ローカル5Gとは?概要やメリット&デメリット、導入事例
(画像=Yingyaipumi/stock.adobe.com)

速度・安定性・セキュリティなどにおける従来の通信の課題を解決できるのでは、と期待されているのが「ローカル5G」です。ローカル5Gの概要やメリット&デメリット、導入事例を確認することは、企業のDX実現に向けた大きな一歩となります。

目次

  1. ローカル5Gとは
  2. ローカル5Gの必要性とメリット
  3. ローカル5Gの課題とデメリット
  4. ローカル5Gと関連用語の違い
  5. ローカル5Gの導入の流れ
  6. ローカル5Gでできることとは?国内の導入事例
  7. ローカル5Gの活用が企業のDX推進のカギに

ローカル5Gとは

ローカル5Gとは、2020年3月に一般登場した超高速回線「5Gネットワーク」を携帯キャリアを介さずに利用できるシステムです。あらゆる業界での活用が期待されていますが、特に「スマート工場」の実現など製造業の現場を変えうる技術として注目されています。

ローカル5Gを理解する上で大切なポイントは、以下の3点です。

  • 企業や自治体が独自に運用できる「5Gネットワーク」
  • 設置から運用まで圧倒的な柔軟性の高さを誇る
  • 「導入ガイドライン」を公開するなど総務省も推進中

企業や自治体が独自に運用できる「5Gネットワーク」

ローカル5Gでは、企業や自治体など携帯事業者以外の者が任意の場所(例:自社所有の敷地や建物内)で独自に5Gネットワークを構築できます。

5Gとは、従来の通信と比べて「超高速」「多数同時接続」「超低遅延」の3つの強みを持つ次世代ネットワークです。

【次世代ネットワーク「5G」の強み】

超高速:最高伝達速度10 Gbps(ギガビーピーエス)※前世代「LTE/4G」の100倍
多数同時接続:1キロ平方メートルあたり100万台接続可能
超低遅延:1ミリ秒程度の遅延※遠隔地のロボットをほぼ遅延なく制御できるほど
(出典:総務省 GO!5G「第5世代移動通信システム(5G)とは」より引用・一部改変)

前世代から飛躍的な進化を遂げており、これまで速度や接続数、遅延がネックで導入できなかったIT技術をビジネス現場に投入できる可能性が生まれました。

一方、携帯キャリアの5Gをそのままビジネスに使用することには、「外部との接続によるセキュリティリスク」「大規模通信障害に巻き込まれる可能性」「過疎地や建物の地下などではそもそも電波が届かない」といったデメリットが懸念されます。このような課題の解決策となるのがローカル5Gです。

設置から運用まで圧倒的な柔軟性の高さを誇る

携帯キャリアを介さないローカル5Gは、設備設置から実際の運用まで、利用者の目的に合わせて柔軟に対応できます。キャリアの5Gが届かない場所にも自由に設置できるほか、独立したネットワークゆえセキュリティが高く、キャリアの通信障害の影響も受けません。

ローカル5Gとは

さらに、「超低遅延」「莫大な数の機器の同時接続」などといったネットワークの強み自体も、機器設置やシステム構築を通じて利用者の用途に合わせて調節できます。ローカル5Gは、5Gを実務で使用するためのハードルを下げられる画期的な仕組みです。

「導入ガイドライン」を公開するなど総務省も推進中

ローカル5Gの重要性は政府からも認識されており、総務省は普及を進めるべく「ローカル5G導入に関するガイドライン」を公開しています。また、特にポジティブな影響の期待できる製造業に向けては別途「製造現場におけるローカル5G等の導入ガイドライン」も公開済みです。

ほかにも5Gのさらなる普及を目指すポータルサイト「GO!5G」を運営し、5G導入に関する設備投資についての優遇税制「5G導入促進税制」を用意するなど、国として多種多様な取り組みを掲げています。

ローカル5Gの必要性とメリット

続いて、ローカル5Gの必要性とメリットを見ていきましょう。

企業や⾃治体などに最適な通信環境を構築できる

前述の通り、ローカル5Gの導入時は自社に最適な通信環境を独自に構築できます。低遅延に特化、多数同時接続に特化など、自社の業務で必要な特定の要素に注力することが可能です。

