DXエバンジェリストが斬り込む!

製造業界では、CASEに代表されるように「100年に一度の大変革」と呼ばれるムーブメントが起きています。その主導権を欧米が激しく争う中にあって、日本の製造業が取り組むべき課題は何なのでしょうか。すでにさまざまなモノの見方や議論が無数に示されているところです。「DXエバンジェリストが斬り込む!」の第3回目では、東芝 デジタルイノベーションテクノロジーセンター チーフエバンジェリスト/アルファコンパス 代表の福本勲氏が、スズキマンジ事務所代表で株式会社デンソー技術企画部キャリアエキスパートの鈴木万治氏を迎え、お話を伺いました。大企業の社員でありながら個人事業主としても幅広く活躍する二人が、そのユニークな立場から見える世界観をもとに語り合いました。

左より鈴木万治氏(スズキマンジ事務所)、福本 勲氏(株式会社東芝/アルファコンパス)
左より鈴木万治氏(スズキマンジ事務所)、福本 勲氏(株式会社東芝/アルファコンパス)

<対談者紹介>

鈴木 万治氏
スズキマンジ事務所 代表
株式会社デンソー 技術企画部 キャリアエキスパート

1986年(昭和61年)名大院工修了、日本電装(現デンソー)入社。宇宙機器開発やモデルベース開発など全社プロジェクトを担当。2017年から20年まで米シリコンバレーに駐在し、18年からは中国子会社のイノベーション部門トップも兼務。数週間ごとに米中を行き来する生活を送った。21年にスズキマンジ事務所(manji@manji3.com)を開業。 ※本対談において、鈴木氏は個人の経験・見解からお話いただく形となります。所属する会社・組織とは関係するものではございません。
福本 勲氏
株式会社東芝 デジタルイノベーションテクノロジーセンター チーフエバンジェリスト
アルファコンパス代表

1990年3月、早稲田大学大学院修士課程(機械工学)修了。1990年に東芝に入社後、製造業向けSCM、ERP、CRMなどのソリューション事業立ち上げやマーケティングに携わり、現在はインダストリアルIoT、デジタル事業の企画・マーケティング・エバンジェリスト活動などを担うとともに、オウンドメディア「DiGiTAL CONVENTiON」の編集長を務める。また、企業のデジタル化(DX)の支援と推進を行う株式会社コアコンセプト・テクノロジーのアドバイザーも務めている。主な著書に「デジタル・プラットフォーム解体新書」、「デジタルファースト・ソサエティ」(いずれも共著)がある。主なWebコラム連載に、ビジネス+IT/SeizoTrendの「第4次産業革命のビジネス実務論」がある。その他Webコラムなどの執筆や講演など多数。(所属及びプロフィールは2023年5月現在のものです)

目次

  1. 白でも黒でもない世界を知る
  2. 日本企業は、外部との協業が不得手? 「日本式」「欧州式」握手の違いとは
  3. 「価値と対価」は等価交換。しかし日本人の「美学」がそれを妨げている
  4. アウトプットし続けると、インプットの仕方が変わる

白でも黒でもない世界を知る

――お二人とも大企業の肩書きを持ちながら、個人として活動されている部分も多く、かなりユニークな立ち位置にいらっしゃいます。どのように今の働き方になったのでしょうか

福本(以下、敬称略) 僕は、東芝ではずっとソリューションビジネスに携わってきました。2010年代中ころにインダストリー4.0に関連して、経済産業省などにも呼ばれるようになり、さまざまな取り組みをしている中でネットワークが広がりました。

人と会うときには、情報交換とかではなくて、自分が持っているものと相手が持っているものとが融合ができるといいなと、いつも思っています。

――鈴木さんと福本さんとのお付き合いは、長いのですか

福本 3,4年くらいでしょうか。

鈴木(以下、敬称略) 僕みたいにアウトロー的な者にとって、福本さんみたいな「エバンジェリスト」という肩書の方は、敷居が高いですよ。でも、福本さんの方から気さくにアプローチして頂けたので、お付き合いさせていただいています。

――鈴木さんのおっしゃる「アウトロー」とは、どのような意味で使っていらっしゃいますか

鈴木 在職時、僕をシリコンバレー駐在にしてくれた人がいました。シリコンバレーではデンソーの名前の力なんてまるで通用しないし、自分の組織もない。当然、自分のことを誰も知らない。

僕がシリコンバレーに行く以前、日本で働いていた頃の私は、「こっちが正しくて、こっちはダメだ」みたいなことを言う人でした。白か黒しかなくて、常に正解を求めていました。今思えば、典型的な日本人的な考え方だったと思います。

でも、シリコンバレーで3年間働いた結果、白と黒の間に無限のグレーがあって、それを認めない限り、自分も認められないということが分かったのです。だから今は、日本で話をするときは、「これはどっちがいいということは、僕は言っていませんよ」と、あえて強調します。そうでないと、「カイゼンはダメで、DXがいい、とあなたは言っているのでしょう」みたいなことを言う方が、とても多いのです。

福本 そんなこと、誰も言っていないのにね。

鈴木 でも、昔の僕も本当に日本人的だったのだと思います。アメリカに行く前にも25か国くらいで仕事をしたことがあったので、海外での経験がなかった訳ではないのです。でも実際に住むことで、そこの社会の価値観を少しだけ理解できたように思います。自分の「人間OS Update」と呼んでいます。アプリケーションの層ではなくて、人間としての根本的なところが上書きされたのが良かったと思っていて、それは外に出なければ起きなかったなと思います。

