業務効率化に貢献する代表的な5つのITシステムと活用のメリット
(画像=C Malambo/peopleimages.com/stock.adobe.com)

DX推進が叫ばれて久しいですが、まだまだDX実現や成功企業の数は少ないと言われています。目先の業務効率化が多くの企業にとって喫緊の課題となっている現状や専門人材の不足などさまざまな要因が考えられます。

しかし、DXを少し小さく考えてみると身近なITシステムの導入で業務効率を達成できるケースもあります。そこで、本コラムでは業務効率化に貢献する代表的なITシステムを紹介します。また、業務効率化に向けてそれらのITシステムを活用することで期待できる副次的な効果について解説します。

目次

  1. 半世紀以上にわたるITシステムを活用した業務効率化の取り組みと未来図
  2. ITシステム活用による業務効率化の実態
  3. 業務効率化に貢献する代表的なITシステム
  4. 業務効率化に向けたITシステム活用の副次的な効果
  5. ITシステム活用による業務効率化を実践するにあたって押さえるべき3つの注意点
  6. まとめ|業務効率化を実現し、DX実現の第一歩へ

半世紀以上にわたるITシステムを活用した業務効率化の取り組みと未来図

最初に、ITシステムの取り組みの経緯を見ていきます。

企業は、すでに半世紀以上にわたってITシステムを活用した業務効率化を模索してきました。その端緒と言えるのは、1960年代におけるメインフレームの登場と考えられます。

メインフレームとは、主に基幹業務で利用される「大型コンピュータ」です。汎用コンピュータやオフィスコンピュータと呼ばれることもあり、1960年代に欧米の大企業を中心に導入されるようになりました。このメインフレームの登場によって、実際に製造・物流・販売・調達・人事・財務会計といった基幹業務をITシステム化=効率化できるようになりました。

その後、コンピュータの小型化やネットワーク環境の整備、スマートフォンの登場といった様々な変化を経て、約半世紀が経過した今日では、パソコンとスマートフォンを手に様々なITシステムを駆使して業務を遂行することが当たり前の時代になったのです。

そして今後、ITシステムの領域はますます広がると予想されます。実は現在、日本の世界における成長率は以前よりも大きくダウンしており、世界のランキングでもかなり順位を下げています。この理由の最たるものはDX、IT化へのシフトが遅れていることと考えられています。古い既存のシステムを利用し続けアナログ体制のままでいることで、2025年の崖といわれる問題が起き、大きな経済損失を生むと経済産業省は警告しています。

日本の生産年齢人口は、2015年時点の7,592万人から、2060年には4,418万人まで減少すると予測されています(※1)。そのため、国内企業が中長期的な成長を実現するには、業務効率化によって一人ひとりの生産性を高めたうえで限られた人的リソースで業績を維持あるいは向上していく必要があります。

一方で前述のとおり、日本は諸外国と比較した場合の労働生産性の低さが度々指摘されています。実際、OECD加盟36カ国のうち、2017年時点で日本の労働生産性は20位という調査結果が示されています(※2)。これは、国内企業にはそれだけ業務効率化による生産性向上の余地があると見ることもできるのではないでしょうか?

※1:総務省「平成28年版 情報通信白書」
※2:日本生産性本部「労働生産性の国際比較 2018」

ITシステム活用による業務効率化の実態

現在も、多くの国内企業が業務効率化を目的に様々なITシステムを活用しています。そして、業務効率化という観点から特に注目を集めているのがIoTやAIといった先端技術を用いたITシステムです。

2018年に財務省が公表した調査(※3)を見ると、IoTやAIといった先端技術を活用している企業のうち、大企業の60.8%、中堅・中小企業の71.5%が「業務効率の向上(従業員の負担軽減)」を目的としていることがわかります。大企業と中堅・中小企業のいずれについても、「コスト(人件費、保守費用等)の削減」(大企業:37.6%、中堅・中小企業:37.2%)や「既存製(商)品・サービスへの付加価値の付与(品質・ブランドの向上)」(大企業:25.3%、中堅・中小企業:12.8%)といったほかの目的よりも著しく高い割合です。

今後はどの業界、どの企業規模でもIT化は進むと考えられます。逆にIT化、デジタル化が進まない企業は淘汰されていくおそれがあります。

(参考)経済産業省:中小企業・小規模事業者の IT利用の状況及び課題について

DXを実現するためのステップ

DXはひとっ飛びで実現できるものではありません。まずはスモールスタートで実際の業務のIT化から進めるのが確実と言われています。その後、既存のビジネスをデジタル化を目指すデジタイゼーション、ビジネスモデルの変革を取り組むデジタライゼーションへと進み、最終的には競合優位性をデジタルによって確立するDXへとたどり着きます。

まだDXやIT化が進んでいない企業は、まずはデジタイゼーションから着手することとなります。

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業務効率化に貢献する代表的なITシステム

ここからは代表的なITシステムを紹介します。AIやIoTと比較すると導入しやすく、その効果も見えやすいシステムですのでデジタイゼーションを目指す企業の方々はぜひ参考にしてください。