5Gには「超高速」「多数同時接続」「超低遅延」の3点の魅力がありますが、現実的な問題として3要素すべてを同時に満たす設備を整えようとすると、コストはもちろん技術的にも導入が難しくなります。しかしローカル5Gであれば、要素を取捨選択しつつ自社の通信環境を整えていけます。

高度なセキュリティを維持できる

独立したネットワークゆえに外部からの攻撃を受けにくく、高度なセキュリティを維持できるのもローカル5Gのメリットです。

近年は情報漏えいなどのセキュリティインシデントが一大事件として注目される時代になりました。2022年4月には改正個人情報保護法が施行され情報流出事故に関連する罰則が強化されるなど、法的整備も進んでいます。

また、データを暗号化して人質に取り身代金を請求する「ランサムウェア」のように、金銭を目的とするサイバー攻撃の話題も耳にするようになりました。その点、ローカル5Gでは特定のSIMカードを挿入している機器からの接続のみを許可することもでき、各種攻撃を受けるリスクを最小限にできます。

通信の安定性を確保できる

常に安定した通信を期待できることもローカル5Gの魅力です。独立したネットワークであるため、他者の利用状況に通信品質が左右されません。キャリアの設備トラブルのような大規模通信障害に巻き込まれる心配もなく、災害時や緊急時の確実な連絡手段としても活用できます。

ロボットに精密動作を任せる製造現場や、通信の乱れが致命的なトラブルを呼ぶ医療関係など、安定性を追求したいシーンにもローカル5Gは安心して導入できます。

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ローカル5Gの課題とデメリット

用途に合わせたカスタマイズ、高度なセキュリティ、通信の安定性など、ローカル5Gはメリットの多いサービスです。一方、免許が必要であること、電波利用料などのコストがかかることも念頭に置いておきましょう。

使用するためには免許が必要

ローカル5Gは、利用者が自ら基地局などの設備を用意してネットワークを使用します。そのため、電波法第四条の制限により無線局の免許取得が義務付けられています。あわせて、近隣にあるほかのネットワークを乱さないよう、設置予定場所での電波干渉調整も必要です。

さらに、自己の需要を超えた範囲(他者に回線利用を許可して利用料を取得するなど)でローカル5Gを利用する際には、所定の条件下で電気通信事業としての登録や届け出も求められます。

電波利用料などのコストがかかる

基地局の設置や端末の購入費用に加えて「電波利用料」が発生することにも気を付ける必要があります。

ローカル5Gでは、利用する周波数や基地局の分類、数などにより以下の電波利用料がかかります。

ローカル5G(4.6-4.9GHz):基地局は5,900 円/局、陸上移動局は370 円/局(包括免許)、400 円/局(個別免許)
ローカル5G(28.2-29.1GHz)::基地局は19,000 円/局、陸上移動局は:370 円/局(包括免許)、個別免許は免許内容による
(出典:総務省「ローカル5G導入に関するガイドライン」を引用・一部改変 )

ローカル5Gの導入では、1,000万円以上の初期費用と数十万円以上の運用費用がかかるともいわれています。優れたネットワークサービスであるがゆえ、現時点では免許とあわせて利用までのハードルは高めです。ただし、前述の回線の強みを取捨選択できる特性もあり、将来的な普及が進むにつれてコスト面も落ち着いてくると予想されます。

ローカル5Gと関連用語の違い

ローカル5Gには混同されがちな関連用語がいくつか存在します。その違いを押さえておきましょう。

Wi-Fiとの違い

Wi-Fiは無線接続の代名詞ともいうべきメジャーな通信規格です。「Wi-Fi4」や「Wi-Fi5」のように語尾の数値で世代を表しており、現在は「Wi-Fi7」の登場が近いと噂されています。

Wi-Fiとローカル5Gはともに高速無線通信を実現できる仕組みです。しかし、通信の安定性・セキュリティ・導入ハードル・コストの4点に違いがあります。

【Wi-Fiとローカル5Gの違い】

  • 通信の安定性:ローカル5Gが優れている。ローカル5Gは電波干渉がなく、機器間の移動(ハンドオーバー)も容易。Wi-Fiは電波干渉を受けやすく、ハンドオーバーも難しい。

