界や市場の動きを感知でき、変革のチャンスを捕捉しても、使える経営資源が不足していてはダイナミックケイパビリティを実現できません。ヒト、モノ、カネ、情報のうちモノ、カネ、情報はどうにかなるのかもしれませんが、ヒトに関しては、人口が減少して“そもそもいない”という局面でかなりの困難を伴うでしょう。

ダイナミックケイパビリティで変革を実践するべき動機のひとつが、人口減少社会という現代の変化に対応するためでもあるので、ここはヒトの代わりに知恵を出していかなくてはならないところになるでしょう。

ダイナミックケイパビリティを推進する方法

ダイナミックケイパビリティの理論や事例について解説してきましたが、自社で実践するには何から手を付ければよいのかわからないのではないでしょうか。最後にダイナミックケイパビリティを推進する具体的な方法についてまとめてみました。

組織改革

ダイナミックケイパビリティを高めるのは組織の力にほかなりません。変革のための組織の力はどのようにして高めていけばよいのでしょうか。

組織は、協力体制(関係性の構築)、コミュニケーション、目標の共有、各個人の役割認識に基づいて作られ、「組織プロセス」を構築します。組織プロセスは個人の力の総和以上の力を発揮するようになります。

組織プロセスの完成度が高い会社は、高い業績を打ち立て、ますます大きくなっていきますが、逆に硬直化していくという側面もあります。すると時代が変化したときに対応しにくくなってくるのです。

そこで、ダイナミックケイパビリティを発揮したいときは組織プロセスの一つひとつに働きかけて最適化するようデザインしなおす作業が必要です。一人ひとりに刷り込まれて固定化した「仕事の作法」「思考パターン」を見直して変えていくのです。

また組織プロセスの中で共有しているものも、新しい企業の目標に変えていく必要があります。これらは組織を構成する一人ひとりの気づきと自覚が重要で、それに合った研修方法が必要になってくるでしょう。

人材育成、人材採用

ダイナミックケイパビリティのための組織改革には、人材採用も必要になる場合があります。現在の人材に気づきと自覚を与えるほか、従来の組織プロセスに固着した考え方がなくこだわりのない、新しい経験と知識をもった人材を採用したほうが良い場合もあるからです。

現代ではネットが発達し、採用方法も多岐にわたってきました。変革してなりたい企業の姿を目指し、求める人材像を明確にして育成や採用に励む必要があります。

DXの推進

ダイナミックケイパビリティにとって経営資源の再構成が重要であることは、これまでも述べてきたとおりです。DXはそのうち情報に関して必要になるプロセスです。

変革を実践するには扱える情報の量と質、加工のノウハウを高める必要があります。他社より優位に立つために情報システムの優位性も高めなければなりません。DXの推進は戦略そのものであるとも言えるでしょう。

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