SFA(Sales Force Automation/営業支援)システム

SFA(Sales Force Automation/営業支援)システムは、営業活動の記録、案件進捗状況の共有、顧客情報の管理といった営業活動全般を支援することを目的としたITシステムです。

たとえばマルチデバイス対応のSFAシステムであれば、各担当者は隙間時間を使ってスマートフォンから営業活動を記録したり商談情報を登録したりすることが可能です。また、営業マネージャーは各営業担当者からのレポートや日報の提出を待つことなく、SFAシステム上で各商談の進捗状況や各営業担当/営業部全体の売上予測をリアルタイムに確認できます。そのため、営業担当者は商談、営業マネージャーは戦略策定といったそれぞれのコア業務に専念できるようになるでしょう。

関連記事:Salesforceを製造業に生かす方法~業務改革とDX~

勤怠管理システム

勤怠管理システムは、従業員の出退勤や稼働日数、残業時間といった勤怠情報を一元管理できるITシステムです。

働き方の多様化に伴ってテレワークやハイブリッドワークを認める企業が増加しています。それに伴って、自宅や外出先にいる場合でもスマートフォン上から出勤/退勤を打刻できる勤怠管理システムも登場しています。また、給与システムと連携することで勤務時間に応じた給与計算を自動化できる場合もあります。

タレントマネジメントシステム

タレントマネジメントシステムは、従業員の氏名・年齢・勤続年数・所属部門・評価・賞罰・過去に参画したプロジェクトといった人材情報を一元管理できるITシステムです。

最近では単なる人材情報の一元管理だけではなく、人材情報や勤怠情報を分析することでポジションごとの適正や離職可能性などを算出することができるタレントマネジメントシステムも登場しています。このようなタレントマネジメントシステムを活用すれば、人事情報の管理だけではなく採用や異動といったより幅広い人事業務を効率化することができるでしょう。

テレビ会議/ウェブ会議システム/コミュニケーションツール

テレビ会議/ウェブ会議システムは、インターネット回線や電話回線を通じて遠隔地の拠点と音声通話/ビデオ通話を行うことができるITシステムです。

当初は高価な専用機の導入が必要でしたが、今日ではPCやスマートフォンにアプリをインストールするだけで利用できるクラウド型のテレビ会議/ウェブ会議システムも多くなりました。そのため、中堅・中小企業の間でも導入の輪が広がっています。テレビ会議/ウェブ会議システムを導入すれば、社内会議や商談をリモートで実施できるようになるので、会議や商談に要する移動時間を短縮することができます。

またSlackやChatworkなどに代表されるビジネスチャットツールもメールと併用している企業が多いでしょう。簡潔かつスピーディにファイルのやり取りもできるので業務効率には欠かせないシステムといえます。

ワークフローシステム/電子契約システム

組織内の煩雑なワークフローの状況を可視化し、ネットワーク上で完結できるシステムです。申請から承認まで時間がかかってしまうと機会損失につながるため、テレワークやハイブリッドワークを導入している企業の多くが導入されているのではないでしょうか。また日々発生する契約もネットワーク上で完結できれば大きな業務効率につながります。

このほかにも、すでに私たちの身の回りには業務効率化につながる非常に多くのITシステムが存在しています。そして、業務効率化を目的としたITシステム活用には次項に挙げたような副次的な効果も期待できます。

業務効率化に向けたITシステム活用の副次的な効果

業務効率化を目的にITシステムを導入した場合でも、それ以上の効果が見込めるのがITシステム導入のメリットです。ここではITシステムを導入することで得られる副次的効果について解説します。

属人化からの脱却ができる

ITシステムの活用は、様々な業務において発生する属人化した状況からの脱却にもつながります。

たとえば、前述したSFAシステムを活用すれば、優秀な営業担当者の営業プロセスを精緻に分析することが可能になります。そのうえで、分析結果から勝ちパターンを導き出して営業部全体で共有すれば、部門全体の営業力を底上げできるでしょう。その結果、特定の優秀な営業担当者に頼った属人的な営業活動から脱却することが可能になります。

ヒューマンエラーの防止によりリスクを低減できる

決められたプログラムにしたがって処理を実行してくれるITシステムは人間のようにミスをすることはありません。つまり、ITシステムの活用はヒューマンエラーの防止にもつながるということです。特に、定型業務はITシステムを活用することで業務効率化とヒューマンエラー防止を両立できる可能性が大きいです。

帳票作成業務はその典型例と言えるでしょう。日常業務において、見積書や発注書、注文書、出荷伝票、納品書といった様々な帳票を作成するシーンがありますが、このような帳票は決められた書式に沿って作成するため定型業務と言えます。一方で、取引先企業名や住所、品目、数量、金額など複数の項目を記載しなければなりませんので、ヒューマンエラーが発生しやすい業務とも言えます。