  • セキュリティ:ローカル5Gが優れている。ローカル5GはSIMカードによる制限など物理的なハードルを設けられる。Wi-Fiはネットワーク上のセキュリティしか用意できない。

  • 導入ハードル:Wi-Fiが優れている。ローカル5Gは免許が必要だが、Wi-Fiは機器設置と初期設定のみで良い。

  • コスト:Wi-Fiが優れている。ローカル5Gの導入には1,000万円以上の初期費用と数十万円以上の運用費用がかかる。Wi-Fiはルーターと接続機器を用意すれば利用でき、初期費用の数万円のみで利用可能。

Wi-Fiとローカル5Gはどちらかが上位互換というわけではありません。シーンに応じて使い分ける必要があります。

キャリア5G(パブリック5G)との違い

キャリア5G(パブリック5G)とは、携帯事業者が提供する5Gです。ローカル5Gではない、いわゆる一般的に広く利用されている5Gネットワークを指します。

ローカル5Gとキャリア5Gの最大の違いは、利用者が独自に運用できるかどうかです。その結果として、ローカル5Gにはセキュリティの高さやネットワークの安定性(障害の回避)といった強みがあります。

もちろん、キャリア5Gにも導入ハードルやコストの低さという魅力はあります。しかし、信頼性も重要なビジネス用途ではローカル5Gのほうが優れているといえるでしょう。

プライベート5Gとの違い

プライベート5Gは、ローカル5Gとキャリア5Gの中間的な存在です。携帯キャリアが提供するサービスの一種で、キャリアの5G回線を使って特定の企業や自治体向けに専用ネットワークを構築します。

プライベート5Gは免許の取得や基地局設置が不要で、ネットワークの保守もキャリアに任せることができます。それでいて専用ネットワークであるため、通信速度や同時接続数など自社が必要とする要件に合わせた環境を構築可能です。

一方、プライベート5Gはあくまでも携帯キャリアの回線を使っており、大規模通信障害のリスクや電波が届かない問題など、キャリア5Gのデメリットは残っています。

ローカル5Gの導入の流れ

ここからは具体的に、ローカル5Gの導入の流れを見ていきましょう。導入は以下のSTEPで行われます。

STEP1:導入目的の明確化・計画の策定
STEP2:環境構築
STEP3:干渉調整・免許の申請
STEP4:継続的な保守・運用

STEP1:導入目的の明確化・担当部門&スケジュールの決定

最初のSTEPは導入目的の明確化です。遠隔地からの遅延が少ない作業、高画質な動画データのリアルタイム送受信、オフィス拠点での同時かつ多数アクセスの実現など、ローカル5Gを導入する目的によってふさわしい回線の特徴も変わります。現状の課題から「なぜローカル5Gが必要なのか、安価なWi-Fiではダメなのか」を検討しましょう。

また、免許の申請や電波干渉の調整など、ローカル5Gの導入では自社で完結できない作業もありますので、最初の段階でローカル5Gの導入を担当する部門と今後のスケジュール感を定めておくことも大切です。

STEP2:環境構築

目的や計画の明確化の後は、環境構築を進めていきます。具体的な内容は目的や施設により異なりますが、少なくとも以下の3点は検討する必要があります。

  • (自社の求めるローカル5Gに適した)ネットワーク機器と接続端末の選定
  • 電波状況を考慮した設置場所と設置方法の確認
  • 利用に必要なソフトウェアの開発

独力での対応が難しい場合、NTTドコモが提供する「ローカル5G構築支援(プライベート5Gではなくローカル5Gの構築を手助けするもの)」のような外部支援サービスに依頼するのも一つの手段です。ローカル5Gに関する現行ルールでは、このような支援サービスへの依頼により免許取得まで含めた各種作業を代行してもらうことが認められています。

STEP3:干渉調整・免許の申請

続いては、設置場所における電波の干渉調整です。使用を考えている電波の周波数を考慮しつつ、近隣他者のローカル5Gや携帯電話基地局に悪影響はないか検討します。特に「相手方の無線局を物理的に邪魔しないか(物理遮蔽)」は重要なポイントです。

