最新の粒子法を活用した高精度な彗星衝突シミュレーションで、生命の起源に迫る

会社名 自然科学研究機構 アストロバイオロジーセンター
代表者 センター長 田村元秀
創業 2015年
事業内容 太陽系外惑星や宇宙における生命の学際的研究の推進
URL http://abc-nins.jp/
会社概要
宇宙、エネルギー、物質、生命等に係る大学共同利用機関を設置・運営する自然科学研究機構(NINS)が2015年に設立。太陽系外惑星の研究を柱に、「宇宙における生命」の科学的な探査を行う。

最新の計算プログラム構築と学術的な知見で、公的研究のコア部分をサポート

課題・背景
  • 彗星が地球に「斜め衝突」したときのシミュレーションを実施するために必要な技術を持ち、かつ自然科学への理解度が高い研究者が見当たらなかった。
  • 従来携わってきた研究とは領域が異なるため、人脈やノウハウが不足していた。
解決策・効果
  • 従来よりも高精度なシミュレーションが実現できる粒子法の新技術(DISPH)の活用経験から、最適な手法を提案。
  • 研究に必要な人脈およびノウハウを適切に提供し、1年強と短期間で優れた研究成果の端緒にたどり着いた。

インタビュー

「宇宙における生命」を科学的に探査し、その謎を解き明かす――。そんな最先端の研究を行っているのが、自然科学研究機構のアストロバイオロジーセンターです。その中で特任研究員を務める鈴木大輝さんは、「生命の材料となった有機分子」が地球ではなく宇宙からもたらされたとする説(生命関連分子地球外運搬説)を実証するための研究に取り組んでいます。
従来の常識を覆す可能性があるこの研究に、CCTはどのような貢献をしているのでしょうか。これまでの研究成果についても、詳しく鈴木さんにお聞きしました。

アストロ様事例1

自然科学研究機構 アストロバイオロジーセンター
特任研究員
鈴木 大輝 様

―はじめに、鈴木さんが現在取り組んでいる研究内容について教えてください。

私が取り組んでいるのは、「生命の起源」を解明する研究です。どのようにして生命が生まれたのかというのは諸説ありますが、近年は地球に衝突した彗星によってもたらされた有機分子(生命の材料)の化学反応から誕生したという説が有力視されるようになってきました。彗星が地球に衝突すると隕石になりますが、地球に飛来した隕石の成分分析を行った研究によると、アミノ酸や糖類の検出が報告されています。
しかし、どの程度の分量が運ばれてきたのかを定量的に捉える研究はほとんどなされていないため、宇宙から「生命の材料」がもたらされたのかどうか解明できませんでした。ここで重要なのは、彗星が地球に衝突するとかなりの高熱を発するため、大昔の地表のほとんどが海面だった状態でも、有機分子が熱分解されてしまうということです。

―熱分解されるほど高熱を発する隕石から有機分子が発見されているということは、生き残った「生命の種子」があるということでしょうか?

そうです。現在、地球で生命が誕生したのは約40億年前といわれていますが、それは地球に多数の隕石が降ってきたと推測される「後期重爆撃期」と同時期です。かなりの分量の彗星が隕石となって地球に衝突したため、ひとつの隕石で生き残った有機分子がたとえ0.01%程度だったとしても、地球上の生成量よりも優位な量が供給された可能性があるのです。
もうひとつ付け加えれば、地質学の研究が進んだ結果、大昔の地球を取り巻いていた大気成分のほとんどが二酸化炭素であるというのが定説になってきています。二酸化炭素を主成分とした大気では有機分子の生成率は極めて低いので、彗星の衝突で生き残った有機分子がどのくらいの量なのかを明らかにすることで、「生命の材料が本当に宇宙からやってきたのか」を解明する手がかりになると考えています。

アストロ様事例2

―彗星の衝突で生き残った有機分子の量は、具体的にどのような手法で推測するのでしょうか?

実は、そこで困ってしまったのです(笑)。流体力学を応用してシミュレーションするという方法は考えついたのですが、私は電波望遠鏡で宇宙生命を観測する研究に従事してきたため、そうした理論計算のノウハウを持ち合わせていませんでした。通常、そうした場合はその分野に精通した研究者と協力して取り組むのですが、そもそも彗星の衝突シミュレーションをやっている研究者はかなり少数なのです。

―流体シミュレーションを扱う研究者や技術者は決して少なくないのではないでしょうか?