福本 僕は人をマネジメントする仕事に向いてないと思っています。スペシャリストになろうと思い、早い段階でスペシャリスト領域でやっていくことを選びました。

DXエバンジェリストが斬り込む!
「アメリカに行く前にも25か国くらいで仕事をしたことがあり、そこの社会の価値観を理解できたと思います。自分の『人間OS Update』と呼んでいます。アプリケーションではなくて、人間としての根本的なところが上書きされたのが良かったと思っています。」(スズキマンジ事務所 鈴木氏)

日本企業は、外部との協業が不得手? 「日本式」「欧州式」握手の違いとは

――大企業と個人事業主両方として仕事をしつつ、かつ、グローバルにものごとを見ていらっしゃいます。日本のものづくりについて、お二人の視点からざっくばらんに伺いたいのですが。

福本 グローバルでみたときに日本が欧米と圧倒的に違うのは、日本は全員がホワイトカラーであること。現場も含めて。ですから、「日本の企業はボトムアップだからいけない、トップダウンになるべきだ」という声を時々聞きますが、文化の違いも考慮しないといけないと思います。欧米では、何かを考える人たちと、言われた通りに働く人たちとに分かれています。

日本では、労働者のほとんどがインテリジェントです。いきなり、トップダウンになりなさいと言われても、難しいと思っています。

一方で、日本企業の事例を見ていると、やると決めた後は早いと思います。問題は、決めるまでが長いことなのです。経営者が果敢に飛び出して決断することはできなくても、合議をにより納得できるような意思決定をきちんとできれば動くと思っていますので、このプロセスが大事ではないかと思います。

――時間をかけるということでしょうか

福本 きちんと検討することを、ハイスピードでやる。稟議を上げるための事前チェックなどは、やめたらいいと思いますね。3つぐらい尖った提案があると、3つ足して3で割る場合があるのですが、それですと、せっかく尖ったモノが全部なくなってしまう。そういうのは、本当にやめた方がいい。

鈴木 何をやるにしても、社内だけで会議をするというのはやめた方がいいと思いますね。外部の人たちとどうやって協業するかということに対して、日本の企業は今でも非常に保守的ですよね。

福本 ハードルが高いと感じている人が多いですね。

鈴木 日本の人たちは、喩えて言えば、両手で握手するか、両手で殴り合うかという関係しかないように感じます。ヨーロッパの人たちは、片手で握手しながら、もう一方の手で殴り合っています。競争領域では殴り合うけど、非競争領域は手をつなぐ、みたいな感じですね。日本ではその、ある意味当たり前のことができず、手をつなぐ時は両手で、殴り合う時は両手で殴り合う。そんなことをやっていたら全然、外のナレッジを入れられませんし、付き合う相手がコンサルだけになってしまいます。

福本 それで、Howばかり質問するのですよね(笑)。コンサル側は、Howだけを教えるのは楽でしょうが。

片手で握手してもう一方の手で殴り合うという点においては、たとえば、欧州が進める統合データ基盤プロジェクトである「GAIA-X(ガイアX)」を、ドイツとフランスは一緒に進めていますが、両国は必ずしも、全てに置いて意見が一致しているわけではないように見えますからね。

鈴木 彼らはお金儲けをするためには、手段を選びませんね。結局、世界を変えるアイデアがあったところで、お金がない人には何もできませんから。僕がシリコンバレーで学んだ重要なことのひとつは、「お金は全てではないけれど、お金のない者は何もできない。」ということ。

日本人のお金に対する意識を変えることができれば、もしかしたら根底から変わるかもしれません。たとえば中国やアメリカの人たちのお金に対する貪欲さは非常にわかりやすいし、ヨーロッパ人も結構、気取ってはいるけれど、基本的にはお金を稼ぐことをやっていますからね。「標準化」とか何とか言いながら、結果はどこを狙っているかといえば、勝ち馬を作ってそこに乗って、自分たちが儲かるようにすることをやっている。

福本 彼らはエコシステムを作るのが上手で、リファレンスアーキテクチャ的なものを作りながら、SAPとかシーメンス、ボッシュなどがきちんとモノも作っていくのです。デジュール標準化と並行して進めていくので、標準が決まったら同時にモノもできあがるのです。

そうすると、この標準に準拠したモノは、最初のうちはSAP製や、ボッシュ製や、シーメンス製しかないことになる。そこに参画していないプレイヤーが、標準が決まってから取り組もうとすると、最初は彼らのモノを使わないといけなくなるので、取り組みのために大きなコストが必要になります。

鈴木 日本は、地政学的に言えば、極東の離れ小島の島国で世界から隔離されているので、外に出ていかないと自分の立ち位置が分からないですね。

福本 日本は、以前は国の中でサプライチェーンがそこそこ回っていたので、グローバルに世界を見られなくてもビジネスが成り立っていましたからね。今回、ハノーバーメッセに行って感じたのは、東洋人の中で、韓国人が多いということでした。韓国は基本的に国内に市場がないので、元々グローバル主義なのだと思います。

鈴木 それは、K-POPを見てもわかりますよね。初めから、グローバルしか狙っていない。

DXエバンジェリストが斬り込む!
「片手で握手してもう一方の手で殴り合うという点においては、たとえば、欧州が進める統合データ基盤プロジェクトである「GAIA-X(ガイアX)」を、ドイツとフランスは一緒に進めていますが、両国は必ずしも、全てにおいて意見が一致しているわけではないように見えますからね。」(東芝 福本氏)

「価値と対価」は等価交換。しかし日本人の「美学」がそれを妨げている