干渉調整後は、少なくとも以下の書類を用意して免許申請を行います。状況に応じ、物理遮断や混信の防止に関する他業者との同意書、土地の範囲図なども求められます。

  • 免許申請書
  • 無線局事項書
  • 工事設計書
  • 無線設備系統図
  • サイバーセキュリティーの概要資料

STEP4:継続的な保守・運用

無事に免許申請が通った後は実際に機器を設置し、いよいよ運用と保守の開始です。ローカル5Gの機器は通常5年に一度の定期点検が求められます。突発的な故障時の対応も含め、ネットワークの保守業務を担う人材を明確にしておきましょう。

どのような形でローカル5Gが構築されているのか誰でも確認できるように、配置図や当初の工事設計書などの書面を残しておくことも重要です。このような情報を属人化させてしまうと、将来的に誰もメンテナンスが行えないブラックボックス化が引き起こされてしまいます。

ローカル5Gでできることとは?国内の導入事例

すでに国内でもローカル5Gを導入し実証実験を行う企業や団体が現れています。ローカル5Gの活用で何ができるのか、最後に事例を確認していきましょう。

商品の傷の自動確認と遠隔チェック【サミットスチール株式会社】

製造業と切り離せない「不良品の検出」にローカル5Gを活用しているのが、サミットスチール株式会社です。帯鋼(コイル)の各種加工を担う「スチールサービスセンター事業」を展開しているサミットスチールではスマート工場の実現に向けてローカル5Gを導入し、「商品(コイル)の傷の自動検出」と「遠隔地からの品質チェック」の実現を目指しています。

具体的には、まず8Kの高解像度カメラがコイルを自動的に撮影し、ローカル5Gの超高速の特性を生かしてサーバーへと高画質画像を転送します。送られた画像をもとにAIが識別を行い、傷を判別する仕組みです。その後、必要に応じて現場の作業員が追加で4Kカメラを使った映像を本社に転送し、本社の人員が出荷の可否を判断します。

現時点ではまだAIの傷検出精度に課題があるものの、この仕組みが完全に活用できるようになれば、現在の5倍以上ものスピードでコイルを加工できると見込まれています。

トラクターの自動運転による農業の自動化【北海道岩見沢市】

北海道岩見沢市では、北海道大学・大学院農学研究院などの研究機関や民間企業とともに、人手不足の対策となるスマート農業の実現に向けてトラクターの自動運転を目標としています。

ローカル5Gの低遅延かつ超高速な特性を生かして4K映像の転送を行い、10キロメートルも離れた場所から複数台のトラクターやコンバインを同時に動かすことに成功しています。あわせて、農作物や土壌の状態をカメラなどのセンサーからデータ収集・分析する試みも行い、実用レベルになりつつあります。

空港における自動運転の実証実験【成田国際空港株式会社等全4社】

成田国際空港株式会社やKDDI株式会社などの全4社は、特定区域内の自動運転車両の実用化に向け、ローカル5Gを活用した実証実験を行いました。

自動運転技術では、車体に搭載されたカメラの映像をリアルタイムに分析しながら走行します。しかし、自動運転車単独に任せきりでは安全性の面で不安が残ります。

そこで、車載カメラや施設内のカメラの映像を人間が遠隔監視することで自動運転車をサポートしようと試みたのがこの取り組みです。ローカル5Gの特性を生かして複数のカメラ映像を低遅延で送信し、リアルタイムの分析を行っています。「2025年にレベル4相当の自動運転を実現する」という目標のもと、研究が日々進められています。

ローカル5Gの活用が企業のDX推進のカギに

この記事ではローカル5Gについて、特徴や必要とされる理由、メリット&デメリット、導入の流れと活用事例をご紹介しました。

次世代の通信規格である5Gを企業や自治体が単独で使用できるのがローカル5Gです。通常の5Gのメリットに加えて、外部からの干渉を受けにくい、利用者にあわせてカスタマイズできるなどの独自の強みがあります。DXの推進に向けて、ぜひ注目したいサービスの一つです。

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