シミュレーションを実施するためには、適切な初期条件の設定が求められます。いわば、舞台装置をつくるわけです。この研究でいえば、地球の海面と彗星のモデルを作成したうえで、温度や圧力などの条件を細かく設定しなければなりません。さらに、先行研究についての理解も必要です。

そのため、流体シミュレーションやそのためのプログラミングを扱うことができるというだけではなく、自然科学に対して少なくとも大学院修士論文が作成できる水準の高度な知見を持っている方を求めていました。

―どうやってその課題をブレークスルーしたのでしょうか?

悩んでいたときに思い出したのが、大学時代に隣の研究室で惑星形成シミュレーションに取り組んでいた研究者の存在です。顔見知りだったので、最初は気軽な相談のつもりでしたが、私の研究に関心を持ってくれまして。深い話をしていくうちに、CCTさんに所属していることを知りました。自社のサーバを活用した作業も可能ということでしたので、ならば依頼しようということになったのです。

―鈴木さんの研究において、CCTはどのような貢献ができたのでしょうか?

まず、シミュレーションの具体的な手法をすぐに提示してくれました。先ほど申し上げたように、私自身は理論計算のノウハウを持ち合わせていませんでしたが、「こういうことがしたい」と伝えたところ、すぐに粒子法の最新技術であるDISPH(Density Independent Smoothed Particle Hydrodynamics)の活用を提案してくれたのです。
粒子法の存在自体は私も知っていましたが、一口に粒子法といってもいろいろな手法があります。用途に応じて活用しなければ意味がありませんし、その手法に通じていなければ使いこなすことはできません。しかも、DISPHは従来のSPHを進化させた最新手法ですので、より高精度なシミュレーションができるものの、まだ利用実績を持つ人が少ないのが実情です。しかし、CCTさんのエンジニアはすでに利用経験をお持ちでしたので、安心してお任せすることができました。

アストロ様事例3

―技術面の評価はいかがですか?

三次元計算に取り組んだ際のことが印象に残っています。
隕石の垂直衝突のシミュレーションとしては、既に二次元計算の先行研究があるのですが、垂直衝突の熱エネルギーはかなり大きいため、隕石に付着した有機分子が生存することはほぼ期待できません。その点、斜めに衝突した場合は垂直衝突ほど熱エネルギーが大きくないため、生存率が高まることが期待できます。しかし、斜めの衝突シミュレーションの場合、二次元計算では対応できません。そのため、彗星の衝突シミュレーションは三次元計算で行いました。
三次元計算には、並列計算による高速化が必須となりますが、CCTさんはその課題をクリアできる高い技術力も持っているため、効率的な研究が可能となりました。研究内容を深く理解してもらえているので、ちょっとした打ち合わせでもスムーズですし、CCTさん以外のパートナーではこの研究を進めていくのは難しかったと思っています。

―実際に、研究成果にはつながっていますか?

2018年4月に研究をスタートさせて1年強になりますが(編注:本取材は2019年9月に実施)、興味深い結果が出ています。急角度で彗星が海面にぶつかった場合、有機分子が0.01%ほど生き残る温度になることがシミュレーションできたのです。先ほども申し上げましたが、これは地球上の生成量よりも優位な量が供給されたと判断できる分量です。
まだデータが足りないので、「生命関連分子地球外運搬説」を裏付けられるほどではありませんが、細かい条件をいろいろ変えても同じ結果が出れば、論文にまとめて世界に発表しようと思っています。そのための条件づくりには大変な手間がかかりますので、CCTさんには引き続きご協力をお願いしたいと考えています。

―ありがとうございます。そのほかでお役に立ったことはありますでしょうか?

私にとって流体シミュレーションの領域はまったくの畑違いなので、必要な人脈がなく苦慮していました。そこでCCTさんにDISPHの研究者を紹介いただき、研究チームに加わっていただいたのは本当に助かりましたね。
また、シミュレーションは国立天文台のスーパーコンピュータを使って行っていますが、その申請手続きには分野特有のノウハウが求められます。その点、CCTさんが緻密にコンサルティングしてくれたおかけでスムーズに研究を進めることができました。

アストロ様事例4
アストロバイオロジーセンター鈴木様とCCT柴田

―ありがとうございます。最後に、今後CCTに期待することがあればお聞かせください。

シミュレーションそのものではなく操作性の話になってしまうのですが、贅沢をいえばGUIがさらに充実するとありがたいですね(笑)。そんな欲が出てしまうのは、技術面でも学術的な知見でも全面的に信頼ができるからです。そもそも、衝突シミュレーションを行うためには、最新粒子法の活用だけでなく、初期条件を適切に設定することも非常に重要です。CCTさんは、その条件設定のコードから開発してくれていますので、この研究には欠かせない存在となっています。
装置開発ではなく、こうした基礎研究の部分で民間企業に協力してもらうのはレアケースですが、CCTさんにお願いをして本当によかったと思っています。

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