そんな帳票業務に「電子帳票システム」を活用することで、業務効率化とヒューマンエラー防止を両立できます。一般に電子帳票システムには、データベース上に存在する過去の帳票データを参照したうえで選択肢の表示や予測変換などを行う機能があるため、紙帳票やExcelを用いている場合よりも手書きあるいは手入力しなければならない項目数を減らすことができるからです。

社内に点在している情報の統合でき、無駄な手間を削減できる

社内の部署、部門ごとに同じ情報を別々に蓄積していませんか?また同じデータなのに、別のツールで保管することで互換性がなくなっている企業が多くあるようです。

たとえばSFAシステムの導入後には、各営業担当者が保持している顧客情報がITシステム上に統合されます。同様に、タレントマネジメントシステムの導入後には人材情報が部門を超えてITシステム上に統合されます。より幅広いところでは、ERP(Enterprise Resources Planning/企業資源計画)システムを導入した場合には、製造・物流・販売・調達・人事・財務会計といった基幹業務に関わるあらゆる情報がITシステム上に統合されることになります。

このように、ITシステムを活用することで、情報を統合するきっかけになります。その結果、たとえばマネジメント層はこれまでよりも多くの情報を速やかに入手して現状を分析できるようになり、スピード感のある意思決定が可能になるでしょう。

ITシステム活用による業務効率化を実践するにあたって押さえるべき3つの注意点

ここまで解説したとおり、多くの国内企業が業務効率化を目的にITシステムを活用しています。一方で、ITシステムを活用すれば必ず業務効率化を実現できるというわけではありません。場合によっては、かえって業務効率が低下してしまうおそれもあります。特に次の3点は、業務効率の大幅な低下につながるおそれがあるので注意しましょう。

注意点1:新たな業務の発生で業務効率が落ちることもある

ITシステムを導入した場合、一般的には新たに次のような業務が発生します。

【導入時に発生する業務】

  • 利用端末へのインストール
  • サーバーの設定(情報システム担当者)
  • 外部システムとの連携(情報システム担当者)
  • 各ユーザーへの教育(情報システム担当者) など

【運用時に発生する業務】

  • アカウントの管理(情報システム担当者/部門管理者)
  • サーバーの管理(情報システム担当者)
  • 定期的なアップデート(情報システム担当者/各ユーザー)
  • セキュリティ対策の実施(情報システム担当者/各ユーザー) など

その結果、本来効率化するはずだった業務の効率がかえって低下してしまう可能性があります。そのため、ITシステムを導入することによるメリット・デメリット、トータルでの業務量や業務効率を比較衡量したうえで、ITシステムを導入すべきか否かを検討しましょう。

注意点2:業務フローの変更で一時的に業務が増えることもある

ITシステムを導入することで、既存の業務フローが変わります。大幅な業務フロー変更が伴う場合、該当業務の担当者は新たな業務フローへの習熟にかなりの時間を要します。最終的には業務効率化に結びつく場合でも、一時的に業務効率が低下してしまう可能性があります。

このため、ITシステム導入の最初の段階ではできるだけ既存の業務フローに合わせるような形でITシステムを導入した方が業務効率化の効果を得やすいと言えます。また、担当者が短期間で新たな業務フローに習熟できるように事前の準備を徹底しましょう。具体的には、変更後の業務フローをマニュアル化したり、導入するITシステムを用いたハンズオンを行ったりといった準備が考えられます。

注意点3:該当業務を担う従業員のITリテラシーや社員教育が必要

ITシステム活用によって業務効率化を実現するには、該当業務を担う従業員が導入したITシステムを十分に使いこなせる必要があります。

とはいえ、実際にはITリテラシーが不足しており、せっかく導入したITシステムを十分に使いこなせないという話もよく聞くところです。そして、そのような状況において無理にITシステムを活用することでかえって業務効率が低下してしまっては本末転倒です。

このような状況に陥らないようにするためには、該当業務を担う従業員のITリテラシーに合ったITシステムを導入することが重要です。そのためには、選定段階から該当業務を担う従業員に関わってもらい、候補となっているITシステムをトライアルしてもらったり、要件定義の段階で要件の洗い出しに協力してもらったりする必要があるでしょう。

一方で、今後はITシステムの利用シーンがさらに多くなっていくことが予想されます。そのため、中長期的に考えると従業員のITリテラシーの底上げを目的とした社内教育の実施を検討する余地もあるでしょう。

まとめ|業務効率化を実現し、DX実現の第一歩へ

今回は、ITシステムの導入メリット、業務効率化に貢献する代表的なITシステムとしていくつかの汎用パッケージシステムを紹介しました。

一方で、自社用に新たなITシステムを開発するという選択肢も一考の価値があります。特に、大幅な業務効率化を目指す場合には、自社の業務に最適化したITシステムを開発する方が効果的です。また、まだ既存のITシステムが存在していない特殊な業務についても、新たにITシステムを開発することで業務効率化を実現できるかもしれません。

またITシステムの導入は、DXの第一歩といえます。まずは社内の業務効率を実現したのちにIoTやAIを活用した抜本的な業務改革に進みます。

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